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第18話 花屋の娘

「そういやサラヴィス。俺の稼ぎについての話の続きだ」


 目的の花屋が見つかったのでそこへと近づく最中(さなか)、ノボルはサラヴィスに向かって自身の収入についての説明を再開させた。


「ディケ傘下の魔物駆除隊は別として、そもそもどうやって勇者の血族やフリーのハンターが稼いでると思う?」


 ノボルからの質問に、隣を歩くサラヴィスは短く赤い髪を揺らしながら首を横に振る。


「そ、そう言えば知らないです。知り合いにハンターなんていませんでしたから……」


「そうか。だったら教えてやるが、当然ながら大事なのは『倒した魔物を処理場に持っていく』ことなんだよ」


 魔物を倒し、それを魔物処理場まで運ぶと色々な手続きを済ませた後に報酬を受け取れる。


 この処理場は所在する自治体ごとの管轄であり、基本的に倒した魔物はどこの処理場に運んでも構わない。そこでは運搬されてきた魔物の大きさや容貌などを確認され、それによって支払われる報酬が算定されるという。


「まあ別に体が大きい=強いって決まってるわけじゃないが、デカいのは討伐するのも大変だ。容貌も同様で、肉体の変貌度合いが激しく人への危険性も高ければそれだけ倒した価値も上がる」


 だがこの報酬、処理場がある場所によっても金額に差が生じている。


 やはり大きな都市になればそれだけ自治体が払える額にも余裕が出てくる。一応小規模な町でも王国からの助成金は発生しているものの、どうしてもそこで差が生まれてしまう。


 だから人によっては寂れた田舎で魔物を討伐しても、何日もかけて規模の大きな町の処理場にまでそれを運搬し、より高額の報酬を求めるのだ。


「それで俺は勇者が処理場から支払われた報酬のうちの1割を受け取ってる。言ってしまえば、それが主な収入源だな」


 軽い口調でノボルがこう話すと、サラヴィスは思わず足を止めて非常に渋い顔を彼に見せた。


「え、ええ。13歳の勇者さんからお金を受け取ってるんですか……?」


「……そんな顔をするなよ。これはアドフンさんが決めて、勇者も納得して決められたものなんだ。俺だって最初は拒否したし、今まで何度かやめようと交渉したさ」


 ところが勇者レイネルはどれだけノボルから申し出をされようとも、報酬の支払いを中断することはなかった。


 この真意はレイネル本人にしか分からない。しかしこれのおかげもあって、ノボルは日常生活を送れて魔物の葬儀も継続できている。


 なおレイネルは今よりもっと小さい頃からアドフンと知り合ったらしく、初めてノボルが葬儀を執り行おうとした時に倒した魔物を提供したのも他ならぬ勇者だったのだ。


「ま、まあ勇者さんが構わないって言うならあれですけど……」


 この話に複雑そうな表情を浮かべるサラヴィス。ディケに入局する以前、貧困に喘ぎながらも祖母の看病に尽力していた彼女の唯一の娯楽というのが、そんなレイネルの活躍譚を読むこと。


 祖母による熱心な教育のおかげでサラヴィスは文字の読み書きができる。暮らしていた貧困地域には稀に書籍類が流通し、基本的には識字率が低いために他の住民が手を出そうとしないそれらを、彼女はどうにか資金を捻出して購入していた。


 スキル・『内心の開示』の影響で友人がおらず、さらに両親も早くに亡くしたことでサラヴィスは常に孤独感を抱いていた。そんな彼女にとって、勇者が魔物を倒し人々を助けていく描写を楽しむ時だけはそれを忘れられる。


 しかしこれまでサラヴィスはまだレイネルとまともに言葉を交わしたことがない。やはり勇者の方は『ディケから来たというスパイ』に警戒しているのか、葬儀場で会っても一瞥されるだけ。


 それに対してサラヴィスはどこか寂しい心境を抱いているものの、自身の素性を考えると仕方なさも感じていた。


「それと魔物の討伐にはもうひとつ決まりがある。あくまでも行動不能になった魔物の所有権は、()()()()()()張本人のみに存在するんだ」


 つまり誰かが苦労して魔物にとどめを刺した後、第三者がその魔物を横取りし、処理場まで運んで報酬を受け取るという行動は禁止されている。


「あっ。それは勇者さんの活躍譚の中でも読んだ記憶があります。確か勇者さんの戦いの場にフリーのハンターが隠れていて、頑張って倒した魔物を横取りされそうになって揉めたとか」


「だろ? これのせいでトラブルが起きたり、もしくは魔物討伐後にスキルを用いた争奪戦が起きたりすると面倒。だから規則を設けたらしいんだが……まあでも世の中は意地汚い奴も多いから魔物の奪い合いは結構多いらしいよ」


 横並びでこう話しながら歩いていた両者だが、いよいよここでノボルが立ち止まる。


「ん、この場所か」


 ノボルとサラヴィスの目の前に出現したのは古びた2階建ての建物。その1階には花屋があって、色とりどりの花が店頭に並べられていた。


「いらっしゃいませ! こちらには初めてのご来店ですか?」


 すると店舗の中から聞こえてきたのは明るく元気に満ち溢れた女性の声。


 花や建物をじっと眺めるノボルたちのもとに近づいてきたのは、サラヴィスより少し若いまだ10代中盤ほどの少女だ。


 紺色のエプロンを装着。橙色の髪はツインテールにされている、顔にはそばかすのある少女。さらに髪の結ばれた箇所、その両サイドにつけられた赤いリボンがとても目立っている。


「どうも。俺たちは初めて来た客だよ。ここ最近開店したんだろ?」


 ニコニコと明るい笑みを浮かべて愛嬌を振りまいている少女に対し、ノボルの方も軽やかに手を挙げて挨拶を交わした。


「はい、そうです! わたしたちはブライド国の北方にある都市から家族4人で、つい最近ここにやってきました!」


 ノボルのことを見ながら変わらず満面の笑みの少女。これを聞いた彼はそっと店内を覗き込む。


「へえ。それじゃあ家族みんなで仕事しているのか?」


「妹と弟はこの建物の2階にある家で留守番をしてます! わたしと兄のふたりで働いてます!」


「……さっき4人家族って言ってたよな? 親はどうしたんだ?」


 すると少女はツインテールの髪を揺らしながら笑顔のまま首を横に振って、元気いっぱいにこう答えた。


「わたしの両親はどちらもいません! なので兄がここの店長として経営をしているんです!」


 これを聞いたノボルは思わず目を伏せ何度かうなずいて再び顔を上げる。


「そっか。悪かったな変なことを質問して。中に入って色々見るから許してくれ」


「いえ、全然大丈夫ですよ! それでは中へどうぞ! そちらの後ろにいるお姉さんも!」


 こうして少女からの招きを受けたノボルとサラヴィスは、この花屋の中に入ることになった。


◇◇◇


「へえ。こんなに種類があるんだな」


「はい! 気に入ったものがあればお気軽にお声がけください!」


 店舗の内部は思ったよりも奥行きがあり所せましと花が置かれている。そしてノボルは「う~ん」と悩むような表情を浮かべて、しばらく商品である花を物色していくが・・・。


「い、いやあ分からねえ。葬儀場に買っていく花も、カグリゥに渡す花も……」


 今日ここに来たノボルたちの目的はふたつ。カグリゥに渡す花と魔物専用葬儀場に飾る花の購入だ。


 前々からノボルは葬儀場に死者への手向けとなる花が欲しいとは思っていた。しかし特別花の類に詳しいわけではないので、そもそもどのようなものを買えばよいのか分からない。


 彼はこの世界への転移前でも花を買った経験はない。それもあって現在は分からないこと尽くしの状態だと言えるのだ。


「サラヴィス。俺は全然詳しくないから、カグリゥと葬儀場の分、見繕うのを手伝ってくれ」


 困ったように、隣にいるサラヴィスに話しかけるノボル。


「……」


 しかし待てど暮らせど彼女からの返答はゼロ。


 花屋の少女が姿を現してからサラヴィスの声は聞こえてこない。彼女はスキル・『内心の開示』のことがあるので、無駄なトラブルは回避しようと注意して口を閉ざしている。


「おいサラヴィス聞こえてるか? 幸い他の客もいなから、今はスキルのことは無視して口を聞いてくれ。花のことなんてよく分からなくて……って、ん?」


 ところが今の状況で黙りこくられるのもノボルにとって困る。そこで彼はサラヴィスのことを軽く肘で小突いて顔を向けたのだが。


「何か……硬い……」


 どうも腕から伝わるその感触が、思っていたものと比べてかなり……いやまったく違った。サラヴィスは華奢な体格のはず。しかしノボルに届いたのは分厚く硬い肉体のそれであり。


 恐る恐る隣にノボルが顔を向けると、そこにいたのは。


「わ、わお。ず、随分と立派な体でありますね……」


 まるでサラヴィスとは別人の、筋骨隆々で橙色の髪をモヒカンにしている男性だったのだ。

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