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魂のアリカ  作者: 白鴻 南
2:主人公不在の世界
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02-35:少女は変態する

 魔法少女に逃げられた。

 けれどまだ一人残っている。揚羽と交戦している赤い魔法少女だ。遠距離から一方的に魔法を撃ち込んでいる。典型的な第五世代魔法少女の戦闘スタイル。

 赤い光に呑み込まれ揚羽の姿は確認出来ない。

 けれど揚羽は無事だろうと一樹は確信している。赤い魔法少女から放たれる光線が不自然に曲がっているのだ。きっと揚羽が弾いているのだろう。

 赤の魔法少女は仲間が離脱したのを見て自身も離脱する用意を始めた。

 距離を置くほどに攻撃の間隔は伸びていく。光線が途切れ、垣間見える揚羽は健在。よく見れば全ての光線を妖刀で斬っている。そんなことも出来るのかと一樹は驚く。

 揚羽は一樹の様に魔法を構成する魂を押し流して崩壊させているわけではない。純粋に剣術で、剣技で切断しているのだ。はっきり言ってどうかしている。

 赤の魔法少女は完全に戦線を離脱した、かに見えた。

 それは一瞬の間に起こった。

 一樹を以てしても感知出来ない速さで揚羽が赤の魔法少女に肉薄していた。

 赤の魔法少女は一樹以上に驚いている。咄嗟に放つ魔法は収束が足りていないのか四散するように広範囲へと広がった。

 揚羽は一振りすると四散した光線を切り裂き、ステップインで近付くと、気負うことなくその手を振るう。

 驚愕に見開かれた魔法少女の瞳には確かな動揺が宿っていた。

 当然だ。今揚羽の挙動は一樹にすら感知できなかった。一体どうしたのか揚羽の挙動を時折見失う。一樹でさえ見失うのだ。肉迫して攻撃を受けている魔法少女には余計に感知できまい。

 必死に応戦する魔法少女。しかし典型的な第五世代魔法少女に近接戦闘は厳しかったようだ。呆気なく揚羽に切り刻まれた。それでも魔法少女は致命傷には程遠い。斬られた傍から回復している。

 妖しく笑う揚羽が空を駆ける。


「くっそがぁあああああああああ!!!調子くれてんじゃねぇええぞ!!!!!」


 魔法少女は叫ぶ。

 全身から赤い光を迸らせて。

 握った拳で揚羽を殴った。

 魔法少女の拳は揚羽に綺麗に入った。

 くるくる回りながら落下していく揚羽に魔法少女は追い打ちの光線を放つ。

 しかし揚羽はニヤリと口元を歪めて飛来する光線を斬る。切り裂かれた光線は地面に着弾すると爆発し、アスファルトを打ち上げる。

 打ち上げられたアスファルトは真っ直ぐ揚羽へと飛んでいく。

 魔法少女も散々光線を斬られたことから学習し搦手を覚えたようだ。

 けれど飛来するアスファルトもことも無く切り裂く揚羽。

 魔法少女の攻撃は失敗に終わったかに見えた。

 飛来するアスファルトを斬ったその僅かな時間で魔法少女は揚羽へと肉迫し再び殴りつけた。アスファルトの奇襲はこのための布石。

 

「オラオラオラアアアアアア!!!」


 動きは素人そのものだが魔法によって強化された動きはそれだけで十分な威力だった。

 揚羽はぼっこぼこに殴られ地面に叩きつけられた。

 ラッシュに次ぐラッシュで息を切らす魔法少女。

 地面に叩きつけられた揚羽は完全に沈んだ。頭蓋骨陥没は間違いない。

 それを確認した魔法少女は今度こそ離脱を計った。

 けれどその場にとどまって警戒する。

 そう、頭蓋骨陥没し、どう見ても致命傷を負っている揚羽がむくりと立ち上がる。

 それを見て魔法少女も悪態をつく。


「ゾンビかよ」


 無理もない。魔法少女も即死の攻撃を受ければ回復できない。けれど揚羽は復活してみせた。もっとも正気は保てていないが。

 復活したとは言ってもまだ完全ではなく、折れた腕がグラついている。

 魔法少女もそれを知って光線を放つ。折れた腕なら斬られることはないとそう考えたのだろう。

 しかし揚羽は折れた腕でも構うことなく振るった。光線を叩き切ると空を駆け魔法少女に迫った。

 迫り来る揚羽に魔法少女も拳を握って応戦する。

 空中でオラオラ叫びながら手足を振り回し揚羽を殴る。

 無駄に派手な光線を撃っては土煙を上げるその光景は魔法少女の戦いというよりもドラゴンボールだった。



―――――――――


 魔法少女・ルビーは混乱する。

 敵戦力を見誤り即時撤退を開始した仲間の殿を務めるまでは良かったが、いざ自分が離脱しようとした時、サムライガールの雰囲気が豹変した。二ヘラと口元を歪め虚ろな目で嗤うサムライガールを見て背筋がゾッとした。

 アレは何?

 ルビーは得体の知れない何かを確かに感じた。

 それでも何とかなるだろうと攻撃をしてみれば、あっさり凌がれ反撃に遭う。危うく意識を飛ばされそうになったが根性で耐えきり逆にぶっ飛ばして見せた。

 まさか拳で応戦する羽目になるなんて。

 第五世代最強の魔法少女と歌謳われるルビーにとってそんな不様な戦いをする羽目になるとは思いもしなかった。何時だって魔法少女らしく魔法で優雅に吹き飛ばす。それがルビーのスタイルだ。無論近接戦闘が弱いわけではない。第五世代最強の枕詞は伊達ではないのだ。

 けれど、敵のサムライガールはどれだけボコっても口元を歪めて襲い掛かってくる。魔法を切り裂き、空を駆け、自分の下までやってくるのだ。

 腕を折っても、脚を砕いても、頭を潰してもその少女は立ち上がる。

 てめぇはゾンビか。そう言いたくなる。

 ゾンビアタックを仕掛けては着実にこちらの攻撃を分析してくる。最初の方で乱用していた魔導砲はもう完全に見切られている。威力を下げて発射までの間隔を狭めるなどの小細工を弄しても一瞬の隙を作れるだけ。そして何回か使用すればその奇策さえ通用しなくなる。

 高い攻撃力、機動力に加え回復能力と学習能力を持つ敵。

 長期戦は自身の首を絞める。そう判断したルビーは戦線からの離脱を開始する。


「勿体ないけど今はそれどころじゃないしね~」


 ルビーは懐から大きな宝石を複数取り出すと、敵目掛けて放り投げた。

 差し当たって回避不可能な広範囲高火力の大技を放つ。

 落下する宝石は空中、サムライガールのすぐ近くで砕け、眩い光を放つ。光はある程度収束された光線となって射線上の全てを貫くレーザーだった。

 複数放られた宝石全てがレーザーを放射する爆弾。

 正直に狙っても刀で斬られてしまう。ならば周囲を埋め尽くす攻撃に切り替えた。仲間との連携が難しく普段使うことのないとっておきだ。

 落下中の宝石がまた一つ砕け光を放つ。連鎖的に爆発し光線を放つ。

 そして砕けた宝石に光線が触れれば光線は別の角度へと反射される。様々な角度から襲い掛かる光線に辛うじて急所を外すもサムライガールは対処しきれていない。

 ルビーは光線がサムライガールの手足を焼き切るのを見て、即座に離脱を開始した。いくら再生できるといっても損傷直後は不可能なはず。

 全力で離脱するルビーは背後からの殺気に気付く。咄嗟に急停止すると目の前を何かが通過したのを確かに見た。

 え?今の軌道、あたしが止まらなかったら直撃コースなんだけど。

 振り返るとそこには誰もいない。サムライガールは焼き切れた手足と共に落下中。

 まさか、あたしの攻撃を喰らう直前に逃走ルートを予測して攻撃を放った?

 有り得ない、けれどそうとでも考えなければあの攻撃の軌跡は有り得ないものだった。

 もし、もしも、こちらの思惑を読んで攻撃してきたとするならば、素直に逃げるのは逆に危険だ。逃走ルートはそう多くない、簡単に予想されてしまう。そこに罠を張ることも。むしろそっちの方が容易だろう。

 この敵から逃げおおせるには倒すのが最も安全だ。

 そう判断し、落下していくサムライガールを見下ろすルビーは違和感に気付く。

 サムライガールが纏う雰囲気が一変していた。まるで別人。

 一体何が、そう思った瞬間サムライガールは白い光に呑み込まれ、次の瞬間光の繭から現れたのは深い青と黄色の羽を生やした漆黒のドレス姿の美少女だった。

 


――――――――――――


 揚羽と魔法少女の戦闘を眺めていた一樹は気付く。


『あれ?揚羽正気に戻ってね?』


 暴走した揚羽は一見してゾンビアタック上等な無茶な攻め方をしつつもその実は再生可能な範囲に収めて合理的に戦っていた。

 一樹は基本攻撃を受けないで避ける。ゲームとは違い現実の戦闘では殴られれば損傷しそれだけで動きが鈍る、パフォーマンスが落ちる、格下相手でのあっけなく敗北する。だから攻撃は受けない。それが鉄則だ。

 けれど揚羽の場合妖刀の能力で即座に回復する。即死に至らなければ肉体が修復する。だからある程度のダメージ覚悟な無茶な攻め方を組み込める。治るのだから避ける手間を省いた方が手が速いという考えだろう。

 だから一樹は暴走する揚羽と魔法少女戦闘を眺めていた。下手に干渉しても碌な事にはならないと理解していたから。揚羽を正気に戻すのは魔法少女をどうにかした後。そう考えて。

 そうして周囲を警戒しつつ、観戦し、魔法少女に何度となくぶちのめされる揚羽を眺めては物足りなさを感じていた。正気の揚羽ならもっとうまくダメージコントロールをするだろうにと。

 それでもぶちのめされるその都度、魔法少女の攻撃を学習している様から、おや?と疑問が生じ、光に呑み込まれ姿が変わった揚羽を見て確信に至る。


『やっぱ正気に戻ってるだろ』


『はい。それどころか揚羽はついに妖刀を完成させました』


『完成?』


 そう言えば揚羽の使っている妖刀は未だ未完成だったのを思い出した。それでも完成とはいったいどういうことだろう。


『あの妖刀が揚羽に合わせて自身の能力を開発したんです』


『そんなことが出来るのか』


『私たちの様な完成品では無理です。妖刀の能力は未完成の時に試行錯誤して自ら勝ち取っていくのです。あの妖刀は未完成品でしたから能力を獲得する際に使い手である揚羽に合わせた能力を獲得したんです』


『ちなみにタイプは?』


『見る限り蟲型(タイプインセクト)。でもそれだけじゃなさそうですね』


 蟲型(タイプインセクト)、確か刃を分離して蟲を作り出し操る能力だったか。偵察や暗殺に向いた能力だと記憶している。

 真正面から蟲型(タイプインセクト)、何かとっておきでもあるんだろうか?


『まあ正気に戻ったならそれでいいか』


『ですね、でどうします?揚羽が正気に戻ったのなら連携してとっとと魔法少女をボコった方が速いですが』


 竹千代の言うことはもっともだったが一樹は却下した。


『召喚士にも召喚獣にも逃げられたし、もういいだろう。それに揚羽も妖刀の能力を確認したいだろうし』


 能力を確認する際戦闘向けのものはどうしても対戦相手が必要になってくる。丁度目の前に魔法少女がいるのだから使わない手はないだろう。


『それもそうですね。それでは横やりが入らない様に警戒だけしてましょう』



――――――――――――――


 揚羽の意識は妖刀に乗っ取られようとも確かに存在していた。

 勝手に動く身体を俯瞰して眺める。

 そこは避けなさいよ、そっちは斬りなさいよ、と勝手に動く身体に文句をつけて。

 何度目かの失敗、撃墜され妖刀からの支配が徐々に揚羽に戻ってきているのを感じた。この分だと後二、三回で主導権を奪い返せそうだ。

 相手は腐っても第五世代最強の魔法少女。戦闘経験の浅い妖刀では揚羽の身体を十全に扱えず敗北は必須。

 けれど揚羽は不思議と敗北する気がしなかった。敗北するよりも先に妖刀が身体を返すとそう思えたからだ。

 妖刀は今揚羽の身体で戦うことで自分に必要な能力とは何かを模索している。自然とそう思った。

 妖刀とは魂が繋がる。

 きっとこういうことなのだろうと一人納得し、戦況を俯瞰する。

 また負けた。

 どうすればいい?

 もう少し相手の動きから行動を予測して。

 行動を予測。分かった。

 また負けた。

 どうすればいい?

 受けてもいい攻撃と受けてはいけない攻撃の見極めが甘い。

 受ける攻撃の見極め。分かった。

 また負けた。

 どうすればいい?

 相手の能力の分析が甘い。得手不得手を見極めて有利な戦況を作っていく。

 相手の能力の分析。有利になる戦況を作る。分かった。

 また負けた。

 どうすればいい?

 手数が足りないかな

 手数を増やす。分かった。

 また負けた。

 どうすればいい?

 何度も繰り返したやり取りに揚羽は別の答えを返した。

 どうすれば勝てると思う?

 正直な話、もう揚羽が出来るアドバイスはない。後は自身で身体を動かしながら覚えていくしかない。

 揚羽の問いにしばし沈黙したが答えは返ってきた。

 ・・・・・・身体を返す。

 そう、もういいの?

 揚羽は妖刀に問う。妖刀は「いい」と返事をし、はっきりと認識できる思いを揚羽に伝えた。そしてこの時初めて揚羽と妖刀の意思が通じ合った。


『勝ちたい。だから身体返す』


 勝ちたい。素直な思いが揚羽の胸いっぱいに広がっていく。幼くも純粋な思い。妖刀とは一体何なのだろうかとつい考えてしまった。

 けれど考えも途中で放り出す。今はこの幼き妖刀の勝ちたいという望みを叶えよう。


『そう、分かった。なら力を頂戴』


『分かった』


 揚羽はどんな能力が必要なのか思い描き、妖刀はそれを読み取っていく。

 けれど私の考えた最強の能力は不可能だとすぐに理解した。どこまで出来るのか、その上限を妖刀に訊ね、削いでいった。

 削って削って削って。そうして残った能力がこの妖刀の能力となった。

 揚羽に必要な能力全てを賄える。相性を覆すことが可能な能力に揚羽は満足する。


『それじゃあ勝ってくる』


 そうして肉体の主導権を取り戻すとともに揚羽は眩い光の繭に包まれる。


「『蝶刀(ちょうとう)・蝶の羽ばたき(バタフライエフェクト)』それがあなたの銘よ」


 真っ白な直刀は揚羽の言葉に反応すると刃渡り二メートルを超える長刀へと変化する。鍔はアゲハチョウを模しており、自分にぴったりだと満足する。

 繭の中、揚羽は命名した蝶刀を振るう。すると刃先が掛けるように分離し、分離した刃はアゲハチョウへと変化した。アゲハチョウはひらりひらりと宙を舞い揚羽の背中に止まる。

 するとアゲハチョウは光を放ち溶けていく。光に包まれた揚羽の姿が変わる。漆黒のドレスに身を包み、深い青と黄色の羽を生やすと光の繭は割れるようにして消えていく。

 御剣揚羽という少女は光の繭の中、蝶美少女へと変態したのだった。


「さぁ、第五世代最強の魔法少女。ちょっと肩慣らしに付き合ってくれる?」


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