心労
子どもたちしかいない村に案内された月読と花吹雪。元気良く走り回る子と床に伏せる子の両極端だと、月読じゃなくても誰もが得る印象だ。走り回っている子がいるのだ、栄養失調ではないだろう。ならば病なのか? 月読はなるべく床に伏せる子には近づかないようにと心がけた。不老不死が病に打ち勝つとは証明されていないのだから。
花吹雪を見れば特に興味が無さそうである。一体何を考えているのか、さっぱりわからない。ただ不老不死の秘薬を作れるほどの力を持つのだ。何があっても花吹雪から離れる訳にはいかない。今は、お姉ちゃんだという設定だが、突然自分の目の前から消えてしまう可能性は否定できない。
「カテク兄ちゃん、新しい仲間を見付けてきたぞ」
「おう、ジジルか、両方共女か」
大人と変わらない体格の男は、にっこりと気さくな感じで振り返る。私は一歩前に出て、偽名を名乗った。
「わたすはツキ、こっちはハナだ」
「ツキにハナだな。この村は特に決まりはないが、お互いに助け合うこと。それだけだ」
「わかった」
「おい、ジジル、何処か……空いている家を案内してやれ」
「んだ」
案内された家は、屋根から日差しが漏れるようなボロ屋であった。これは手の空いた男が修繕しに来るらしい。
「鐘がなったら、カテク兄ちゃんのいた家に来てくれ、そこで皆で飯だ」
ジジルが出ていったので、月読は花吹雪に尋ねる。
「ねぇ、床に伏せる子には……薬作ってあげるの?」
花吹雪はただ首を横に振った。
月読は花吹雪の考えを思案する。力を誇示したくないのか、治療することに興味がないのか、どうせすぐに死ぬのだから下手に生きる歓びを与えたくないのか……。
兎に角、花吹雪の機嫌を損ねる訳にはいかない。余計なことに首を突っ込むならば、花吹雪に頼らず、自分でなんとかしなけらばならないと、肝に銘じる。
さて、初日だ。たっぷりと甘えることにしようと、月読は思った。それほど長い距離を移動していないが、チヤホヤとされていた頃に比べると圧倒的に疲労感があった。こんな苦労をしてまで《月夜の林》の血に《影斬り》の血を混ぜた赤子を産むわけにはいかなかったのかと思案するが、月読もまだまだ子供だ、既に何が正解なのかわからなくなっていた。
大人しい花吹雪が何をしているか、首を動かさずに見てみると、己の掌を短刀で切り刻んでいた。恐らく、不老不死の研究なのだろう。ふと、自分に花吹雪を殺すことができるか考えてみた。ぐるぐるに縄で縛って井戸に投げ捨てたらどうなるのだろうか? 恐らく、縄が腐るまで何度も溺死を繰り返すが、いつか表の世界に出てきて、それは恐ろしい復習を受けるのだろう。やはり花吹雪を敵に回すのはいけない。
そんな平穏を破る出来事が起きる。どれ程見窄らしく薄汚れていても、元々が美人の二人である。入れ替わり立ち替わり、美人姉妹を見ようと男の子たちが部屋に押しかけてきたのだ。勿論、花吹雪は完全無視である。つまり男の子の相手は、月読がしなければならないのだ。これからお世話になる男の子に媚を売る必要があったのだ。
流石に男の子たちも月読に触れる者はいない。その点は、安心できたのが心の救いだ。
「おい、お前ら!! ツキとハナは長旅で疲れているんだ。休ませてやれ!!」
まとめ役のカテクが気を利かせて尋ねてきてくれたのだ。月読はほっとするものの、あまりカテクに依存しすぎるのも危険だと感じた。何をするにも神経をすり減らすことになった月読だったが、その先に何が待っているのか、誰か教えてと天に祈るのだった。




