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花吹雪の計略

「おお、そうか可哀想に……。だが生憎この保存食しか持ってないのだ」


 あくまでも調査と工作のために必要な食料であり、味などは度外視の代物だ。こんな幼い子どもに食べさせるようなものではない。しかし、里に置いてきた娘とこの娘が重なる……うん? 何だか……この娘、妙に色気があるな……。


 空気中に満ち始めていた花吹雪の散布した催淫薬を吸い込んでしまった斥候。万一、敵に捕らえられても自白剤などが効かぬように体内に抗体を作っていたが、花吹雪の薬学の前では何も役に立たなかった。


「な、なぁ……」


 元々口下手な斥候。今の嫁も見合いで手に入れた女だ。斥候はどのように女と接して良いか、基本的には何も解かっていない。いや、仕事となればそれなりに口説けるのだが、素の状態では頭が混乱してしまうのだ。


「ふふっ。おじちゃん……」


 花吹雪はテンと一緒に村に帰ると、まとめ役のカテクに斥候と遭遇したことを説明した。勿論、説明したのはテンだ。


「すまねぇ、逃げられちまった。矢で足を射抜いたから油断しちまった」

「で、何か言っていたか?」

「この村は発見されてない。あいつは《星の輝き》に潜入してたみてーだ」

「なるほど。でも……お前らが見つかったなら」

「いや、俺達は山小屋で生活していたことにしてある」

「そうか! よくやったな」


 テンも斥候も花吹雪の催淫薬の効果により、ちょっとした洗脳状態にあるのだ。テンは矢で斥候の足を射抜いてなどいないのに、花吹雪のお願いした通りに説明しているだけなのだ。また斥候が《星の輝き》に潜入していたのは本当だ。大船が入港出来る港を探していたのだ。それも何と隠蔽した港を見つけ出していたのだ。花吹雪は祖国に未練はなかった。だが何となく……浅瀬の港を報告するようにと斥候を洗脳したのだった。


「それと。《広川》から《星の輝き》までの陸路が、この村の近くなんだ。だから万一のために村の守りを固めた方が良い」


 狩り以外に頭が働かないテンからそんな提案が出てきたことに驚いたカテクだが、言っていることは至極まともであり、村を守るためには急を要する案件であることは確かだった。


「わかった。柵を作り、女たちにも弓の訓練をさせる」


 隣でぼーっと空を見上げていた花吹雪は、村の行く末を案じていた。仮に若党の《重盛》級の刀の使い手が攻めてきたとして、誰が太刀打ちできるのであろうか? 恐らくたった一人に皆殺しにされてしまうだろう。


 そのときは村を代表して弔い合戦を繰り広げてみようと花吹雪は決意した。簡単な話なのだ。空中に強力な毒を散布するだけなのだから。まぁ、敵も味方も月読以外は全員死んでしまうけど。


 ぐぅ〜。っと、花吹雪のお腹が鳴った。


「ははっ。ハナは緊張感がねーな。ツキのところに行くか」


 花吹雪はコクリと頷く。


 細かく説明すると、不老不死になった瞬間を維持する花吹雪と月読は、腹の減る時間では無かったため、何も食べなくても大丈夫なはずなのだ。しかし、どういう訳か腹が減るのである。こればかりは、花吹雪も中々答えを見付けられずにいた。


 時間はたっぷりある。そのうち答えが見つかるさ、花吹雪はのんびりとしていた。


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