第12話 勝気で綺麗な協力者①
「嬢ちゃん。ノボルは留守か?」
「あ……。う……」
それまでノボルの留守中に館の中を探るかどうか思い悩んでいたサラヴィス。だが現在は別の(大)問題が発生中。
「嬢ちゃん。ノボルは留守なのか?」
館1階にてしゃがみ込みサラヴィスは頭を抱えていた。しかしいつの間にか外へと繋がる扉が開いていて、玄関には男勝りの言葉遣いをする見知らぬ女性が立っていたのだ。
「そ、その。あの……」
勝気そうでキリっとした目を持つこの女性。
しかしその姿は話す口調とは対照的に気品に満ちており長い銀色の髪は綺麗で、顔の彫りは深く、鼻も高く、それでいてきめ細かな肌の持ち主。
さらに町にいる一般市民とは身分が違うと一目で分かるほど高価そうな素材で作られた衣服を着用したパンツスタイルで、衣服越しでもスタイルの良さが目立つ。
おまけにその向こう側には彼女が乗ってきたのであろう馬車まで見えていた。
「なあ。ノボルは……ど こ な ん だ よ?」
「(ヤ、ヤバいです! 女の勘で分かります! こ、この美人な方、なんだか怒ってます!)」
ノボルを探しているこの美女。
彼を超す高身長である彼女は、いくら質問をしても答えないサラヴィスのことを見下しながら、鋭い目つきで問いかけ続ける。
「いい加減教えてくれ。ノボルはどこだ? 外出中ならどこへ行ったんだ?」
だがサラヴィスは何時ぞやのノボルの如く、口元に両手を置いて物理的にも口を閉ざす。
「(だ、代表から言われています。私はスキルのことがあるので、客人の対応をしてはいけません!)」
サラヴィスのスキル・『内心の開示』は非常に厄介。特にその会話の相手が彼女のスキルを知らない人物であればなおさらだ。
もちろんサラヴィスからしても、目の前にいる客人からの質問に無回答を決め込むのはバツが非常に悪い。かと言って簡単に口を開いて面倒ごとを呼ぶわけにもいかない。
「(ど、どうしましょう! 策を、何か策を!)」
間違いなく銀髪の美女の不機嫌さは増してきている。そんな中でサラヴィスは頭をフル回転させてどうにか打開策を探っていき、ある方法を思いついた。
「(たとえば……。そう、たとえば筆談! 確か葬儀場にはペンと紙があるはずなので、それでどうにか代表が買い物で留守だと伝えられれば!)」
とにかく口を開けない現状、筆談でどうにか会話をしようと考えたサラヴィス。そこで銀髪の美女とにらみ合いながら少しずつじわじわと後ずさりをし始めたのだが。
「(……? あ、あれ? 足が動かない?)」
突然、両足首を何かに掴まれているかのような感覚に襲われた彼女。この違和感の正体を探るため恐る恐る足元へと視線を移すと……。
「き、きゃー! な、何ですかこの生き物は!?」
彼女の両足には、頭部に2本のツノが生えた、膝下ほどの身長で二頭身かつ全身緑色の不思議な生き物が2体もしがみついていたのだ。
「この子らはアタシがスキル・『眷属の召喚』で呼び出した眷属、従順な下僕さ。名前は右足に引っ付いているのがアブ。左足に引っ付いているのがニュブだ」
ただ美女はこう言うと、腰まで伸びた銀色の髪を揺らしながら少し首を傾げる。
「ん? おかしいな。初めて会ったやつに眷属の呼び名まで明かしたことないんだが」
「あ……」
驚きのあまり思わず口元から手を放したサラヴィス。彼女は足元にいる眷属に対する疑問を叫び、この美女もそれに応答してしまった。
となると当然ながら。銀髪の美女はサラヴィスのスキルの効果を受けてしまう。
「「……」」
見つめ合う両者。
サラヴィスの両足に引っ付いている2体の眷属だけが「「ウーッ! ヤーッ!」」と声を出しているこの状況下、彼女の顔面からは汗が噴き出してしまう。
すると美女は黒革の鞄を手にゆっくりと歩み始めて玄関を進んでいき、いよいよ館の中に入る。それからサラヴィスの正面で立ち止まると屈みながら彼女に顔を近づけて、怪訝そうにこう問いかけた。
「嬢ちゃん。もしかしてスキル・『内心の開示』を使えんのか?」
「(え、え? ど、どうしてそれを……?)」
激しい緊張感の中、サラヴィスは全力で口を閉じ心の中で呟く。
ディケ入局時に彼女にも告げられたがこのスキルは非常に珍しい。そもそも世の中には存在すら知らない者も多い代物だ。
「ふーん。やっぱそうか。さすがディケが危険視するスキルのひとつ、強烈な効果だな」
美女の青く綺麗な瞳。これはまるでサラヴィスの素性を見透かしたかのように輝く。
「で? 肝心のノボルはどこだ?どこにいる?」
さらに彼女はサラヴィスに迫ってどんどん問い詰める。
「アンタがもう堅気の人間じゃねえのは分かってんだよ。さっさとノボルの居場所を吐きな」
そうしてガクガクと震えるサラヴィスの目と鼻の先で「もしノボルに変なことをしたら勇者レイネルの手も借りてアンタのことを……」と美女が告げたその瞬間。
「お前ら。家の主がいない間に何やってんの?」
「……お、ノボルじゃん。なんだ普通に帰ってきたな」
「だ、代表……!」
開けっ放しの玄関を通って中に入ってきたのは、ノボル。彼は近距離で顔を近づけ合っているサラヴィスと美女を交互にじっくりと見て。
咄嗟に胸の前で両手を握り、こう叫んだ。
「き、きゃあ! ま、まさか百合!?」
「「『百合』……?」」
同時にサラヴィスも美女も首を傾げたのだが、とにもかくにもノボルの登場によってこの騒ぎは落ち着くことになった。
◇◇◇
「んで? 俺が不在の間に、君らは何をイチャイチャしてたんだ?」
「イ、イチャイチャなんてしてませんよ! 確かにこの方、すっごく美人ですけど! すっごく良い香りしますけど! 顔を近づけられてドキドキしましたけど!」
3人がいるのは館2階のダイニング。
サラヴィスと美女は丸机につき、床には美女の眷属だという不思議な生命体が黒革の鞄に寄りかかって休憩中。そしてノボルは呆れた様子でサラヴィスたちのそばで腕を組み立っていた。
「にしても悪かったな、カグリゥ。ちょうど俺が外出してたから」
「いや別に。アタシの方だって連絡よこさないで来たわけだし」
そしてここでサラヴィスはノボルに尋ねる。
「あ、あのう代表。この方はどちら様なんでしょうか……?」
「カグリゥ・シルファス。勇者と同じ俺の協力者で、26歳のご令嬢様だ」
「協力者……?」
ノボルの紹介を耳にしてもなお釈然としない表情のサラヴィス。するとカグリゥは「おいアンタら挨拶しな!」と両手を叩いて音を鳴らし、鞄に寄りかかる眷属の姿勢を正す。
「ここにいるカグリゥの眷属たち。こいつらには俺のスキルで解放した死者の魂が明かした、生前の家族や友人を探してもらっている」
するとノボルの紹介を受けた2体の眷属は揃って「「フフンッ!」」と胸を張り、その動きを見たカグリゥは満足げに微笑む。
ノボルのスキル・『霊魂の解放』。これは魔物化した亡骸に閉じ込められた生前の魂を解放するもの。
魔物の葬儀を執り行う際、いつも最終盤にノボルはこのスキルを発動させ、解放した魂から生前の名前・享年・出身地などを聞き取って記録に残している。
通常、魔物化した人物は公的には行方不明扱いになっていることが多い。つまり家族や友人はその末路を知ることなく当人の安否をずっと待っているケースもあるのだ。
そこで魂が明かす大切な人を探し出し、見つかった上で判断材料が揃えば。魔物になったこと・勇者レイネルに倒されたこと・それから無事に弔われたことを明かす事例もあるとノボルは話していた。
しかしサラヴィスはこの点に疑問を抱いていた。
『誰が解放した魂の家族・友人を探しているのか?』という箇所は特にそうで、ここまでの共同生活においてノボルが人探しをしているような素振りは一切確認できていない。
「近いうちにサラヴィスにもこのことを詳しく話そうと思ってたんだが。まあ今日はいい機会だな」
いつの間にかその場にしゃがみ込んで眷属たちの頭を撫でていたノボルはこう言うが、ここでカグリウが「あのさあノボル」と身を乗り出す。
「そろそろアタシにもこの嬢ちゃんが誰かというのを懇切丁寧に教えろよな?」
カグリゥから睨まれ気まずそうに目を伏せるサラヴィス。
ノボルだけでなく勇者レイネルにも自分の身はバレてしまったものの、これ以上スパイだという素性を知る人が増えるのは困りもの。
「自分のことはどう説明されるのか?」と固唾をのんで見守るサラヴィス。ところがノボルは2体の眷属をなおも愛でながら軽い口調でこう答えた。
「あー、こいつの名前はサラヴィス。ディケの諜報部から派遣されたスパイだよ。俺の素性を探りに来たらしい。でもひとまず葬儀場の手伝いをしてもらってる」
「……え?ぜ、全部話しちゃいました……」
誤魔化す意図など微塵も見られず。正直に、ハッキリと、すべてのことを。




