第40話 彼の目標
時間は少し遡り、フィックの葬儀が執り行われた日の夜。
「代表。お話とは何でしょうか?」
夕食の後。サラヴィスはノボルから呼ばれ、日中とは打って変わってすっかり静まり返った館1階の葬儀場に訪れていた。
「ちょっとサラヴィスに大事な話をしようと思って呼んだんだ。まあその辺に座ってくれ」
葬儀場の中ではノボルがあぐらをかいて座っている。そして彼から促されてサラヴィスもゆっくりと腰を下ろした。
「まずは色々とお疲れ様だった。それとサラヴィスだって友達のフィックが亡くなって辛かっただろうに、そっちのおかげできちんと葬儀ができたよ。本当にありがとうな」
神妙な面持ちのノボルは深々と頭を下げる。
するとこれに驚いたサラヴィスは慌てた様子で勢いよく首を横に振るが、彼は頭を上げてからしばし時間を置いてさらにこう続けた。
「そこで礼の代わりとして。素性のすべてとまではいかないが今話せることを伝えようと思う。余計なことが口をつくのも嫌だからそっちは黙って聞いててくれ」
想像していなかった提案に目を丸くするサラヴィス。
だがノボルから「心配しなくても変な嘘をつくことはない。そこは信用してくれ」とまで声をかけられたことで、彼女はぐっと口を閉じて何度もうなずく。
そしてノボルは大きな深呼吸をした後、口を開いた。
◇◇◇
サラヴィス。
俺のスキル・『霊魂の解放』はお前も見た通り、魔物化した亡骸に閉じ込められているままの、生前の人間の魂を解き放つ効果を持ってる。
これは俺の恩人で知識も豊富だったアドフン・クァークさんでさえ、名前は聞いたことあったものの「実物を見るのは初めて」って話してたほどの珍しい能力らしい。もちろんどうしてそんなものを俺が使えるのか理由は分からない。
だが俺は自分の能力にある疑問を抱いた。具体的に言えば「魔物化していない普通の人間の遺体にこのスキルは発動するのか?」ってな。
そこで……俺は過去、魔物化していない人間の遺体にスキルを発動させようと何度か試みたことがある。
だが結果はもちろん駄目だった。
路上で息を引き取った貧困層の人たち。目の前で横たわるそんな死者に対していくらスキル名を詠唱しても効果は発動せず、魔物の葬儀の時のような魂なんか出てこなかった。
このようなことを経験した俺はある仮説を立てたんだ。
『とにかく魔物化さえしなければ、死んだ肉体からその人の魂は分離することができる』っていう仮説を。
ただ同時に別の疑問も思い浮かんだ。
この仮説に沿って考えてみると、スキル・『霊魂の解放』がなければ魔物と化した肉体の中には、生前の魂はいつまでも閉じ込められたままだという見方もできるはず。
……そうであれば。
俺のスキルの効果を受けずに魔物処理場で焼却されてしまった亡骸、これらから分離されていない状態の魂はどうなっているんだ?
これまでハンターに倒されて焼却処理されてしまった魔物たち。それらは当然ながら、俺から弔われていないことの方が圧倒的に多い。
彼らの、もしくは彼女らの。
閉じ込められたままの魂は肉体が燃やされた後、どんな末路をたどっているのだろうか……?
◇◇◇
一旦話し終えて息を吐くノボル。暗い表情の彼の顔を見つめながら、サラヴィスは口を閉ざしたまま思案する。
ノボルの話した内容はうなずけるところが多い。
魔物専用葬儀場に運ばれ、ノボルの手によって弔われた魔物たち(と生前の魂)には『救い』がある。彼女はもう何度も『霊魂の解放』によって解き放たれた魂を目撃しており、それらがノボルに向かって感謝を述べる光景も見てきたからこそ、一層こう感じている。
だがノボルが抱いている疑問も一理ある。そもそも彼から弔われず、魔物処理場で焼却されることの方が一般的なのもまた事実だ。
それらの体の中に閉じ込められているはずの魂は、一体どのような状態になってしまっているのか。
サラヴィスがこのことを深く考えながら口元に手を当てて難しそうな顔をしていると、ノボルは少し身を乗り出してこう口を開く。
「そしてサラヴィス。俺はアドフンさんが抱いていた『1体でも多くの魔物が弔われて欲しい』という夢を継承したっては前に話したよな?」
これにうなずくサラヴィスを見てノボルは「だが実は俺はこれを少し発展させた、もっと具体的だと言える目標も抱いてる」と続けた。
「それは……全世界に点在している魔物処理場を巡って、スキル・『霊魂の解放』を発動させてみることなんだ」
力強く発せられたノボルの言葉に息を呑むサラヴィス。
「ひょっとしたらさ。すでに亡骸は焼却されてるのに、その元の持ち主である魂は処理場周辺に留まっているままかもしれない。それあんまりにも……気の毒じゃないか」
もちろんノボルだって『霊魂の解放』によって解き放たれ、現世から消滅する魂の行きつく先など知らない。
この異世界で信じられている死後の世界へと向かうのか、それとも日本で生まれ育った彼が想像するような冥界へと送られるのか。もしくは即刻、別の何かへと生まれ変わるのか。
だからノボルにとって解放した魂がたどり着く場所というのは二の次。そんなことを難しく考えるよりもまずはやるべきことがある。
「俺はとにかく魔物化した肉体の中で苦しんでいる魂を解放させたい。たとえば、もし現世を離れられない大勢の魂たちが処理場に取り残されたらかわいそうだろ? それを助けるのも俺の役割だと思うんだ」
そしてノボルは「以上が今回サラヴィスに伝えたかったことだ。ちょっと分かりづらかったかもしれないが……」と坊主頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
しかしサラヴィスにとってこの話をされたことに不満などない。
ノボルが明かした内容には価値がある。次回はいつ呼び出されるのか分からないが、諜報部の上官に任務の途中経過を話す場でも十分報告できるものだ。
「……」
だがその一方で、黙り込む彼女の頭にはよぎってしまった。
もし可能であれば、自分もノボルが抱くその『目標』の手伝いをしたい。
フィックのように不幸にも魔物になってしまった人たちの魂を、彼と一緒に少しでもいいから救ってあげたい。
ディケからのスパイであるサラヴィスが本来思ってはいけないような、こんなことを




