第13話 勝気で綺麗な協力者②
「え……あの。そんなに私の素性をあっさりと教えるんですか……?」
ディケからのスパイであるというサラヴィスの素性を、自分の協力者のひとりだというカグリゥへ本当にあっさりとした様子で伝えたノボル。
「いやだって……。変に誤魔化したって逆効果だろ? そもそもお前には面倒なスキルがあるからいずれバレるって。それだったら最初から本当のことを言った方がマシだよ」
眉間にしわを寄せているサラヴィスにノボルはこう説明するが、彼らのやり取りを目にしたカグリゥも肩をすくめる。
「だろうね。『内心の開示』なんてディケの中でも特に危険視されてるスキル。そんな能力を持つ若い女がごく普通の一般人なわけがないよ」
サラヴィスは葬儀場への潜入前、いくつかノボルにまつわる情報を伝えられていた。そこで彼と特別な関係があると聞いていたのはアドフン・クァークと勇者レイネルぐらい。
カグリゥ・シルファスという名前など聞いた覚えはないし、先ほどからディケの内部事情まで知っているかのような口ぶりまでされるとサラヴィスもこの女性の素性が気になってしまう。
「あ、あのう……。ところでカグリゥさんってディケについてお詳しいんでしょうか……?」
そこでサラヴィスは意を決して恐る恐る手を挙げる。
すると床にしゃがみ込みカグリゥの眷属の頭を撫でていたノボルは、口を閉ざしてサラヴィスの能力の効果が及ばない5分が経過するまで待った後、答えた。
「お詳しいっちゃお詳しい……な。まあカグリゥのことだって隠したってしょうがない。というわけで両者揃って自己紹介してくれ」
ノボルはゆっくりと立ち上がりサラヴィスとカグリゥのことを交互に指さす。
これに対して少し困った様子を見せたサラヴィスが、ここまできて断るわけにもいかないのでカグリゥの方に体を向けて丁寧に頭を下げた。
「わ、私はサラヴィス・マレルマと申します。あっ、で、でもこの名前は潜入のための偽名でして。代表がお話していた通り……私はディケ諜報部からのスパイなんです」
そして彼女はもちろん自身のスキルの反動も影響して、隠すことなくそれまでの経緯を話していく。
生い立ちやディケに入局することになったきっかけから、魔物専用葬儀場に赴いたその日にノボルの手による葬儀を目の当たりにしたこと。
さらに立場上はディケからのスパイであるものの、今さらコソコソと潜入捜査などできるはずもないので、ノボルと協力関係を結んで共同生活を送っていることも。
「というわけなんです。だから私は今ここにいるわけでして……」
この話を聞き終わったカグリゥは小さな声で「なるほどね」と呟き、真剣な眼差しをサラヴィスに向けた。
「アタシの方は事情を理解した。やっぱディケの関係者、しかも諜報部お抱えの新人スパイかよ」
「そういうこと。けどまあ現状、真面目に葬儀場の仕事を手伝ってくれてる。それと約束もきちんと守って俺の素性を詮索することもしてない。悪い人間じゃないさ」
ノボルの言葉に、サラヴィスは絶対に声には出さずとも「(や、やっぱり留守中に館を探し回らなくて正解でしたね……)」と密かに胸をなでおろす。
「そこまで言うならいいよ。まあ仮にノボルを欺こうとする邪な気持ちや内に秘めた悪意があれば、スキルの反動で正直に吐くだろうけどそれもなかったし」
こうしてカグリゥも、サラヴィスに向かって手短に挨拶を行う。
「アタシはカグリゥ・シルファス。本人が言ってた通り、ノボルの協力者さ」
「……」
余計なことを言ってスキルが発動しないようにと口を閉ざし、緊張した面持ちを見せているサラヴィス。
「アタシは何も怪しい女じゃない。ただ親父はディケの前局長、そしてアタシはその秘書をしてた。だからそっちの組織の内情をある程度把握してんのさ」
しかしそんな彼女に対してカグリゥはサバサバとした態度でこう伝えると、その内容を耳にしたサラヴィスは赤く長い前髪の隙間からのぞく大きな瞳をより見開いた。
「……へ? ディ、ディケの前局長? ということはディケの中で一番偉い方? そしてその秘書をされたんですか!?」
「そもそもアタシが嘘をつく必要性も皆無だしちゃんと話すよ。アタシの親父はディケの前任局長であるガルキア・シルファス。今は引退して絶賛隠居中の身だけどね」
そしてカグリゥは椅子に座りなおすと、自身の膝の上へ無邪気そうによじ登ってきた眷属1体の頬を撫で始める。
「昔は口うるさいオジサンだったよ。3歳年上の兄貴とアタシは身分良くふるまうよう厳しく躾をされた。少しでも行儀が悪けりゃ殴られ、蹴られ……。ガキの頃は毎日のように泣いてたよ」
「でもアタシはむしろそんな教育方針の反動でこうなった。笑えるだろ?」と自分の顔を指さしてカグリゥは続けた後、父・ガルキアの出自はサラヴィスと似ていたと話す。
彼の生まれは貧しい家。ところが16歳の時、強力なスキルを有しているというので創設してすぐのディケからスカウトを受けた。
最初はブライド国首都の警備に始まり、数年後には魔物駆除隊に異動。そこでは多くの魔物を倒してまわり徐々に自らの地位を上昇させていく。
さらに政治力もあったため当時の上官や有力者に近づきみるみるうちに出世もしていった。気づけば組織の中枢に身を置くようになり、60歳を迎えた際にディケの局長に就任したという。
「だけど局長の任期は5年にもかかわらず、たった1年で退職。それからはまるで抜け殻のように無気力な生活を送ってるよ。昔みたいな厳しさや強さは影を潜めてる」
「そ、それはどうして……?」
カグリゥの話を聞いて、つい不思議そうに首を傾げるサラヴィス。
「それからは俺が話す。どうしてカグリゥが俺に協力してくれているかも含めてな」
すると次に続く言葉を発することができず口ごもるカグリゥに代わってノボルが答えた。
「このことはディケも把握している。だからお前に話したって構わない内容。だがカグリゥ本人に喋らせるのはあまりにも酷だ」
そして彼は明かす。
「カグリゥの兄は家族の目の前で魔物と化した。そして勇者に倒されてご遺体は俺が弔ったんだよ」




