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そして、もう一度言った。
「んじゃ、この剣貰うから。
恨むなら無力な自分らを恨めよー」
「ま、待て!」
手をヒラヒラさせ、立ち去ろうとするアーサーにヨシハルが立ち上がり、呼び止める。
「んだよ?」
「それを返せ!」
「ヤダ」
「んな!?」
「お前は猫じゃらしに負けたんだよ。
いい加減わかれよ?」
「それは!」
「あ、でも条件付きでなら返してもいいぜ」
ニヤリ、と悪い顔をしてアーサーが言った。
「全裸、はさすがに可哀想だから下着一枚になって土下座。
んで、『俺は他人の持ち物を強盗しようとした、卑しい卑しい泥棒です』って言って役所に自首しろ」
「できるか!」
思わず、ヨシハルが返した。
「なんだ、男らしくねーな。
たかだか糞の役にも立たないプライド捨てて前科持ちになれば許してやってもいいって話なのに」
男らしさってなんだろう?
女であるレジナにはわからなかった。
そういえば今更だが、カガリの姿を捜してキョロキョロと周囲を確認する。
すると、見つけた。
彼はリストのようなものを見ながら、野次馬達から硬貨を貰っている最中だった。
どうやら、アーサーの入れ知恵でこのトラブルを賭け事にしていたようだ。
集めた硬貨の一部を、今度は賭けに勝ったらしい者に配っていく。
参加料金と賭け金を分けていたようである。
カガリも中々に度胸がついたなぁと思いながら、もう一度アーサー達の方を、正確にはアーサーの背にある剣を見た。
「あの剣、もしかしてレーヴァテイン?
でもーー」
不思議に思って、アーサーに近づいてその剣をまじまじと見る。
「どした?」
アーサーがレジナに気づいて、声をかける。
「お前、昼間の!」
ヨシハルの方も、レジナのことを思い出して憎々しそうに言った。
「これ、レーヴァテイン、だよね?」
炎や光を纏う、神々が鍛えたとされる剣である。
「だったらなんだ!?」
「ねぇ、これどこで手に入れたの?」
「それがどうした!?」
レジナが剣に触れる。
その鞘に彫られた文字をなぞる。
「どした?」
アーサーがもう一度訊いた。
「そこのボク、もう一度確認するけど、これ持ち主がいたでしょう?
この剣、その人から貰ったの?
それとも、こいつの神剣のように奪おうとした?
いや、奪ったの?」
「は?」
意味がわからないとばかりに、ヨシハルが間抜けな声をもらした。
答えは、人間族の少女エミルがくれた。
「言いがかりばかり!
それは、悪い魔女に蹂躙された村を救った際に手に入れ、ハルが持ち主として選ばれた聖剣だよ!」
「へぇ、魔女、魔女ね。
その魔女って森に住んでた?
そんで、村からは散々な評判で、井戸に毒を入れたとか、その井戸の水を飲んだ家畜が死んだとか言われてた?」
「それがなんだって言うの?!」
「それは、肯定したってことで良いのかな?」
静かに、レジナは訊いた。
「悪い魔女を退治した、その何が悪い?
あの魔女は村から金銀すらも奪っていた!」
「そう。
じゃあ、誰が魔女を殺したの?」
「アレは、人じゃ無かった。
化け物だ。だから、殺したんじゃない、退治したんだ!」
「違うよ。
その人、ただ老後を悠々自適に過ごしてた元探求者のお婆さんだよ。
お金があったのは、若い頃に宝探しで一発当てたり地味に貯金してたから。
家畜が死んだのは、村の井戸に毒が入れられたんじゃなくて、病気の可能性が高い。
あれほど、住む場所は考えた方が良いって言っておいたのにね。
あの人、人が良かったから。
君、魔女の家を訪ねて問答無用で切り殺した?
違うよね? たぶん、お茶とクッキーでもてなされたはずだよ。
で、相手がなにか仕掛けてくる前に期をみて殺した。
そんなところかな?
ところで、選ばれた選ばれたって言ってるけど。
もしかして、君にはこの剣から声が聴こえてるんじゃない?
で、声が聴こえてからじゃないと剣を鞘から抜けないとか、そもそも使えなかったりするんじゃない?
そして、その声が聴こえるのは君だけで、だからこそ君にしかこの剣は扱えないってことで良いかな?」
「なんで、そのことを」
彼が、言葉を失う。
彼に付き従う少女達も驚いていることから、話だけは聞いていたのかもしれない。
「……アーサー、ちょっと借りるよ」
よいしょ、とレジナがレーヴァテインを引き抜いた。
「嘘だろ」
鞘にしまうのは別だが、鞘から抜くのはヨシハルにしか出来ないはずだった。
しかし、今レジナは鞘に収められていた剣を抜いて見せた。
「ありゃ、あたしも選ばれたみたいだねぇ」
人の悪い笑みを浮かべて、レジナはその剣を一振する。
すると、剣が炎を纏った。
「うそだ」
力なく、ヨシハルは言った。
「嘘じゃない。これが現実。
この剣はかなりのビッチなんだよ。
そして、この剣にとって特別は君だけじゃなかった。
それだけのことだよ。
それと、君は弱いよ。特別でもなく、弱い。
だから負けた。
君に盲目なその女の子達も弱いよ。
君たちはね、自分たちの力量も、喧嘩を売る相手さえも間違えたんだよ」
強くないから、弱いから、相手を間違えたから。
だから、負けたしアーサーの言葉を撤回させることも取り消すことも出来ないのだ、と遠回しにレジナは言った。
そうして、レジナが指をパチンと鳴らす。
すると、それだけでハーレムパーティの意識は落ちてしまう。
立ち上がっていた、ヨシハルも再びその場に倒れてしまう。
と、そこで誰かが通報したのか、遅くなったが役人がやってくるのが分かり野次馬に混じって、レジナ達はその場から離れたのだった。
宿に戻り、宴会場にて他の客達とともに食べ放題の料理に舌鼓をうちつつ、レジナはアーサーに先程の事の次第を訊ねた。
「俺の神剣を見て、イチャモンつけてきたんだよ」
「で、喧嘩?」
「喧嘩にもなってない。
あいつら弱すぎだったし」
だろうなぁ、と相槌をうちつつレジナは料理を食べる。
「それにしても、聖剣に呪いの細工がしてあるなんて驚いた」
レーヴァテインのことだ。
ヨシハルが剣に選ばれたと信じて疑っていなかった機能のことである。
「あの人が万が一のことを考えて、剣を奪った相手に一矢むくいる目的で仕掛けてたんだろうね。
エルフの子も気づいて無かったことから、失われた魔法技術を使って細工したんだと思う。
あたしと同じ探求者にしか解けないように」
「どっちかって言うと保険だな」
「うん、あたしもそう思う。
でも、疲れたなぁ。明日はずっと寝てよう。
もう変な奴らに絡まれるの嫌だしさ」
「同感だ」
ちなみに、レーヴァテインは呪いを解いてアーサー預かりとなったのだが邪魔なのでレジナが収納している。
「というか」
そこで、アーサーは話に入らず、ライスに塩をぶっかけて食べるという暴挙に出ているカガリを見た。
「そいつが、ああいう変なのにならないよう躾ちゃんとしておけよ」
ヨシハルもそうだが、馬車で乗り合わせたトーマとエリシアの2人組、そして、ファルゼル王国に召喚され結局魔族に殺されたカガリの元クラスメイトといい、こちらの世界に呼ばれたらしき者達はなぜか、妙に自信があり厚顔無恥なのだろう。
「これで、海苔と味噌があったら最高なのに」
食塩ぶっかけライスをたべながら、カガリはそう呟いた。
香辛料よりも、彼は塩分に飢えていたのだ。
「まぁ、そうだね」




