第21話 お花のお届け日
「おいサラヴィス、もうすぐ花屋が来るんじゃないか?」
「は、はい! 分かってます!」
今日はノボルが注文していた花が届く日。
花屋を営むナシィー家の面々が、商品を手にこの館に訪れる約束の時間はもう間もなくだ。そしてその時刻が近づくにつれて、サラヴィスは落ち着きのないそわそわとした様子を見せ始めた。
「もしかして花屋と会うのに緊張してるのかお前?」
館1階。玄関のすぐ近くで待機をしている両者だが、いつも通り袈裟を着ているノボルはそんなサラヴィスに声をかける。
「だ、だってフィックさんとまた会えると思うと。この前は仲良く話せたと思っているので……」
だが彼女が浮かべているのは恥ずかしそうな、しかしどこか不安そうにも見える表情。そしてサラヴィスは小声でこうこぼした。
「あの……代表。友達ってどういう風にお願いしたらなれるものなんでしょうか?」
彼女はスキル・『内心の開示』を発現させて以降、友人など作ることができなかった。
教育熱心な祖母のおかげで貧困層の支援者が運営する学校へは通えていたが、周囲は面倒な能力を有しているサラヴィスのことを気味悪がるばかり。そのため同世代によるコミュニティからは孤立した状態に。
そのうえ両親の死後はすぐにその学校を退学し、どうにか就けた仕事も稼ぎの少ない内職ばかり。他の仕事をかろうじて見つけられてもやはりスキルのせいで長続きせず、ディケの諜報部入局直前は祖母の看病のみに集中していた。
しかしそんなサラヴィスにとって大げさでもなく『希望の光』となりそうなのが、花屋で出会った天真爛漫な14歳の少女・フィック。
「私はフィックさんと友達になりたいんです。この面倒なスキルも気味悪がったり嫌がったりしないで、むしろ『凄い』って褒めてくれたし」
ノボルがボレゾアから魔物化した両親に関する身の上話を聞いていたちょうどその頃、サラヴィスはフィックと急激に関係を深めていた。
当初はスキルが発動しないようにと口を閉ざしていたサラヴィス。だがそんな彼女に向かって、フィックはお構いなしに明るく積極的に話しかけてくる。
するとサラヴィスは次第にその圧に押され根負けしてしまい、とうとう花屋へと来た要件を伝えた。
「でもあのフィックっていう子。お前のスキルを気味悪がることしなかったんだろ?」
「は、はい。むしろ凄く興味を持ってくれて、なんなら褒めてくれて……」
会話を行うことで当然発動したサラヴィスのスキル。だがフィックはむしろその能力に関心を抱き、さらに身を乗り出して言葉を交わそうとしていく。
当初は恐る恐るだったサラヴィスもそんなフィックに心を開くようになって、気づけば両者は文字通り『腹を割って』お互いのことを話す間柄になったというのがここまでの過程だ。
「良いことじゃねえか。世の中にはそういう人間もいるってことだよ」
花屋が来るのを玄関の扉の近くで待っているノボルとサラヴィスだが、緊張しているのか目を伏せているサラヴィスに向かって、ノボルは諭すようなトーンで声をかける。
「なあサラヴィス、友達なんてのは自然にできてるもんだよ。わざわざお願いしてなるもんじゃない」
サラヴィスはこの言葉を聞き、ハッと顔を上げてノボルのことを見つめる。
「そもそもあっちはもうお前のことを友達だって思ってるだろ。だからそんなに気負うなよ」
「代表……」
真剣な眼差しで言葉を紡ぐノボルだが、サラヴィスからの視線に気づくとすぐに表情を崩して意地悪そうに口角をニヤリと上げた。
「まあでも気をつけろよ? もしかしたら仲良くなる演技をして高額商品を買わせるっていう、悪徳商法的な営業方法かもしれないかな!」
「……ちょ、ちょっと! せっかく前向きになれたのに、何だかまた不安になってきちゃったじゃないですか!」
「悪い悪い、冗談だよ! でもフィックとはきちんと会話するんだぞ? どうせお前のことだから、自分がディケからのスパイってことをもう明かしちゃってるんだろうし。遠慮することないだろ」
これにサラヴィスは気まずそうな様子を見せ、口を閉ざして小さくうなずく。
「やっぱ図星か。まあでもカグリゥの時にも言ったが、ディケもお前のスキルの反動について理解してる以上、誰に素性がバレても大丈夫な計画ではあるんだろ。俺はよく分からんがな」
するとノボルが呆れた口調でこう言ったところで、扉の向こう側から声が聞こえてきた。
「おっ。来たかな? にしても4人の客人を一気に館に入れるなんて、葬儀場を開いてから初めてだな。俺もちょっと緊張してるよ」
それからじきに玄関をドンッ! ドンッ! とノックする音が響き、ノボルが扉を開けると。
「こんにちはお客様。ボレゾア・ナシィーです。ご注文の商品をお届けに参りました」
「「「お届けに参りました!!!」」」
「揃いも揃って元気だなあ。ま、いいことだ」
複数の花束を乗せた台車を引っ張るのは屈強な肉体の持ち主でモヒカン頭の、花屋店長にてナシィー家の長兄ボレゾア。その隣にはツインテールにふたつの赤いリボンが目立つ長女フィックが、さらに彼女よりも幼い妹と弟が立っていた。
◇◇◇
「兄ちゃん! 姉ちゃん! すっごい大きな時計があるよ! 2階と3階には部屋が何個もある!」
「こ、こらリクァツ! 勝手にウロウロしたら駄目だよ!」
「そうだよ! きちんとお兄ちゃんの言うことは聞きなさい!」
館の中に花屋を経営しているナシィー家の面々を入れた後、そこはちょっとした騒ぎに。
きょうだいの末っ子で7歳の次男・リクァツ。ノボルと同じような坊主頭の彼は元気にいっぱいに館を探検しており、商品である花を抱えながら長男ボレゾアと長女フィックは注意を口にしていた。
「おーい。勝手に物を触って壊すなよー。でも冒険する分は良いからなー。楽しめよー」
そして1階にいるノボルは館中に興味津々なリクァツのことを注視しながらも意外と寛容な態度を見せていて、そんな彼にサラヴィスはそっと尋ねる。
「代表、小さなお子さんには優しいんですね?」
「そりゃそうだろ。それに色々と苦労してる家族だ。多少甘やかしてあげても罰は当たらねえ。ま、長男のボレゾアと長女のフィックはきちんと怒ってるしな」
あらかじめフィックから魔物化した両親や故郷を離れることになった顛末を聞いていたサラヴィスは、ノボルの答えに静かにうなずく。
「ポーレウス、お客様はこう言ってくれてるけどあのふたりを止めてきてくれる?」
「うん、分かった」
するとここでフィックはきょうだいの3番目で次女、物静かな雰囲気を出す10歳の女の子であるポーレウスにこのように指示。
ポーレウスは兄や姉そっくりな橙色の長い髪を耳にかけ、館の中を走る弟を捕まえようと動き始めた。
「お客様、申し訳ございません。まだ幼い弟はあのような感じで……」
用意した花束を抱えるボレゾアは慌てて深々と頭を下げるが、ノボルの方は「いやいや大丈夫だよ。子供なんてあんなものだろ」と笑みを見せる。
「ところでお客様! こちらの花はどちらまで運びましょうか?」
さらにフィクスも兄同様に花束を持ったままノボルに近づき、同時に彼のそばにいるサラヴィスと目が合うと、ニコっと晴れやかな笑顔を見せた。
「あー、えっと。とりあえず葬儀場の分はこっちに運んでくれるか?1階の奥だ」
こうしてひとまずノボルはボレゾアたちのことを先導して案内する。
「ここだよ。俺はいつもこの場所で魔物の葬儀をしているんだ」
彼にとっての仕事場である魔物専用葬儀場へと。




