↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂のアリカ  作者: 白鴻 南
2:主人公不在の世界
66/88

02-28:糞ゲーが終わればそれで終わりだと、一体いつから勘違いしていた?


 

 一樹の後方、そこにいる全裸の男は先程まで肉塊だった召喚士。

 もう復活したのか、随分と速いな。

 一樹はイベントが始まってから召喚士がどういう存在なのかを知った。召喚士と召喚獣はセットで纏めて殺さなければ消滅しない。片方が生きていればどれだけ細切れにしようとも再生、復活する。

 それを知った一樹はとりあえず損傷を激しくし、再生までの時間を稼ぎ、その間に仕留め損ねたもう片方を始末する作戦を実行したが、逃げに徹され、見事復活されてしまったようだ。

 二対一。それでも単純な戦闘能力であれば一樹の方が圧倒的だ。一樹の選択肢の中にもはやこの召喚士と召喚獣を生きて還すというものは存在しない。

 仕切り直すか。早く仕留めたいが、ここは時間が掛かっても確実なやり方を模索すべきだろう。

 一樹は呼吸を整える。

 全裸の男と半裸の女。二人は一樹を挟むように対極するような位置取りをしている。纏めて殺されないようにするための立ち回りだ。

 

『こいつ等、俺を倒す気がない?』


 一樹は場の空気からそう感じ取った。しかし竹千代の推測はむしろ倒しに来ているとのこと。


『おそらく、時間を稼ぐことこそが一樹を倒すために必要な一手だと考えたのでしょう』


 竹千代の予想はこうだ。

 今現在、敵の召喚獣は広範囲に精神汚染攻撃を仕掛けている。そうすることで周囲にいる召喚士や召喚獣を倒し、自らのレベルを上げながら力を付けている。その証拠に時間が経つにつれて精神汚染の濃度が徐々にだが上がり、範囲も拡大しているそうだ。

 そうして時間をかけて自身を強化しながら俺を殺しに来ている。単純な暴力だけが力ではないと。

 一樹は思考を加速させた。少し作戦を練る必要性に駆られて。


『さて、竹千代。こいつらを殺すにはセットで始末しなければならないわけだが何かいい案はあるか?』

 

『難しいですね。これまでの敵とは違い彼らには形態変化による襲撃が効きません』


 竹千代の指摘通り、一樹の長所である、形態変化による変幻自在の攻撃が効かない、というのはかなり厳しい。奇襲によるアドバンテージは勿論、攻撃の射程や手数が半減どころか九割減だ。竹千代本体の日本刀部分でしか攻撃が通じないとなればそこまで近づかなければならない。

 しかも相手はどうも格闘技界ではそれなりに名を馳せた強者にしてあの桜薙の分家。召喚アプリを手に入れたことで魂を扱う戦闘技術を有し、見た感じ攻防一体の汎用性の高い流派だ。対人戦は得意だろう。そんな相手に今の一樹は通常の攻撃手段しか持ち合わせていない。

 これは苦戦を強いられるな。

 もし一人だけならば苦戦したとしても勝てただろう。問題は召喚獣が黙って見ててくれる訳がなく、二対一で、しかも纏めて始末しなければならないことだろう。


『小細工はダメそうだし仕方ない。竹千代、身体強化を限界まで引き上げてくれ』


『ということは、純粋に運動エネルギーに任せた物理攻撃で消し飛ばすのですね?』


 敵が竹千代の形態変化、魂に関する技をある程度無力化できる以上、物理攻撃に頼らざるを得ない。そのためには身体強化の度合いを強める必要がある。

 だが身体強化は万能ではない、強化し過ぎれば制御を誤り、自らを破壊しかねない。それに速度を上げればその分制御が難しいのはどんなものでも共通だ。

 竹千代が確認を取るのもそういったリスクを理解しているからだ。ゲームの様にお手軽にステータスアップなど出来ない。現実の異能は世知辛かった。


『そうなる。とりあえずいつも通り周囲の警戒を頼む』


『分かりました』


 作戦タイムを終えて一樹は身体強化を限界まで高めた。

 体中を魂が駆け巡るこの感覚。制御を一歩間違えれば体内で血管が破裂し死に至るだろう。脳付近で破裂すれば出血の勢いで脳が潰されること間違いなし。

 思考を加速させてすら高速で巡る魂を感じる。もし思考を加速させられなかったら間違いなく制御を誤り死んでいただろう。

 他の奴等はどうやって身体強化を制御しているんだろう。

 一樹は実践で覚えたと言えば聞こえはいいが、何となくで使用している。それも死にそうな目に遭いながら、というよりも文字通り死にながら体で覚えた制御方だ。九重の世界が『心が折れない限り死なないという空間』であったからこそ体得できた技術でもある。そういう特殊な環境下でもなければ一樹はとっくに死んでいるのだ。

 過去最大の身体強化を施し、自身が制御出来るギリギリのラインを見極め、一樹は身体強化を安定化させる。

 一樹の意識は通常通り。しかし周りの世界は時が制止したかのように静かだ。音が空気の振動である以上加速された思考では音を拾うことさえ困難だ。

 加速した思考は世界さえ置き去りにし、制止した世界でただ一人、一樹だけが動く。

 召喚士を斬り付けるべく地面を蹴る。

 一樹にとっては歩いている様な感覚で、召喚士に辿り着くまでに十数秒。一樹の他に動く者はなし。

 しかしその間、現実世界にして千分の一秒以下の時間しか流れていない。

 まずは召喚士。

 召喚士目掛けて振り下ろされる竹千代の刀身。

 その時、一樹は妙な抵抗を感じた。

 目に見えない衝撃波が次々と押し寄せて、竹千代を握る一樹の腕を押し返そうとするかのような抵抗。

 それと同時に背後へと吹き飛ぶかのように動き出す召喚士に一樹は驚く。

 一樹の動きは音速を超える程に加速されている。一樹の移動による風圧はまだ召喚士へと届いていない。よって吹き飛ばされたわけではない。

 これはどういうことか。

 一樹は分析しながらも既に動いてしまった身体は止まらない。

 ゆっくりと振り下ろされる竹千代は空を切った。



―――――――――――――――――



 召喚士こと厳島亮二(いつくしまりょうじ)は死に物狂いで己の全てを賭していた。

 敵は鬼武者と呼ばれる異能界ではそこそこ名の知れた存在だ。鬼面の鎧武者が現れるとそこに必ず肉片がある。そう肉片だ。死体ではなく肉片と表現されていた。そのことについて亮二は変な表現をするなとは思いはすれど深く考えなかった。噂を流している奴の語彙力が怪しいとそう考えるくらいか。

 けれど実際に対面し、鬼武者の力の片鱗を窺えば死体ではなく肉片と表現するのが妥当だと納得した。

 何だよ今の攻撃は!?

 亮二は鬼武者の全身に漲る魂の波動を感じ全力で後方へと跳んだ。己の魂をブースターの様に射出してまで全力で逃げた。

 そうして気付けば先程まで自分が立っていた場所に鬼武者が刀を振るっているではないか。しかもその後に荒れ狂う暴風襲来し、周辺を全て吹き飛ばす。吹き飛ばされた瓦礫が亮二を襲いその迎撃にも全力で対応した。そうしてどうにか生き延びたと思えば、既に鬼武者が亮二の目の前にいた。

 これはアカン。

 鬼武者の振るう斬撃は亮二が逃げに徹しても逃げ切れるようなものではなく、左腕を突き出して鬼武者の腕に攻撃を仕掛けた。腕が振り下ろされなければ刀身が届くことはない。

 亮二は最善を選択していた。はずだった。

 亮二は忘れていた。鬼武者のと身体能力の差を。

 振り下ろされる前の腕に突き出した拳、その後に自身の魂を波にして放つ『漣(さざなみ)』という放出系の技を繰り出し難を逃れる。そのはずだった。

 しかし実際は突き出した左拳は拉げて鬼武者の刀身は亮二の左肩を切り飛ばし、続いて起こる暴風に吹き飛ばされて地面を転がる。

 拷問以上の責め苦により亮二が纏うのは己の魂だけ。傍から見れば全裸の亮二はアスファルトにその身を削られ全身の皮膚がズル剥けて真っ赤に染まるその姿は、まだホラーゲームのゾンビの方が人間の原型を留めていた。

 全身の皮を剥がれ、剥き出しの肉を擦り下ろされる。

 想像を絶する痛みに気を失うことすら出来ない。

 どうしてこうなったのだろう。

 亮二はうっすらと絶望の中でそう思ってしまった。

 召喚獣が条件を達し、レベルアップが図られ、亮二自身もこれまで以上の力を全身に感じていた。何にも勝る全能感がそこにはあった。気配では鬼武者の方が勝っていたがそれは亮二の召喚獣が限界突破をしていなかったからだとそう思っていた。戦闘技術では負けてない。そう自負していた。

 当たり前だ。鬼武者には技術なんてそんな小細工はいらなかったのだから。

 ただ移動し、腕を振るう。それだけで建物を吹き飛ばす規格外の身体能力を有する化物に、人間如きが編み出した、対人間用の戦闘技術が何の役に立つというのか。

 ここにきて亮二は自覚した。次元が違うと。

 どうすれば生き残れるのか、もう全てを賭して逃げるしかなかった。幸い全身血達磨になって吹き飛ばされているのだからこのまま吹き飛ばされつつ逃げればいいだろう。

 普通なら、そう普通ならこれで倒したと思って攻撃の手を休めただろう。

 そう、普通なら。

 生憎鬼武者は普通じゃなかった。一樹が血達磨になろうが肉片に磨り潰されようが攻撃の手を緩めない。あまりの激痛に何度ショック死したかもわからない。復活するたびに与えられる激痛にとうとう再生しても痛いと感じなくなってしまった。

 それでも振るわれ続ける暴虐にされるがまま亮二の心は肉体以上に磨り潰されていく。

 もう死にたい。

 心のどこかでそう思い始めた頃。亮二の意識は捉えた


「まあ、こんなもんか。再生しきる前にあの召喚獣も潰さないと」


 亮二の様子を見た鬼武者と目が合った。その瞳にはこれと言った感情はなく、本当にただ、作業を熟すかの様な視線に絶望する。

 鬼武者が亮二を精神的に弱らせるために痛めつけていたとか、他者を嬲ることで愉悦に浸っているとかそういった者たちの方がまだ好ましかった。

 鬼武者にとって人間を斬り飛ばしたり、殴り飛ばしたり、磨り潰したりするような処刑は通常運行。当たり前の行為でしかないと悟った時、亮二は考えてしまった。

 もし、もしもこの鬼武者に関心を持たれてその嗜虐性の片鱗でも見せられようものならきっと自分の想像を絶する地獄が待ち受けているに違いないと。

 人間じゃない。こいつは人間なんかじゃない。

 恐怖し、絶望した亮二の視界が揺らぐ。いつの間にか皮膚が再生を果たし、それを鬼武者が剥いだのだ。

 全身から吹き出した血液。失血により亮二の意識は朦朧としてきた。

 朦朧とする意識の中、亮二は自らの召喚獣に『逃げろ』とそう念じた。

 鬼武者は亮二を引き摺りながら、召喚獣へと跳んだ。

 物凄い空気抵抗を受け、亮二の頭は捥げて転がるとその後の暴風に舞い上げられた。

 空高く舞い上がった亮二の頭は、この限りある『結界』という箱庭が開かれるその瞬間を見下ろした。

 

「イベント、『蠱毒の宴』クリア条件が達成されたためただいまを以て終了します」


 頭の中に直接語り掛けてきたアナウンスをBGMに『結界(せかい)』は割れる。

 空に罅が入り硝子細工の様に崩れていく様を見上げながら亮二の頭は地面に落下し、熟れた果実が地面に落ちて潰れるが如く、地面に赤い染みを作った。

 暴虐の嵐が吹き荒れたまま、召喚アプリユーザー強制参加のイベントは、参加者一同訳が分からぬまま幕を閉じた。

 唯一分かるのは、クリア条件である、人間が十人以下になったということだけだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。