第94話 続々集まる
ルスト公爵から依頼を受けてから二日後、僕たちはボールドンへと向かう。今回は要人を出迎えるための一団に混ざっていくので馬車での移動である。
各国の使節団は必ずボールドンを通ることになるので、ボールドンに着いた使節団は一旦宿屋に泊まってもらい、順番にルストへ向かうことになると公爵は言っていた。
ルストに着いてからの宿泊はルスト街にある宿屋だけでは足りないため、馬車で半日ほどの位置にある宿場町を町丸ごと貸し切っている。クリスやオルレアさんたちとともにボールドンへ向かう際に寄った大浴場がある宿場町である。あそこであれば長旅で疲れた身体を癒すことができるので持て成しとしては十分だろう。
一週間ほどかけてボールドンへ着くと、僕たちは城内に入り自身が担当する使節団を待つことになった。すでに招待国の半数が到着していたので、僕たち一団の中には殆どトンボ返りとなってしまった人たちもいる。何を隠そうダラスたちもその中に入っていた。
「ようこそおいでくださいました、イーゴリ王太子殿下。私は殿下がご滞在中の世話役を仰せ使っておりますボガードと申します。お困り事がごさいますれば、どうかご遠慮なくお申し付けください。」
「うむ、名門ボガード伯爵家であるな。短い期間ではあるが、よろしく頼む。」
ダラスたちがペリシェ王国の使節団と挨拶するというので付いて行くと使節団長はイーゴリ王太子であった。初めてあったときとは印象が異なり、何だか余裕ある貴族の振る舞いになっている。
「久しいな、英雄ダラス。今回、私は使節団の警護隊長を務めている。こうして殿下のお側で働けるのも、命を救ってくれたお主たちのおかげだ。改めて感謝する。」
「おいおい。止してくれ、ニコライ。騎士団長が頭を下げちゃマズいだろう。俺たちは仕事をしただけだし、あんたらを助けたとも思っちゃいない。ただ対等な立ち場で戦場を共にしただけ、そうだろう?」
「ふむ、流石は英雄殿だ。その懐の深さには感服する。」
「何だか調子狂うな、おい…。」
何だかんだとダラスの功績は英雄に相応しいもので溢れている。セザルデルとの戦争といい、ギガントロックとの戦いといい、ダラスはとても数え切れないほどの人たちを救っているのだ。
ダラスはあまり好きではないだろうが、こうして仲間が褒められるのは素直に嬉しい。『粘り腰』ダラス、ここにあり、である。
「がははっ!いいじゃねぇか、リーダー。そんだけリーダーも有名人になったってこったろ?流石にシュウほどじゃねえけどな。」
「え?僕?」
僕が静かに喜んでいるといきなりガジがこっちに話を振ってくる。
「シュウってやっぱり鈍感だよね。自分の噂も知らないんだから。」
「…噂ってどんな?」
エリーの言葉に僕は身構える。今までのことを考えると碌な噂ではないような気がする…。
「大陸最強とか、神の生まれ変わりだとか、人助けが趣味の狂信者とか。もうこの大陸じゃ知らない人はいないって商人の人が言ってた。」
ノォォォ!!だから出来るだけ目立たないように気をつけてたのに…。なんでそんな噂が流れてるんですか!
「それなら私も聞いたことがあるぞ。『飛竜刈りの騎士伝説』であろう?そうか、あれはシュウのことであったか。」
イーゴリが話に入ってくる。何ですか、そのタイトル?
「ほら、シュウがドラゴンを倒したことを歌にしたでしょ?あの歌が人気で続編形式で新作が出るから、全部の歌を総称して呼ばれるようになったの。
名前は出てないし、主人公は姫の護衛で後に選ばれし騎士であることがわかるっていう内容だけど、事実と照らし合わせれば誰のことかなんてすぐに分かるから最強の準男爵が大陸にいるって噂は商人を中心に拡がってるってわけ。」
新作って絶対メアリーお嬢様の仕業だよな…。と思いつつボガード伯爵のほうを生暖かい目で見ると娘の功績に気を良くしているのかドヤ顔でウンウンと深く頷いていた。
まぁ、名前が伏せられているのは不幸中の幸いか。今後は出来るだけプラチナ冒険者であることを隠すことにしよう。
◇◇◇
ダラス達が同行するペリシェ王国の使節団を見送った後、僕は月下聖教の教会へ顔を出すことにした。
アヅィール聖法国は月下聖教の総本山である。そのため使節団は月下聖教のボールドン支部に泊まっているのである。
「おぉ、シュウ殿か。先の件では謂れのない罪で迷惑をかけてしまった。ボドワンの策略とはいえ、あ奴を野放しにしたのは国の中枢を担う我々の不徳の致すところだ。改めて謝罪させてほしい。」
「いえ、過ぎたことです。私も気にしていないのでどうか頭をお上げください。それよりも猊下、ボールドンの街並みはいかがですか?」
僕が教会の中に入るとブノワ枢機卿が祈りを捧げている最中だった。集中していたため暫く気付かなかったようだが、祈りを終えて漸く僕のほうへ顔を向けてくれた。
ブノワ枢機卿は僕たちがゴーレムと対峙する直前に帰ってきたので、僕が冤罪で捕らえられていた件については直接的に関わっていない。それでもこうして謝罪してくるのは枢機卿としての誇りと責任感からだろう。
僕としてはもう終わった話なので、ぶり返されても何と言えばよいかわからないため、早々に話題を変えることにした。
「以前にも訪れたことがあるが、その時よりもだいぶ活気に満ちているように感じる。これは経済が良く回っている証拠だ。勉強になっておるよ。」
「ここボールドンは今までカルカス国の首都として担ってきましたが、首都がルストとなることでボールドンは中継都市として物流の拠点となる必要があるとルスト公爵閣下は言っておりました。猊下が変わったと感じられるのはそのためでしょう。」
「なるほどな、新国主殿は治政の手腕がおありのようだ。」
「ブノワ枢機卿、またそのような硬いお話をなさっているのですか?」
僕とブノワ枢機卿が話している間に割って入ってきたのは司教であった。隣にはルナもいる。
正直苦し紛れに話題を逸らしたはいいものの、このまま治政の話をされてもさっぱりだったのでここは全力で司教に話を振る方向に舵を切ることにする。
「司教、お久しぶりです。子供たちは元気にしていますか?」
「これはシュウ様、ようこそおいで下さいました。子供たちは初めこそ戸惑っておりましたが、今ではここの生活にも慣れ元気に暮らしておりますよ。ぜひ孤児院の方にも足をお運びください。」
「子供たちとは例の人攫いどもに監禁されていた子供たちのことか?」
よし、食いついた!
「そうです、猊下。シュウ様方が賊から助け出した子供たちです。カルカス国からテルトーダ首長国へ向かう間にある町へ預けられていたのですが、あそこの孤児院では全員を見ることができなかったためボールドンの孤児院で預かることになったのです。幸いにもこちらの孤児院は余裕がありましたし、物資にも困っておりませんから。」
「ふむ、そうか。では後ほど儂も視察するとしよう。大地を尊び、隣人を助け、子を護るのが月下聖教の教えなのでな。」
ブノワ枢機卿の言葉にルナがウンウンと肯いてる。なんであなたがドヤ顔をしてるんですかね…。
そうして四人で話した後、子供たちのわんぱく加減を身を以て確認した僕は城へ戻ることにした。
◇◇◇
次の日。
アヅィール聖法国の使節団はシルとジルにバージェ伯爵を伴って朝一にルストへ向けて出立していった。ルナがいるので二人がルナ贔屓な対応にならないか心配だが、まぁ上手くやるだろう。
その暫く後、ついに僕が同行するテルトーダ首長国の使節団がやってくる。
「この度はお越しいただき感謝いたします、テヒト首長。私が今回の案内役を務めますアルスカインでございます。よろしくお願いいたします。」
「アルスカイン特別侯爵殿。貴殿とは書状を重ね気心が知れた仲だと思っておる。テルトーダへ帰るまでの間、世話になりますぞ。それに冒険者シュウ、お主も息災で何よりじゃ。」
「テヒト首長もご健勝のご様子。この度はよろしくお願いいたします。」
「さぁ、長旅でお疲れでしょう。今宵はささやかではございますが持て成しの料理を取り揃えております故、是非ともご堪能下さい。」
「それは楽しみじゃ。アルスカイン殿よろしくお願い申す。そして、シュウ。ルストまではまだ暫くある故、時間が許す限りテルヒトの昔話を教えてやろう。」
「あれ?テヒト首長はちゃんと発音できるんですね。」
テルヒト、今でいう『仮面の七人』リーダーのテルの転生前の名前は三原照人だ。しかし、テルヒトという名前はこの世界の人には馴染みがないそうで、正しく呼んでくれないのだと以前に嘆いていたことがある。それを知っていたのでテヒト首長がしっかりと発音できたことに驚いたのである。
「テルヒトとは長い付き合いなのでな。ここだけの話、必死に練習したのじゃよ。」
テヒト首長はニヤリと笑いながらこっそりと僕に教えてくれた。
その後、テルトーダ首長国の使節団を城へ招いての酒宴の席で僕はテルの昔話をこれでもかというほど聞かされることとなる。一つわかったのはテヒト首長のテルに対する忠誠が生半可なものではない、ということだ。テルを語る熱量が凄すぎて離席するタイミングが一切なかった…。
そして二日後、僕たちはルストへと旅立つ。その入れ違いで最後の来賓であるナインフォセア王国の使節団も到着したらしく、僕たちがテルトーダ首長国の使節団をルスト城へ招き入れた頃、クリス達がルスト近郊の宿場町へ到着したという知らせを耳にした。
こうして時間は過ぎていき、ついに宣誓式当日を迎えるのであった。




