02-34:逃げられ、逃げられ、逃げられた
揚羽が妖刀に呑まれた。これだけでも厄介だった状況だというのに、ここぞとばかりに乗り込んで来た五人の魔法少女達。漁夫の利狙いでももうちょっと空気読もうか、と言いたくなるくらい面倒なタイミングでの乱入に一樹はキレた。
どうして魔法少女ってのは俺の邪魔ばかりするかな。
もう召喚士がどうとか召喚獣がどうとか魔法少女云々を考えるのも面倒になった一樹は揚羽の暴走を一旦放置し、先に周りから片付けることにした。
淫魔の視線は魔法少女に、魔法少女の視線は揚羽に、揚羽の視線は淫魔にそれぞれ向いている。
どこかが動けば連鎖的に他も動き出す。消耗した淫魔や理性を失っているであろう揚羽では魔法少女の相手が務まるかどうか。
そもそも魔法少女の目的が分からない。魔法少女が魔法少女らしく世界の平和だとかそういう頭の中お花畑なメルヘン少女であったなら今回の事件を収拾しに来たのだろうが、生憎と魔法少女にそんな者はいない。彼女たちは彼女たちの都合で動く。その行動には殺人などの犯罪行為も含まれる。魔法を行使して行われる犯罪は完璧で、魔法少女は決して法に縛られることはない。
魔法を使ってやりたい放題の問題児。それが魔法少女だ。
そんな魔法少女が乱入してきた以上なにかしらの目的があるに違いない。
見上げた空、魔法少女の一人と目が合った。陸上競技のユニフォームの様な格好をした蒼い魔法少女だ。彼女だけはどうしてか一樹を見ている。
沈黙が支配した睨み合いが唐突に終わる。
魔法少女の一人、ネグリジェみたいな恰好をした赤い魔法少女が揚羽目掛けて光線を放った。
その光線を合図に場は一斉に動き出す。
魔法少女達は二人と三人の二手に別れた。
三人青、白、碧の魔法少女が一樹の方へと向かってくる。
光線を放った赤と赤を守るようにして空中に待機している黄色。
光線の直撃を受けた揚羽。そのどさくさで一樹の方へと向かってくる淫魔。
『これはあれか、揚羽の足止めをしている間に俺を袋叩きにしようという』
乱入のタイミングからみて魔法少女と淫魔が共闘関係の可能性もある。分断しつつ各個撃破というのも分かり易い構図だ。共闘関係になくとも魔法少女がどちらかに仕掛ければそれに便乗するというのも理解できる。
どちらにしても今、もっとも不利なのは一樹で間違いない。
向かってくる面々に一樹は形態変化を用いて地面から大量の刃を生やす。
魔法少女は減速しながら刃と刃の間を器用にすり抜け、後ろにいた碧の魔法少女だけは停止し刃の林から完全に離脱。淫魔は形態変化を吹き飛ばし真っ直ぐに向かってくる。
移動速度が落ちた魔法少女に淫魔が追い付いた。けれど一樹まではまだ距離がある。
地面から生やした刃の側面から枝分かれするように刃を生やして追い打ちをかける。
全方位からの攻撃に淫魔は足を止めて迎え撃ち、魔法少女は串刺しになりつつも離脱した。
『今ので仕留められるかと思ったんだが』
『いつかの魔法少女達よりも遥かに優秀ですね』
夏に相対した魔法少女達は軒並み串刺しにされればパニックに陥り、そのまま一樹が止めを刺した。串刺しにされても平然と動ける胆力は見上げたものだ。
『きっと主戦力として数えられてる連中だろう。そんな奴らが今更どうしてやって来たのかが気になるが、今はとっとと始末しないと暴走した揚羽が何を仕出かすか分かったもんじゃない』
刃の林を離脱した魔法少女は全身血塗れだったにもかかわらずもう元気そうに身体を動かして各部のチェックをしている。どうにも碧の魔法少女は回復が得意のようだ。一人距離を置いていたのも回復役だからだろう。
一樹は脚に力を込めて全力で跳躍する。
狙うは碧の魔法少女。
弾丸の如く飛び出した一樹は瞬く間に碧の魔法少女へと接近する。
すれ違い様に一刀、からの形態変化による奇襲。
碧の魔法少女は一刀を回避。しかし続く形態変化による奇襲には対応できずに胸を貫かれた。
勢いそのままに遠ざかる一樹。胸を貫かれたまま引っ張られる碧の魔法少女は無抵抗。このまま地面に叩きつければ一丁上がり、そのはずだったが。
『そう上手くはいかないか』
一樹の進行方向に先回りした白い魔法少女は盾で一樹を構え受け止める。
盾で受け止められた一樹はついでとばかりに形態変化で白い魔法少女を攻撃する。しかし突如として出現した輝く石が宙を舞い、白い魔法少女を襲う刃を全て迎撃する。
これも魔法か?
一樹の知る魔法少女の魔法はアニメなんかのイメージに近い。とにかく放って攻撃したり、障壁を展開しての防御する。そういったものだった。石を出現させて自在に操り攻撃を弾くというのは一樹の知る魔法少女の理屈で言うとやや違う。
だが、だからこそ的確に攻撃を凌げたわけだ。
もし展開したのが魔法障壁の類であれば、形態変化の刃は弾かれることなくスパスパ断っていたはずだ。石という確かな物質であったが故に刃は弾かれた。
一樹の攻撃は失敗に終わり、盾を持つ白い魔法少女に押し返される。押し返された先には蒼い魔法少女が先回りしており、攻撃の準備は整っていた。
幾何学模様の魔法陣が展開されると、そこには無数に現れる蒼く輝く石が現れた。石のひとつひとつに魔法陣が展開され、魔法陣が光を放つと同時に石が射出された。
防御、するわけにもいかねえか。
一樹は周囲を確認し、後方から飛来する石の他にも白い魔法少女が追撃用の魔法を準備しているのに気づく。きっと防御のために足を止めればその魔法が飛んでくるのだろう。そしてそれを凌いでも他の魔法少女が準備中の魔法が飛んでくる。
交互に魔法を展開することで隙なく攻撃し続けるわけだ。小学生でも知っている信長の火縄銃と一緒だ。
一樹の判断は一瞬で終わる。空中に足場を作り出し横へ跳ぶ。
突然の挙動に動揺しつつも魔法少女達はしっかりと対応する。一樹を追うように放たれる魔法を、一樹は空を飛び跳ねながら回避する。
しかし凄いな。揚羽はこんなのをポンポン使ってたのか。
たかだか数歩空中を駆けただけでグラつきそうになるほど燃費が悪い。一樹の技術が未熟であることを差し引いても燃費が悪い。刀子が滅多に使わなかったのもきっとこの燃費の悪さが理由だろう。
とっとと仕留めないと拙いか。
跳躍で一直線に碧の魔法少女へと飛ぶ。それを見れば蒼と白の魔法少女はフォローに入る。白の魔法少女は進行方向へと躍り出て輝く盾で一樹を受け止める。すぐに蒼の魔法少女が接近し背後から挟撃を仕掛ける。
ここだ。
一樹は全身から魂を放出する。
「「え?」」
魔法少女は理解が追い付いていない。
それもそうだろう。一瞬にして変身が解けたのだから。
つい数時間前まで一樹もこの技に悪戦苦闘していたのだから初見の魔法少女にどうこう出来るとは思えない。
そして動揺した魔法少女達に一樹はすかさず形態変化の刃を伸ばす。
蒼の魔法少女は腕を伸ばして急所を避けたが白の魔法少女は一樹を受け止めていたせいで対処できずに全身串刺し。ついでに首を刎ねようかと伸ばしたがそれは防がれた。変身が解けようとも優秀な魔法少女のようだ。
二人の魔法少女を地面に放り、碧の魔法少女へと攻め入る。
碧の魔法少女は魔法で防壁を展開するが一樹の前では紙防御である。幾重にも張られた防壁を突き破り肉迫。
振るわれるのは必殺の一刀。
手を伸ばして抵抗する魔法少女。
その首を刎ねる未来が確かなものになろうとしたその瞬間。黄色の魔法少女が横槍を入れた。
「いやー、危なかったっすね」
揚羽を放置し一樹の方へと参戦した黄色の魔法少女はどうやらこのチームに置いて遊撃手のようなポジションだったようだ。
絶好のチャンスを逃した一樹。
形態変化で攻撃するが黄色の魔法少女は碧の魔法少女の手を取ると驚くべき速度で飛んでいく。防御を一切しないのは先程までの一連の流れを見ていたのだろう。魔法による防御は一切せずに回避に専念している。
移動速度も悪くない。何より目がいい。形態変化の挙動をちゃんと見切っている。
追いかけようとすれば広範囲に高威力の魔法を撒き散らして爆発させる。魔法自体は掻き消せるが爆発で生まれた爆風は消せない。そこに何かの粉を混ぜて目くらましまでやっている。
逃げられた。
振り返れば先程落とした蒼と白の魔法少女も復帰している。
あっちも回復魔法使えるのがいたか。
連携が上手く、複数の回復手段を持ち、逃げる事への躊躇いがない。
なるほど強いわけだ。
単純な戦闘力というよりも戦況の見極めの上手さが彼女たちの強みだろう。生き残ることに重きを置いている。逃げ延びて対策をしっかりする学習からくる強さ。厄介極まりない。
よく見れば四人の魔法少女からは既に撤退の雰囲気が見て取れる。
逃げに徹された場合一樹は追いきれない。所詮一樹は近接戦闘型なのだから。
「てか一当たりして逃げるってあいつら何しに来たんだよ。召喚士と召喚獣には逃げられるし。魔法少女ってホント碌なことしねーな」
それとも召喚士たちを逃がすために乱入したとでも言うのだろうか。
「本当に共闘関係とかじゃないだろうな」
――――――――――――
どうしてこうなったのか。
蒼い魔法少女はいつも後悔ばかりしている。
事の発端は匿名の動画投稿サイトにて流れた一つの動画が発見されたこと。
その動画に映し出されたのは三流スプラッタだった。鬼面の鎧武者が全裸の男達を斬殺していく、ただそれだけ。映像作品としては下の下作だ。
けれど問題はそこに映った鬼面の鎧武者の方だ。
「コイツって確か」
「夏に魔法少女を大量殺戮し、静岡を吹き飛ばした鬼武者とその特徴が一致しています」
「あの惨劇から生き残ったというの?」
あの夏、世界に罅が入り、その影響で謎の爆発が起きた。爆発の影響で連鎖的に起こった地震と津波に呑み込まれて日本地図から静岡の名前が消えた。千人近い魔法少女の犠牲と共に。
地図が書き換えられるほどの被害を出した戦いの中心にいたはずの鬼面の鎧武者が今度は京都で殺戮を繰り広げている。
京都に一体何が?
「とにかく確認だけでもした方が良くないか?」
「いやいやヤバいっすよ。ウチらの担当は関東なんすからほっときましょうって」
「だがあの殺戮は」
「フィクションかもしれないじゃないっすか。普通に考えて街に全裸で繰り出すとかありえないっす」
「確かに」
白の魔法少女と黄色の魔法少女の口論はどちらも正しい。
白の魔法少女が言うように未知の脅威を野放しにした場合の危険性は馬鹿にならない。確認だけでもしておきたい。けれど黄色の魔法少女の言い分も確かにある。藪蛇をつついて文字通り鬼を出す結果になるのは避けたい。未知故に対策は何もないのだから。しかし確認できなければ対策の立てようもない。
そこへ碧の魔法少女が別の可能性を示す。
「それに罠の可能性もありますよ」
罠。確かにその可能性も考えられる。スプラッタ動画を上げたところで再生数を稼げるとは思えない。何かしらの意図がある。
「あれこれ考えていても仕方がないわぁ~。そんなことよりもこの日付が確かならぁ~」
「日付?」
よく見ればその動画に映っているデジタル時計には今日の日付が記されている。時間はほんの一時間前。つまりまだこの惨劇が続いている可能性がある。
「京都まで全力でとばして二十分ってところでしょう?様子見だけでもした方がいいのでは?」
結局、賛成3:反対1:どちらでも1で確認をすることになった。
それが間違いだったのだ。
いざ戦闘を開始すればそれがはっきりと理解できた。
形を変え、変幻自在に襲い来る刃。音速で移動する鬼武者相手に私たちの魔法はまず当たらない。碧の魔法少女が回復役だと分かるとあからさまに狙ってくる。白の魔法少女が移動先を読んで先回りをするが盾で受け止めるのが精一杯。それに合わせて挟撃するも近付けば鎧が刃に変化して襲ってくる。
魔法障壁を展開してもあっさりと斬られた。まるで防げない。
もう無理だ。撤退の合図を送る。
しかし鬼武者が私たちを逃してくれるはずもなく、私たちの戦闘は継続を余儀なくされた。
せめてもの救いが白の魔法少女の盾があの刃を凌げることだろう。どうやら物理的な防御であれば可能のようだ。私には無理だ。とにかく回避するしかない。
白の魔法少女が攻撃を受け止められる。一縷の望みが見えた。それが誘いだったなんて誰も気付けなかった。
白の魔法少女が鬼武者を受け止め完璧なタイミングでの挟撃。
その瞬間を鬼は待っていたのだ。
「「え?」」
攻撃が当たる、その瞬間私たちの変身が解けた。魔法少女も変身が解ければただの中学生。鬼武者より伸びる刃に抵抗など出来るはずもなく、どうにかして急所を外すだけで精一杯だった。
意識が遠のく中それでも必死に回復魔法を発動させる。回復魔法は問題なく発動した。どうやら魔法を封じられたわけではないようだ。
空中にてどうにか回復をした私は同じく落ち行く白の魔法少女を抱きかかえ、地面に着地。
致命傷だが生きている。回復魔法を掛けるが碧の魔法少女の様に一瞬でとはいかない。もう少し時間が掛かる。
孤立した碧の魔法少女が狙われる。
「黄色!」
「あいよ!」
黄色の魔法少女は私の思惑を理解し、碧の魔法少女を助けると戦線の離脱を計った。私たちも離脱を開始する。
既に赤の魔法少女にも離脱の合図は出している。最強の魔法少女である彼女であれば一人でも離脱可能だろうと。私たちはそれぞれ離脱、いや敗走した。
結界から抜け出し予め決めていた集合場所で待った。
程なくして碧の魔法少女と黄色の魔法少女はやってきた。
けれどどれだけ待っても赤の魔法少女は集合場所へは来なかった。
一人残した赤の魔法少女が戦線を離脱できなかったのだ。
どうしてこうなったのか。
私たちは最強の魔法少女。
それが敗走とは笑えない。好き勝手してきたツケが回ってきたのだ。
魔法少女が世界のために戦う時が来たのだろう。
気付くのが遅すぎた。
今のままでは、魔法少女では、この世界は救えない。




