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電撃は、薄い膜のようなものに弾かれた。
結界である。
弾かれた雷撃は、放ったエルフのエリシアへ跳ね返る。
咄嗟に避けるが、それは消えはしなかった。
確実に、エリシアを狙って追いかける。
そんな彼女を守ろうとトーマが立ちはだかる。
「余計なことはしない方が良いよ、エルフ。
ここは、記憶の眠る地だ」
結界の中から、レジナは冷たく言い放った。
「誰かにとっての真実と事実が眠る地だ。
それを壊そうとするなら、歴史は牙を剥くよ」
言うだけ言って、外に背を向け、レジナは遺跡の中を進み始めた。
その直後、爆発音のようなものと悲鳴が聴こえてきた。
魔法で光の玉を出現させて、四人は遺跡の中を進んでいく。
狭くはないが、広くもない通路をしばらく進むと、開けた場所に出た。
円形の部屋だ。複雑な紋様が床に刻まれているだけで、他にはなにもない。
通路は、まだ奥に続いているようだ。
奥に続く通路のすぐ側の壁に、文字がほってあった。
「…………封印術式?」
膝をついて、その術式にレジナは触れる。
しかし、何も起こらない。
「…………」
レジナが難しそうな顔をして、奥の通路を見る。
「何か、わかりますか?」
「何かがこの奥にあるのは、たしかだけど」
レオンの質問に、立ち上がりながらレジナは返した。
「それは、聖剣なのでは?」
「ここに勇者王の棺があって、聖剣が刺さってるのなら、別に不思議じゃないんだけどね」
言いながら光の玉を操って、通路の先を照らす。
「……勇者王の死因、か」
このフィストリア山脈からの使者である、男の言葉の意味を考えてみる。
「何だそれ?」
今度はアーサーが聞き返してくる。
「何故、勇者王は死んだのか?」
「そりゃ、老衰じゃねーのか?
おとぎ話や伝説の最後には、かならず『こうして勇者王は、お姫様と結婚して末永く、幸せにくらしましたとさ、めでたしめでたし』って付くじゃん」
「勇者王は老衰じゃない」
きっぱりと、レジナは言った。
そして、慎重に部屋の中を見て回る。
「この文字」
奥の通路のすぐ脇の文字を調べて、レジナはカガリを呼ぶ。
「カガリ、これ読めるでしょ?」
「え?」
戸惑いつつも、カガリはレジナの横に立ってその文字を読んだ。
アーサーとレオンも、その文字を覗きこむ。
「これ、漢字と平仮名? それにカタカナだ。
日本語だ」
「お前の故郷の文字ってことか?」
「なんて書いてあるんですか?」
アーサーとレオンが口々に言う。
カガリは文字を読み上げた。
「えーと、『ここを訪れて、コレを読む誰かさんへ。
この文字が読めるということは、キミは我々の故郷である日本から来たんだろう。
どうやって来たのかは、我々には知り用がない。
ただ、目的は想像できる。
ここには、我らが勇者であり王様が眠っている。
聖剣とともに。
おそらく、その聖剣が目的だろうと思う。
これを読んでいる、未来のキミ。
どれくらい先のキミなのだろう?
そもそも、この文は残っているのだろうか?
考えても仕方ないか、いや、月並みだが聖剣を抜くのはオススメしない。
やめておけ、何故ならーー』
ここから先は削り取られてる」
「そう。
あ、ここにも何か彫ってある。
カガリ、読める?」
「えーと、名前だ。
『マーリン、いやここでは本名を彫るべきだな。
原田 洋介より。』
マーリン?」
「なるほど、マーリンの本名か。
ということは、勇者王を埋葬したのは彼というわけか」
「マーリンって誰?」
「伝説の大賢者だよ。
勇者王の仲間。
でも、そうかだいたいわかった」
そんな人が居たのか、しかし安直な名前を付けたものだ。
おそらく、魔法使いマーリンからとったのだろうと思われる。
しかし、そんなことは些細なことだ。
それよりも、レジナはいったい何がわかったと言うのだろう。
「なにがわかったんだ?」
アーサーが疑問を代弁してくれた。
「マーリンの伝説の一つにあるでしょ?
魔神封印の伝説。
ここには聖剣と勇者王、そして、魔神が封印されてるみたい。
勇者王伝説とは別の話として語り継がれてきたみたいだけど、そういうこと」
これに反応したのはレオンだった。
「魔神って、まさか。
ただの伝説じゃ」
「そう、そのまさかだと思うよ」
カガリだけ、話について行けず疑問を漏らす。
「魔神って?」
「魔族の神様のこと。
マーリン、この大賢者が封印したとされてる。
でも、これは後世の創作だと思われてた」
「創作じゃなかったと。
でも、なんでそれがここに勇者王と一緒に封印されてることになるの?」
「あの封印術式は、魔族や邪龍を封印する時に使われるものによく似てる。
ここは、勇者王のお墓。そんなもの必要ない。
でも、無くて良いものがあるってことは何かしら意味があるってこと。
マーリンの魔神封印の伝説はいくつかパターンがある。
その一つが真実に近いってことかな」
「その真実に近い話って?」
「人間に憑依させて、その人間ごと殺すか、封印する話」
「……つまり、勇者王に魔神を封印してから死なせた?」
「そう、殺した。
その可能性は高いと思う。
その時に使われたのが、聖剣」
「それが、この奥に封印されてると」
今度はアーサーが疑問を口にした。
「で、どうするつもりだ?」
「なにが?」
「それが本当なら、聖剣を手に入れると、まぁお約束で魔神が復活しちゃうだろ。
流れ的にさ」
「かもね~。世界も滅んじゃうかも」
「で、どうするつもりだ?」
「もちろん、手に入れるよ」
迷いなく、むしろ喫茶店で飲み物を頼むような気軽さでレジナが言ったとき。
「そんなことさせるか!」
そんな正義感溢れる声が、その部屋に木霊した。
トーマだった。横にはエリシアの姿もある。
「あ、あなた方は仮にも人間でしょう!?
そんなことが許されると思ってるんですか?!」
エリシアの甲高い声には振り向かず、レジナはカガリの手を取ったかと思うと、走り出した。
「ち、ちょっとレジナ??」
カガリが手を引っ張られながらも、困ったような声を上げた。
そんな二人をアーサーとレオンも追いかける。
「早いもん勝ちじゃ、ばーか!!」
レジナの声が弾んでいた。
世界のことよりも、いま目の前のことに浮かれているようだ。
「誰の許しも必要ないね!
それに、どーせ遅かれ早かれここが他のやつに見つかったら、事情を知らない奴らが剣を引っこ抜くに決まってんだ!
目の前にチャンスが転がってきたのに、みすみす見逃してたまるか!」
いざとなったら奪えば良いとか言っていたはずだが、指摘したら怒られそうなので、カガリはそれは口にしなかった。
その代わりに。
「レジナ、楽しそうだね」
「あはは、そりゃ楽しいよ。
もしかしたら、魔神に会えるかもしれないんだよ?
それも、封印されてる神話クラスのヤバいやつに!!」
「そうだね。
そしたら、どうするの?」
「もちろん! 母さんや師匠直伝の技がどこまで通用するのか、殴って確かめるんだ!!!」




