興味のあるもの
穏やかな日々が過ぎていく。純粋な男の子は無闇に体に触ろうとせずに一定の距離を物理的に精神的にも保ってくれていた。女の子の間でも何かと頼りにされるようになり、月読の生活は確立されていったのだ。
一方、花吹雪は相変わらず自分勝手で興味のあること以外には目も向けなかった。今は、テンという男の子とほぼ毎日を過ごしている。テンは体格は小さいが弓の名人と言われ、村の食糧事情を支えている重要な役割を担っている。そんなテンに花吹雪は付き纏っているのだ。
月読から見て、花吹雪に恋愛感情があるとは思えない。ならば、テンの何に花吹雪が引き寄せられているのか、皆目見当も付かなかった。
テンは自分の役割の重要性を知っている。だから狩りの邪魔をされたくない。しかし、可愛いハナが付き纏い始めた頃は、女の子に好かれ純粋に嬉しかった。しかし、慣れてくると段々とハナが鬱陶しくなり始めた。しかし、突き放しても、怒っても、全力で逃げても、何一つ変わらぬ表情でいつものように付き纏うハナにテンは白旗を上げた。今では狩りに出かける前にハナを迎えに行くようになっていた。
ハナは驚くほど美人だ。しかし、心を病んでいるのか一言も話さない。たまに山に生える草花をしゃがんでみている以外は、ただ狩りするテンの後を付けジッと狩りの様子を見ているだけだ。
いつしかテンはハナに心を奪われていた。しかし、己の役目とうぶな性格から何も進展はしていない。
「ほら、握り飯だ」
村での食事は全員分を一箇所で作る。なので昼飯も全員分を作る。昼飯は殆どが握り飯だ。何とも贅沢なことである。元農家の子どもたちが親の手伝いで得た知識でどうにか田んぼや畑をやりくりしていたのだ。
テンに握り飯を渡された花吹雪は両手で受け取ると、足をぶらぶらさせながら大きな握り飯を頬張った。
そんな可愛いハナを横目で見ながら、テンも握り飯を頬張った。
その日の午後、鹿を仕留めたテンは、解体作業を始める。血抜きやら皮剥作業は、初めて見る誰もが、その日食べた物を戻し、数日は肉が食えなくなるのだが、ハナはしゃがんでジッと見ていた。
「そう言えば、ハナは初めての時から吐いたりしてなかったな」
ハナから返事など期待していない。ただ言ってみただけだ。しかし、今までと違って、声をかけたテンへ視線を向けたのだ。
「なんだ? やってみたいのか?」
驚いたことにハナがコクンと頭を垂れた。
テンが解体用の短刀を渡すと、ハナはしっかりと受け取り、鹿の解体の続きを始めたのだ。流石に力が必要な処理はテンも手伝ったが、一人で可能な作業はハナが完璧に熟していた。
「ハナ……すげーな。俺の作業を見て覚えたのか……」
しかし、残念ながらハナの服には血がべっとりと付いてしまっていた。己の服に血が付かないように気を付けないとなと、テンが注意するとまたハナは素直に頷いた。ハナはすぐ目の前にある小川に走り出す。小川にたどり着くと、服を脱ぎ洗い出した。
テンは顔を真っ赤にさせて、クルッとハナと反対方向へ向いた。心臓が恐ろしくドキドキしている。そして確信する。俺は……ハナが好きなのだと。しかし、実の姉のツキでも手に余る存在のハナを俺がどうにかできるはずがないと、半分諦めてしまうテンであった。
ツンツン、と背中を突っつかれて振り返ると、びしょ濡れで真っ裸のハナが何かをせがむように両手を広げていた。




