第93話 要人警護依頼
「それで話って何ですか?」
僕たちはルスト公爵とアッガスが来たので場を取り直すことにした。もちろん椅子に座り直して。
「もう聞き及んでいる者もいるかとは思うが、私が正式にカルカス国の国主となるために各国の要人を集め宣誓式を行うこととなった。これは私が公爵として国主になりカルカス公国が樹立され、ルストが正式な首都となるだけではない。テルトーダ首長国との国交樹立を宣言し条約を調印する場でもある。
そのため、テルトーダ首長国からはテヒト首長が訪れるので身辺警護をする者もそれなりの者を遣わす必要がある。よって、宣誓式の警備は騎士団の面々が行うが要人たちの警備は隊長たちとそなたらに依頼したいと考えたのだ。
蒼天の牙はペリシェ王国との親交も厚いと聞く。それにシュウはテヒト首長と知った仲だというではないか。どうだ、カルカス滞在時の要人警護の任を受けてくれんか?」
ルスト公爵の頼みとなれば蒼天の牙は二つ返事で了承するだろうが、僕としては慎重に行きたいところである。だって、ルスト公爵の頼まれ事を引き受けて何もなかった試しがないんだもん………。
「そんな大事な役目、僕たち冒険者に任せても良いんですか?自分で言うのもなんですが、僕たちでは無礼を働いてしまいかねませんよ。」
「そのことについては配置を考慮するつもりだ。
先ほども言ったようにダラス、ガジ、チョボの三人はボガードとともにペリシェ王国から来られる使節団の相手をしてもらう。シルフィードとジルベスターにはバージェとともにルナーリア様とアヅィール聖法国から来られる使節団をお願いしたい。
そして、シュウはアルとともにテヒト首長をはじめとしたテルトーダ首長国の使節団を案内してほしいのだ。」
「アルスカイン特別侯爵がテルトーダ首長国の使節団に付くんですか?ナインフォセア王国からも使節団が来るんですよね。力関係としてはそちらにアルスカイン特別侯爵が行かれる方が自然な気がしますが。」
「確かに普段であればそうだな。だが、今回は条約締結を兼ねているうえ各使節団の中で最も位が高い人物となるのでテルトーダをアルに任せることとしたのだ。
それにナインフォセア王国の使節団は向こうからの要請でクリスチャーノのオルレアが対応することとなっているので心配ない。」
あぁ、何となくだけど誰が来るか分かった気がする。
「それぞれの使節団に文官職の方が付くのでしたら尚更僕はいるんでしょうか。」
「基本的に使節団は守備隊を伴っているので本格的な警護はその守備隊に任せればよい。だが、こちらは招待する身だ。どんな些細なことで軋轢を生むか分からん以上、案内役に警護が出来る者を加えるのは当然だろう。」
「でしたら僕よりもマスターアッガスのほうが適任ではありませんか?プラチナと言っても僕は成り立てで日が浅いですし、知名度もそこまで高くありません。アルスカイン特別侯爵がリードしてくれるのでしたらアッガスさんのほうが向いていると思います。」
どうだ!この正論ならば言い返せまい!僕は何としても今回の依頼は回避してやるのだ!
「アッガスは別の依頼があるので宣誓式には参加せん。」
「………。え?別の依頼、ですか?」
「うむ。ある確かな情報筋から近々このルストにもダンジョンが出現する兆候があると分かった。今はまだ伏せておくが出現予想地域もすでに分かっているので、アッガスとダリアンにはそこの監視を頼むことになっておる。
アルの忠臣である左大臣と右大臣はボールドンを離れることができんうえ、ランド総隊長はカルカス軍守備隊の総指揮をせねばならんので人手がない。要するに頼れるのはシュウ、そなたしかおらんという訳だ。よろしく頼むぞ。」
…ド正論で返されてしまった!!
その後も苦し紛れに抵抗してみたが、結局は依頼を受けることを約束させられてしまった。というか、いつも通り僕には拒否権がないのですね。とほほ………。
◇◇◇
皆での話が終わった後、ルスト公爵とアッガスは別室で話し合うというので僕たちもギルドで食事を取ることにした。
「しっかし、聖女様が俺たちと同じテーブルに着いてるってのが不思議でならねぇよ。なぁ、リーダー。」
「まぁ、そうだな。聖女は能力だけでなく容姿も一流だと噂で聞いていたが、噂通りの美人で驚いた。」
「あら、英雄ダラスさんはお口が上手いのですね。どこかの女心の一つも分からない英雄様にも見習って頂きたいところです。」
あの…。それ誰の事言ってますかね、ルナさん?
「別にお世辞で言ってるわけじゃねぇよ。あんたみたいな美人は男だったら誰でも放っておかないだろうぜ。特にこんな野蛮なところじゃ尚更だ。いくらシュウたちがいるとはいえ気を付けてくれよ。」
「おい、リーダー。それじゃあまるで口説いてるみてぇじゃねぇか。あんたはセルマがいるんだからここは俺に譲れよ。」
「はぁ?なんだ、その譲る譲らねぇってのは。別に俺は聖女様を口説いてるわけじゃねぇし、こんな話時自体が聖女様に迷惑だ。まぁ、確かに聖女様に比べればセルマは少しばかり見劣りするかもしれねぇが、俺はガジと違って下心なんざ持ってねぇよ。」
「あ………。リーダー…?」
ガジはダラスの後ろの気配に気づくと顔を青ざめさせて固まってしまう。
「ん?なんだよ、ガジ。」
「誰が見劣りする女ですって?」
その言葉を聞いたダラスも後ろに立つ人物に気付いたらしい。声を聞いた瞬間にピシャリと背筋を真っ直ぐにしてぎこちなく首を後ろへ向けていくと、そこには額に青筋を立てて般若の顔をしたセルマさんが立っていた。
「あ…はは…。よ、よぉ、セルマ。仕事はいいのか?どうした、そんな恐い顔して。愚痴なら聞くぞ。」
「そう。それはよかった。それじゃあじっくりと聞いてもらいましょうか、別室で。根掘り葉掘り。」
「や…。いやぁ、今は久しぶりにシュウと飲んでるからなぁ。あ、後で構わな………。」
「いいえ。今すぐに聞いてもらいましょうか!今、す、ぐ、に!!」
そうしてダラスはセルマさんに首根っこを掴まれて引きずられながらギルドの奥へと消えていった。
「それはそうとシュウ様。先ほどのダンジョンの話ですが。」
皆がドナドナのように悲しい目をさせたダラスを見送るのを余所に、ルナがそっと僕に話しかけてくる。なんとマイペースなガイド様だ。
「ルストが言っていた情報提供者とは私とケーシーのことです。あなた様もケーシーに連れられて一度見に行ったかと思いますが、林の奥でケーシーが封印していた場所こそが出現予想地域となります。」
「それってあのサークルがあった場所のこと?」
サークルとは、僕がアヅィール聖法国へ行く前にシーちゃんに連れられて入った林の中にできていた謎の円である。空を飛ばなければ全貌もわからないほど大きな円がいくつも重なり合っており、見た時はまだ発展途上だったのだ。
「そうですね。あのサークルはダンジョンが現れる兆候です。サークルがある程度の大きさになるとそこから洞窟が生まれダンジョンの入り口が出現します。ダンジョンは別世界へ続くと言われていますから、そこから魔物が出てくる可能性もあるのでアッガスに見張ってもらうように頼んだのです。」
「そうか。あの場所はルスト街からもそう遠くない。そんな場所からいきなり魔物が出てきたら対処できないもんね。でも、本当にそうだとしたらこんなに悠長にしていて大丈夫なのかな?」
「それは問題ありません。私も一度見てきましたが、あの大きさなら完全な入口となるまでにもう暫く時間がかかるでしょう。とはいえ、一か月ほどもすれば出来上がるでしょうから油断はできませんが。」
「一か月って言ったら宣誓式を行う時期に被るのか。要人たちが来るって言ってたから大事にならなきゃいいけど。」
「どんなダンジョンが出来上がるかは何とも言えませんからね。シュウ様もいつでも対処できる心構えをしておいてください。」
「ありがとう。何だか本格的にガイドっぽくなってきたね。」
「ガイドっぽいではありません。私は最初からあなた様を導いているではないですか。もう忘れたのですか?脳みそ詰まってないのですか?」
………。僕のガイド様は言い過ぎる癖があると思います!
「おい、お二人さん!何こそこそ話してんだよ!俺たちも交ぜろよな。」
ガジが僕たちに気付いて話しかけてくる。中々に出来上がっているらしく、少し面倒くさい絡みをするようになってきている。
「いえ、ただシュウ様はもう少し勤勉になさらないと将来一文無しで野垂れ死にますよ、とご忠告していたまでですよ。」
何爽やかな営業スマイルで言ってくれちゃってるんですかね、このガイドは!
「がっははは!シュウもリーダーと同じで尻に敷かれるタイプだったってわけか!」
「ちょっ、ガジ!?」
「「「シュウ…?」」」
い、いや、何でシルとエリーはこちらを睨んでくるんですか?っていうか、そこにジルが加わる理由は何!?君らが信仰する神の使い様には指一本触れてませんよ!?
「うふふ、シュウ様は随分と愉快なお仲間に囲まれておられるのですね。」
こいつっっ!!他人事だと思って!この窮地にこそ次の道標を示しなさいよ、ガイドなんだからぁ!
そこからは、何故かエリーとシルとジルの三人から説教を二時間ほどたっぷりと聞く羽目になってしまうのだった。………。なぜ?




