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第22話 救い

「こ、ここが魔物専用葬儀場ですか……」


 花束を抱えながら部屋へと足を踏み入れたボレゾアは思わず息をのむ。


 真っ白に統一された内装。台座とその上に乗せられた棺。床には見たことのない道具が並べられている。


「せっかくだから葬儀する時の準備をしておいたよ。さすがに棺の中に魔物はいないがな」


 雑誌に載っていた『魔物の葬儀をしているという変人』の噂話に関心を抱き、わざわざ家族を連れてィクス国の首都・レバク市に移住したというボレゾア。


 こんな移住の経緯を耳にしたノボルとサラヴィスは本番の葬儀同様のセッティングをして、ボレゾアは興味深そうにそんな葬儀場の中を見渡す。


「でも見て分かる通りちょっと淡白で、手向けにもなる花も欲しかったんだよ」


 こう話すノボルはボレゾアと、彼の後ろについているフィックが持つ花束に目を移す。だが花類に明るくない彼でも見てすぐそれに違和感を覚えた。


「……あれ? これってもしかして造花?」


 すると少し驚いたようなノボルの反応を見たフィックは、嬉しそうに微笑みながらこう口にする。


「正解です! この葬儀場に置く分、そしてお客様の恋人だという方に渡す分は、どちらも造花になっているんです! よく分かりましたね!」


「よしサラヴィス、まずは話し合おう。いつカグリゥが俺の恋人になった?」


「す、すみません! だってカグリゥさんの説明をするとややこしくなってしまって!なので最終的には分かりやすく『恋人に渡す花』ってお伝えしたんです!」


 それまでフィックのそばを陣取りながらも、なかなか話しかけることができない様相だったサラヴィス。しかしノボルからの圧には思わず上ずるような声を出してしまう。


「だからってもうちょっと言い方あるだろうが! 『知人の女性』とか言えば済むものを!」


「で、でもきちんとカグリゥさんに似合うものを選んだので許してください! フィックさんが持っている花束がそれなんです!」


 慌ててフィックの陰に隠れるサラヴィスの言葉を聞き、目くじらを立てたノボルは花屋が用意した花束を確認する。


 ボレゾアが持っているのは葬儀場用。青々とした葉に囲まれた白い花と黄色い花がよく映えている。

 フィックが抱えているのがカグリゥ用。緑色の葉はやや控えめながら情熱的な赤い花が目立つ。


「カグリゥさんっていつこちらに来るか分からないですし。でもご自宅に配達するよりも直接渡した方が……と思いまして。それならこの造花がおすすめだってフィックさんから言われて……」


 するとフィックも変わらずの笑みを浮かべて「はい! わたしも心を込めてこちらのお花をご用意いたしました!」と、ノボルに向かって元気よくうなずいた。


「……そっか。分かった。まあでも確かに綺麗は綺麗だよ。ありがとう」


 ノボルは口を尖らせながらもフィックから花束を受け取り、まじまじと花を見つめ小さく感謝を口にした。


「お客様、それは本人も言う通り妹が丹精込めて準備したものです。お相手の女性も喜ばれるかと」


 さらにそれまでのやり取りを静かに見守っていたボレゾアもノボルに近づいてそっと囁く。それから今度は自身が抱えている、葬儀場に置く花についての説明を始めた。


「もちろん生花も素敵ですが、手入れのことを考えると造花にも利点がございます。亡くなった方々の手向け用のものも、人間の葬儀でよく使用される花を模したものをご用意しましたので」


 そしてボレゾアはこう話しながら棺の方へと移動し、棺のそばに花を飾り始めていくのであった。


◇◇◇


 それからしばらくして。


「あっ。フィックお姉ちゃんたちここにいた」


 ナシィー家の次女ポーレウス。彼女は館の中を探検していた末っ子の次男リクァツをようやく捕まえて、まだ小さなその手を引き葬儀場に入る。


「うわー綺麗な花がある! うちのやつだ!」


 そしてそんなリクァツが見せた無邪気なこの反応通り、棺が置かれている台座の両側は白と黄色の花によって華やかに彩られていた。


「これらの花は基本的には腐りません。しかし劣化はしますから異変に気づきましたら連絡をください」


「分かった。それにしてもすっかり鮮やかになったな。助かったよ」


 ノボルは台座周辺を眺めながらその仕事ぶりに満足し感謝を口にし、隣に立つサラヴィスも大きくうなずく。


 するとここでボレゾアは、合流したばかりの2名とフィックに「ほら、今朝話したように自分と同じことをするんだよ?」と囁きながらノボルたちのもとに近づいてくる。


「……?」


 その光景を見て怪訝そうに首を傾げるノボルとサラヴィス。そんな両者の目の前に、花屋を営むナシィー家の面々はかしこまったように横一列に並んで……揃っていきなり頭を下げてきた。


「な、何? いきなりどうしたんだよ?」


 突然のことに驚くノボルだが、ボレゾアは緊張しながら屈強な体を縮ませてこう懇願する。


「お客様。魔物について自分たちに色々と教えていただきませんでしょうか? 家族一同、両親の死について色々と知りたいんです」


 ボレゾアだけなくフィック、ポーレウス、7歳のリクァツさえまだ頭を上げない。


「い、いやあ。魔物についてと言われても……」


 困ったように坊主頭を掻くノボル。だがずっとこのままというわけにもいかないので、そばにいるサラヴィスに目配せもして「と、とにかくその場に座ってくれ」と伝え、自分たちも腰を下ろす。


 それからも彼は少し「う~ん……」と悩むような素振りを見せるが、先日聞いたボレゾアからの話を思い返しつつこう告げた。


「まあ……とにかく俺は『生前に大きな罪を犯した者の死体だけが魔物化する』ってのは嘘だとは思うよ。どんな善人だって魔物に転ずる可能性はある」


 これを聞いたボレゾア……の前にフィックが、前のめりになって目を見開く。


「そ、それじゃあ。わたしたちの両親も!」


「俺はそちらの親のすべてを知ってるわけじゃない。でも……話を聞く限りだと極悪人だったとも考えづらいよな」


 さらにノボルは続ける。


 自身は魔物の生態やその変貌過程について詳しいわけではない。知らないことだってたくさんある。だがナシィー家の両親が揃って魔物化してしまったのは「低確率で起こる不運だった」のではないかと。


「まあ現時点で話せるのはここまでだ。それと悪いけど、俺が魔物の葬儀している理由ついては話せない。色々と……その、ややこしい事情があるんだ」


 ノボルが魔物の葬儀を始めたのには大富豪アドフン・クァークが関係するのだが、ボレゾアたちにそこまでの話はできない。それに当然サラヴィスにも明かしていない素性を明かせるはずもなく、ノボルはそれ以降、口を閉じてしまった。


 この姿を見てボレゾアもそれ以上は踏み込むことない。再びそのモヒカン頭をノボルに向けて下げるだけだ。


「……かしこまりました。とにかく今日は自分たちの両親が罪を犯すような人間ではなかったと改めて信じられる材料をいただけました。それだけで救われますから」


 そんな行動を真似て、座っているフィックたちもノボルに対して不慣れながら会釈を行う。しかしさすがにノボル、さらに静かに隣で座っていたサラヴィスもこれには胸を痛めてしまった。


 そこで。ノボルはおもむろに立ち上がりサラヴィスに指示を出す。


「サラヴィス。この4人を2階のダイニングにお連れするぞ。茶菓子とかまだ残ってただろ。ゆっくりくつろいでもらおうか」


「……っ! そ、そんなお客様にそこまでしていただくのは忍びありません! さあ皆、花屋に戻ろう!」


 ノボルの言葉にボレゾアは慌てた様子で帰り支度をしようとするが、これまでずっと静かにしていたサラヴィスがようやく口を開いた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 大きく息を吸って吐き、彼女は叫ぶ。


「わ、私はフィックさんともっともっとお話をして仲良くなりたいんです! そ、それにナシィー家の皆さんとも! だ、だってせっかくこうやって出会えたわけですし……」


 さらに「で、ですから……。そ、それで……」と言葉に詰まりながら続けようと試みるサラヴィス。だがノボルは「もうそれ以上は大丈夫。よく言えたな。偉いぞサラヴィス」と彼女のことを制した。


「見てみろよあのフィックの顔。めちゃくちゃ嬉しそうだぞ?」


 なぜならサラヴィスの想いを聞いたフィックが、これまでの中で最も嬉しそうな、最大級の笑顔を見せていたからだ。


「というわけで。今からうちのサラヴィスと仲良くお話をしてくれるかな、素敵なお花屋さん?」


 こんなノボルの問いかけにボレゾアだけは「本当にすみません」と恐縮するものの、それ以外の3人は元気いっぱいに「「「うん!!!もちろん!!!」」」と返事をしたのだった。

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