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翌日。
つまりは、竜車での移動四日目のことだ。
御者達が進行方向にそれを見つけて、竜車を停車させた。
それは、黒炎だった。
山火事かとも思ったが、どうやら違うようだ。
煙は山のさらに向こうから立ち上っている。
御者達にも、そして乗客達にも不安がおそう。
しかし、引き返すには車を引く竜の餌が足りない。
客としても、ここで降ろされても困ってしまう。
途中下車しても、お金が戻ってくるわけでもない。
どちらにしろ、進めば、行けばわかるのだからと誰も降りることは無かった。
目的地である、リテーゼに着くとレジナもそうだが他の乗客達も言葉を失ってしまった。
街が焼かれていた。
「邪龍でもおそったのかね?」
乗客の誰かが言った。
建物のほとんどは壊され、燃えた後だった。
まだ火が燻っているのか、あちこちで煙が見られる。
乗客の声が不安を帯びながらも冷静だったのは、こういった災害並みの出来事はそんなに珍しくないからだ。
旅慣れしていれば、多かれ少なかれ目にする光景である。
しかし、ここは観光地でありそれなりに対策はされているはずである。
自然災害の次に厄介だとされる邪龍襲撃。
自然災害は魔法などの対策は無効となるので、打つ手は限られるが邪龍は別である。
結界陣を敷いて、それを生業とする業者や術者に委託し管理してもらうのである。
魔法を使った犯罪防止にもなっているシステムである。
その代わり、たとえば魔法の力を付与していない火薬などは使えるというデメリットはある。
「ここって、どこの国の管理下だっけ?」
「まだ、国から救助が来てないのか?」
レジナとアーサーが呟く視線の先には、フラフラになりながら救助をしている者達がいた。
竜車の乗客達もその手伝いに向かう。
とにかく情報を集めなければならない、と旅慣れている者達は考えたのだ。
そうして集めた情報によると、昨日ここで魔族と国から派遣されてきた勇者達や、たまたまフィストリア山脈に向かう途中で立ち寄ったらしき複数の冒険者パーティが、派手に戦ったらしい。
魔法を使うために、勇者側か冒険者側か、はたまた魔族側かは知らないが勝手に結界を解除され被害が拡大したようだ。
避難指示も間に合わず、住民と観光客のほとんどが巻き込まれた。
しかし、双方に被害を出しつつも、魔族は追い払うことに成功。
そして、派手に暴れた者達はフィストリア山脈にとっとと向かったそうだ。
「うっわ、無責任」
「とりあえず、休憩したら瓦礫どかす手伝いしてくる」
アーサーの後にカガリが続く。
「飲食店への物資がそのまま炊き出しに使われてるんで、俺も休憩したらそっち手伝いに行ってきます」
「了解。
あたしは、他の魔法使いと一緒に結界陣の修復して回ってるからなにかあったらそっちに来て」
思わぬ足止めだったが、見て見ぬふりもなんか後味が悪いのでレジナ達は出来ることを行っていた。
レオンも、生き埋めになった人を探して回り救助の手伝いをしている。
夜にはリテーゼの街が属している国、オーズァ国から報せを受けたらしい軍が支援物資を持ってやってきた。
その頃には、結界は完全に修復されていた。
さすがに、誰も謝礼のことは口にせず軍に状況など、知りうることを報告すると竜車で来た者達は、一人、また一人と旅立って行った。
レジナ達が出発したのは、それから三日後のことだった。
「レオンは何故についてくるの?」
「途中まで同じなら、防犯も兼ねて一緒に行こうかなという打算です」
「ふーん」
「それにしても、魔族の襲撃とは驚きました。
向こうも、なりふり構わないようになってきてるんでしょうか?」
「どうかな?」
「と、言うと?」
「まあ、いっか。
あのね、あたしらちょっと前に魔族を相手にしたことがあるんだけど」
「!」
思わずレオンはカガリを見た。
「あの子とは別件だよ」
正確には全くの別件というわけでもないのだが、説明するのが面倒くさいので、レジナはそう言った。
そして、続ける。
レジナの話した内容に、レオンが顎に手をやり考える素振りをする。
「つまり、魔族からしたらあくまで標的は召喚された人間で、それ以外に興味はない、と」
「たぶん。魔族側がどう言った組織なのかいまいち知らないからアレだけど。
あたし達は二回魔族と鉢合わせして、一回目は召喚された勇者達とその仲間を派手に巻き込んで、一方的に痛めつけた。
本人からしたら殺した気になったのかもしれない。
で、報告をしに魔王の元に戻ったら、まだ相手は生きている。
二回目は顔の情報を得てピンポイントで狙ってきたように、感じた。
その時のお仲間には手を出していなかったから。
今回も、リテーゼの街で収集した話によると、魔族側の目的はあくまで召喚された勇者達が目的だったような感じだし」
「根拠を聞いてもいいですか?」
「厄介な結界を最初に解除しようとしたのは、魔族側じゃなくて勇者や冒険者側だったこと。
結界内だと、基本的に魔法が使えなくなる。
どんなに魔力が絶大だろうと、強力な魔法を扱えようと関係ない。
そして、結界の復旧作業をしてわかったことなんだけど、身体強化も出来なければ、特技の使用も制限されるような設定になってた。
まだ各国の首都ですら、取り入れていない技術が使われてた。
つまり、あの街の中だと純粋な己の力だけの勝負になるってこと。
魔法技術の発達によって、一部では、特技ーースキルなんて呼称される技も近代から現代に至るまで研究、開発された。
でも、あの街ではそれが使用できなかった。
そして、それは魔族も同じだった。
人間側には魔法や特技に依存している者が多いから、枷にしかならないそれを解除しようとした。
もう一度言うけど、あの街の惨状も、結界が解除されてから暴れた人間による被害の方が大きかったみたいだし」
「魔族にとっても有利な状況になったのに、ほとんど抵抗しなかった?」
「正直、微妙なところかな。
現場に居合わせたわけじゃないし。
ただ、何人か結界の解除前に勇者が魔族によって殺されたのは事実みたいだし」
「魔族は、何がしたいんでしょう?」
「さあね。
でも、伝説の武器の使用者さえ潰せば脅威は消える、みたいなことは考えてそう」
本当は、レジナは直に魔族と会話を交わしてそのような事を聞いていたが、余計な疑いを持たれても嫌なのでそう誤魔化した。
リテーゼから一番近い村に立ち寄った時、村人にかなり邪険にされてしまった。
理由をようやっと聞くと、リテーゼで暴れたらしき者達が盗賊のように食料を奪って言ったのだという。
そして、その中に容姿が大変整った者がいたとかで、若い娘が誑かされついて行ってしまったというのだ。
水だけでも調達したかったのだが、下手に刺激するのもアレなのでレジナ達はさっさとその村を出た。
そこからは、訪れる先々で似たような扱いを受け、レジナにも鬱憤が溜まっていた。
やがて、追いつけるかどうかはわからないが、どこかで追いついたらその常識知らずな者達に拳骨をくれてやるのだ、と意気込み始めた。
「たぶん、拳骨だけで済まないな」
アーサーが不穏なことを呟いた。
カガリも同意だった。
レオンは苦笑するだけに留めておいた。
誰も、最初の犠牲者にはなりたくなかった。




