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月読がお姉ちゃん

 薬剤師としての才能以外は、年上の月読が勝っていた。というよりVRMMORPGのNPCとしての知識と経験を活かすつもりはあまりなかった。花吹雪はただの少女として、この月読が歩む後ろを歩いてみたくなったのだ。時間はたっぷりとあるのだから、少しぐらいの寄り道など何も悩むことはない。


「これからは月読がお姉ちゃんです」


 与えられるものは全て託したという花吹雪の有無を言わさぬ一言である。


「私に何が出来るのでしょうか?」


 さぁ、と花吹雪は首を横に振る。 


「少し、時間をください」


 取り敢えず歩き始めた二人。月読は必要なのものを考える。何よりも必要なのは一般常識。お金があっても武家の娘を捨てた子供が気軽に使えるものではない。食べ物を買うのも、何処かに泊まるのも、親がいなければ怪しまれるに決まっているのだ。その上で知識があれば、どうにかなると考えている。


「おい、お前ら……。おいっ! 無視するな」


 突然に肩を掴まれる。月読が振り返ると、ボロボロの着物さえ着ていない、ふんどしの男の子だった。


「お前も……家ないんだろ?」


 月読は考える。この土地は、属国を二つほど持つ《富田》の勢力下なのか、はたまた船を積極的に造船する《広川》の土地なのか、しかし前者であれば皆殺しにあうはず。ならば後者の土地か、それならば、造船のための働き手として男は奴隷にされ、女はその気晴らしの娼婦として囚えられ、その子は放置していると聞いたことがある。


「あんたの親は?」


 月読は武家の言葉を捨て、《月夜の林》の武家屋敷の周辺で使われていた言葉を使う。


「連れて行かれちまった」


 当たりだ。《広川》の土地ということは、親がいないはずの子供がお金を持っていることに対して厳しい目で見られうはずだ。ならば、お金など意味がないだろう。


「家、あるのけ?」

「あぁ、だけど、野垂れ死ぬか、斬り殺されるかの……どっちかだ」

「大人たちから盗むけ?」

「んだ」


 《富田》の大虐殺は有名な話だが、それは最初の一国のみに適用されただけであり、その後の敗戦国には適用していない。逆らえば皆殺しという事実が一度証明されれば良いのだ。しかし、《広川》は違う。他国の民に流れる悍ましい血を残したりはしない。そして誰も居なくなった土地を功績を立てた者に分け与えるのだ。


 つまり……。いずれは、この子も《広川》の者に殺されるだろう。ならば、一緒に行く意味はあるのか? しかし、常識は……この眼の前にいる男の子が持っているのだ。


「行くよ。案内して」

「そっちのチッコイのはお前の妹か?」


 花吹雪は微動打にしない。ただ男の子をジッと見つめている。


「この子は、狂っちまってな。ただ大人しいから悪さしねえさ」


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