不老不死で進む道
花吹雪は、テンという少年を実験体にしていた。どこまで従順に、どこまで洗脳できるか、それは仕草だけで、態度だけで、いずれ近いときに薬漬けで。
月読が他の村人……子どもたちと何とも言えない距離感で、上手く接していた。実はそれも花吹雪の計算の上であった。奇天烈な花吹雪を献身的に面倒見る優しい姉として、村での評価は高まっているのだ。
さて、不老不死を手に入れた花吹雪にとって、薬学とは癒やすための手段ではなくなっていた。それは敵となる何かを倒す手段に変わっていたのだ。
しかし、毒薬を作っても試すことができない。何とも歯がゆい状況が続く。いっその事、テンを殺してみようかと思案するが、従順なテンは思いの外可愛いのである。
先程も、川で水浴びをして真っ裸で体を拭けと無言でおねだりすると、顔を真っ赤にしながらも、なるべく肌や女性ならではの場所を避けながら拭いていたのだ。こんな娯楽を楽しむのも悪くないと花吹雪は思っていた。
話題は変わって不老不死について、現在理解っていることをまとめる。不老不死は一切の成長も老化も傷も病気も何も変化を起こさないのだ。まずは簡単な傷から説明する。皮膚を切っても、腕の骨を折っても、腕を切断しても、それぞれ修繕に時間はかかるが、産毛の長さや向きすら再現するのだ。次に最も難しい成長についてだ。簡単に言えば成長しない。難しく言えば脳に記憶もされない。ならば不老不死以降、テンや村の記憶はどこに収まっているのか? ずばり魂である。つまり、何が起こっても不老不死を手に入れた、あの瞬間の肉体の戻るのだ。
記憶の実験は激痛を伴った。脳を自分でかち割りながら、何処で何が記憶されるのか、何度も何度も発狂しそうになりながらも、実験を繰り返したのだ。
正直、魂というのは花吹雪の仮説である。
そして、今は目の前で狩りのため息を殺す……テンと子作りをしたらどうなるかという問題に興味をかきたてられていた。実験のためなら頭もかち割る花吹雪だが、意外と自分が乙女なのだと新たな発見をすることになった。
恥ずかしいのである。
もしも、この奥手のテンが告白をしてきたのなら……。花吹雪はそこで妄想を停止させた。そして、身の回りに生息する毒の元となる草花やきのこを片っ端からアイテムボックスに入れていく。
流石はVRMMORPGのNPCである花吹雪。テンが狩りをすればする程、花吹雪ののレベルもいつの間にか上がっており、今ではマップ上に動物か人か、悪意か善意かを判断できるようになっていた。勿論、テンは人で善意なのだ。そして、悪意を持つ何者かが近づいて来ている。
ちなみにレベルによる肉体強化やスキルは不老不死で相殺されないのだ。
花吹雪はテンからそっと離れて、悪意を持つ何者かの背後を取るように近づく。
大人? 間違いない《広川》の者だ。
花吹雪は、月読に脳内チャットで《広川》の接近を伝えた。初めての試みに月読は戸惑っていたが、《広川》の斥候がいることを告げると、「どうしてその事を知ったのか?」という質問に答えられないと悩んでいた。
まぁ、逆の立場であれば、まとめ役のカテクに何と言っていいのか、花吹雪も答えを出せなかった。ならばと、花吹雪は《広川》の斥候の目の前に姿を晒した。
「ねぇ、おじちゃん誰?」
なるべく幼稚になるべく可愛くなるべく愛想よく……花吹雪は催淫薬を空中に散布しながら、《広川》の斥候に話しかけた。実際の年によりも幼く見える花吹雪だ。問題ないはずだ。
「お、お前は……。子供がどうして、こんな森の中にいる!?」
「うん? お兄ちゃんが鳥を狩っているの。鳥さんいないとお腹ペコペコなの」




