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魂のアリカ  作者: 白鴻 南
1:魔法少女と異世界人
35/88

01-34


 やることは至ってシンプル。

 風音と呼ばれる魔法少女の幼馴染とコアと呼ばれる異世界因子を切断し取り除く。

 先程までの戦闘でほぼ間違いなく風音のコアは左目にあるだろうと一樹は推測した。

 第三世代は武装デバイスなる物にコアがあると聞いていたのだが、風音は魔法を用いて自身を色々といじくりまわしているらしい。武装デバイスの中にもコアと思しき反応があるそうだが臨界の原因は左目にある方で間違いないそうなのでそちらを切除する。

 もう動くことが出来ない風音は尻餅をついたまま自身から溢れ出す魔力の水に浸かっている。水位は既に彼女の肩にまで達しており、この輝く液体が全て彼女の魂だというのだから驚きだ。

 魂ってこう火の玉みたいなイメージが強いから。

 色々と思うところはあるけれど彼女の言う通り今は時間がない。さっさと行動に移すべく、一樹は竹千代を抜いた。

 水色に輝く液体の中、竹千代はその輝きを一切寄せ付けない不自然な現象を起こしていた。水色の輝きは竹千代に届かない。まるで届く前に屈折でもしているかのように。竹千代の刀身は綺麗な銀色のままだった。

 きっとこれが以前聞いた魂同士では干渉し合えないとかいう奴なのだろう。風音の溢れ出した魂を竹千代の内にある魂で押し返している状態。

 一樹の技もその原理を利用したものである以上、この現象は望むところだ。

 引き抜いた竹千代に一樹は魂を注ぎ込む。それと同時に自らに放った魂を留め、纏わせる。先程までは竹千代の刀身の周りだけが水色の輝きを退けていたけれど、今は一樹の周りからも退いている。この調子で風音の左目にある異世界因子を吹き飛ばす。

 よくよく考えるとかなり危険な処置ではなかろうか、と土壇場でビビる一樹。左目に竹千代を突き刺す時点で左目はダメになるし、刺し過ぎれば脳を傷つける恐れもあるが、かといって浅ければコアまで届かず、左目を刺しただけとなってしまう。

 リスキーだがやらなければ確実に死が待っている。やれば助かる可能性がある。そんな漠然としたものを理由に幼馴染の左目に刀を差し込もうというのだから我ながらどうかしている。

 そう思いながら風音の見やれば、纏い状態の一樹を見上げる風音の瞳はの中、一際輝いていた光源を見つける。集中してみればその輝きの中に何か星に似た模様を発見。そして一樹は確信する。

 これが異世界因子。

 魔法少女を魔法少女たら占める異世界の技術の産物。

 この瞳に宿り輝く星を切除する。それが今俺がやるべきこと。

 一樹の緊張が魔力に波という形で具現する。波は揺れに揺れ、重なり合うと熱とともに赤い光へと変化し始める。

 深呼吸をして無理矢理鼓動を調節し、無心を心掛ける一樹。危うく一樹の緊張が風音の魂に反応して熱エネルギーへと変換されるところだったのだ。

 一樹は心を落ち着かせるためにもう何度か深呼吸をし、揺らめく瞳に輝く星を、思考を加速させながら覗く。一瞬の隙も見逃さないために。

 四音の瞳の奥底に輝く星が呼吸でもするように点滅したその瞬間を加速された思考を持って一樹のは捕らえる。

 風音の左目に差し込まれる竹千代。

 その瞬間刺し傷から溢れ出したのは涙でも血でもなく水色に輝く液体。

 ブシュブシュと音を立てて漏れ出す風音の魂を押し返すように竹千代を通して己が魂を無理矢理流し込む。

 少女は声にならない叫びをあげるも、加速する思考はその叫びを置いてけぼりにして一樹の耳には入らない。一樹は悲鳴を認識することなく自身がやるべきことに没頭する。

 途中、これ以上は入らないとでも言いたげに左目からあふれる風音の魂の量が増えた。だが一樹は刺し貫かれた瞳の奥にまだ輝く星を見ている。

 まだ届いていない。ならもっと。

 注ぐ魂の量を増やすと同時に圧を加える。

 ブルっと風音の身体が震えた。そこへ無理矢理に注ぐ一樹の魂。

 次の瞬間風音の左目は弾け、風音の穴という穴全てから水色に輝く風音の魂が噴き出した。まるで決壊するダムの如く勢いよく噴出した魂が一樹へと襲い掛かる。

 真正面にいた一樹は作業に没頭していたこともあり風音の魂をもろに浴びた。

 次の瞬間、纏いも留めも放ちも吹き飛び、あまつさえ竹千代の形態変化や身体強化すら消し飛んだ。

 加速された思考から急激に引き戻された一樹は混乱する暇もなく溢れ出た風音の魂が作り出す奔流に飲み込まれる。


「これは拙い!一樹!一旦結界から出るぞ!」


 九重は泳ぎながら一樹に近づき、腕を掴むとそのまま結界の外へと向かった。

 急激に溢れ出た風音の魂はすぐに結界を満たし、そして結界から溢れ出た。



 結界の外へと脱出した一樹は九重から何が起こったのかを簡単に説明された。

 まず一樹に起こった纏いなどの異能の解除。これは一樹が行ったことと同じことが起こったのだと説明された。

 一樹の対魔法少女技である『魂の禊』は、簡単に言うと己の魂を直接ぶち込み、その圧力で魔法少女の体内から魂を押し出す技である。魔法少女よりも魂の総量が多い一樹はそこに加えられる圧力によって押し流すことが出来る。

 それと同じことが起こったのだ。臨界中で魂の制御が出来なくなった風音は自身が崩壊する時間を少しでも伸ばすために魂を吐き出し続けていた。それがあの輝く液体の正体だ。

 そんな状態の風音に魂の禊を行い左の瞳の奥にある異世界因子との繋がりを断つことに成功した。けれど異世界因子の破壊にまでは及ばず異世界因子から溢れ出す魂の制御が風音から離れたことで決壊するダムの如く一気に噴出したのだという。

 そうなれば当然魂の量、圧力共に一樹の力負けであり、起こる事象は一樹が被ることになる。

 違いがあるとすれば直接体内に注がれるかどうかだろう。もし風音から吹き出した魂が直接一樹の体内へと流し込まれていればその時点で一樹は破裂していてもおかしくはなかったそうだ。

 勢い良過ぎて一樹の身体ごと流されたことで結界からの脱出にも繋がったが、風音救出は失敗したと言える。

 けれど一樹には自身の無力を嘆く暇さえ与えられなかった。


「今はとにかく逃げるんだ!このままだとヤバい!」


 焦る九重が説明も程々に一樹の腕を引っ張りながら自身の持つ空間へと避難を開始した。

 九重に引っ張られながら一樹はそれを見た。

 まるで花火の様に空中で破裂し、キラキラと輝く水色の雫。

 風音の魂が結界を突き破り現実にまで溢れ出したのだ。

 水色に輝く風音の魂は噴水の様に一度空へと飛びあがって重力に従い落下する。

 綺麗だなと思うのも束の間、更なる異変を一樹は目撃する。


「⋯⋯空が」


 割れた。

 夏の青空は風音の魂を目一杯浴びて、割れてしまった。

 青空の割れた境目からは虹彩異色の輝きが覗き込み、そこがこの世ならざる場所なのだと一樹に直感させる。

 そして空をかち割った風音の魂は地面へと雨のごとく降り注ぐ。

 地面に注がれた雫は弾け、次の瞬間、まるで爆撃でもされたかのような爆発がそこら中から湧き起こった。

 風音の魂が降り注ぎ一定以上の量が溜まるとそれは熱エネルギーへと変換された結果、爆発という現象が起こった。爆発はその辺にある可燃性の物を燃やし更なる爆発を誘発する。連鎖爆撃の最中、ことはそれで留まらなかった。

 爆発の衝撃が地面深くまで届いたのか今度は地震が発生した。

 強烈だった。

 元々東海地方静岡県東部、特に富士山周辺は断層が幾つも密集しており、地震が起こった時の被害規模は全国でも類を見ないだろうと言われ続けてやがて忘れ去られた土地。それでも忘れ去られるまではずっと対策を講じられてきた地域でもある。

 連鎖爆撃によって引き起こされた地震は容易に断層刺激し、地盤沈下や隆起現象を引き起こした。周囲にあった建造物などウエハースもかくやという程あっけなく粉砕された。

 そんな光景を眺めながら一樹は九重に腕を引かれこの場を後にした。


 

 九重の屋敷に着くなり一樹は九重に問い詰める。先程見た光景は何だと。あれも結界なのかと。だが一樹はあれが結界ではないと分かっていた。何故なら爆音に紛れて悲鳴を聞いたからだ。結界内に基本的に一般人はいない。

 だが、と一樹は冷静になる。仮にあそこが現実だったとしてどうなのだろう、と。現実に被害が出たからこれは止めます。止めときますとなるだろうか。答えはならない、だ。ならば九重を問い詰めるだけ時間の無駄だろう。

 九重もそう解釈しているのか「続きが気になるなら居間のテレビを点けなよ。茶々、セットしてあげて」

というと九重の胴着は作務衣へと戻り、代わりに一人の和服にエプロンを付けた美人が横に現れた。

 茶々だ。

 この九重の屋敷の門番にして人の姿で動き回れる数少ない妖刀、茶々は小走りで屋敷へ向かい。そのあとを二人して追った。

 屋敷に着くと既にテレビはとんでもないことになっていた。爆発と地震で地面は無茶苦茶。その上地震の影響で富士山が噴火。更に津波まで押し寄せ、西暦始まって以来の大震災となっていた。

 おそらく静岡県と神奈川県西部にいた人たちに生存者はおるまい。山梨や愛知といった隣接する都道府県にもその余波は伝わっており、数百万人は死んだだろう。

 けれどそんな数字よりも一樹が気になったのは割れた空がいつの間にか元に戻っていたことだった。

 見間違い?いや確かに空は割れていた。では一体⋯⋯

 一樹の疑問。その答えは九重から齎される。


「おやおや、相変わらずお早い仕事で」


 一樹は九重の零した言葉に反射的に問う


「あの割れた空について何か知ってるのか!?」


 九重は何を今更といった具合に肩をすくた。


「いや、知ってるに決まっているでしょ。あの割れた空は」


「世界の外殻が割れて世界の外の空間が垣間見えたの」


 テレビに食いついていて何者かの接近に全く気付くことが出来なかった。声のした方を振り返ればそこにはボロボロの衣装を纏った美女がいた。どう見てもファッションで着ているものではない。となるとここへ来るまでに服がボロボロになる何かがあったのだろうか。

 突然の来訪者に戸惑うことなく応じる九重


「やぁ、ハルカ。相変わらず仕事が速くて何よりだよ」


「当然でしょう。でも、まさかいきなり世界をブチ破る暴挙に出る輩がいるとは思わなかったけど、現場に行ってみれば臨界してる魔法少女しかいないからもしやと思ってこっちに来たのよ」


 臨界している魔法少女とはもしかしなくても風音、四音のことだろう。


「アンタ、四音がどうなったか知っているのか!?」


 思わず聞いてしまった。名も知らぬボロボロな美女は「あら、あの子もシオンっていうのね。シオンって名前の子は強くなるのよ」とかちゃちゃを入れてきた。


「そんなことはどうでもいい!四音は!?臨界寸前の魔法少女はどうなった!?」


「あの子なら適当に時間の流れが違う異空間に放り込んだわよ?現状ではそれくらいしか対処できないし、他の魔法少女みたいに臨界させて終わりとはいかないから。

 何?あの子がどうかしたの?」


 それから九重が経緯を語るとハルカと呼ばれた美女は呆れたと言わんばかりの表情をして一樹と九重を見た。


「臨界状態で切り離したら暴走するに決まってるじゃない。せめてしっかり断ち切れれば話は別なんでしょうけど、どう見ても素人よね?」


「それは⋯⋯」


 この美女が何を指して素人と呼んだかは知らないが、剣術も異能も素人以外の何者でもない一樹は黙って事の成り行きを見ているしかなかった。

 九重が何か言い訳じみたことを並べ、ハルカはそれを聞き流す。

 結局俺は何も出来なかったということか。

 結果を踏まえて落胆する一樹にハルカが言った。


「別に落ち込むことはないわよ?確かに馬鹿げた被害を出したけれど、それが無ければあの子は助からなかった」


「助からなかった?四音は助かったのか!?」


「そうね⋯⋯、専門的なことを言っても分からないだろうし、掻い摘んで説明するけど、君がしたことは本来とてもじゃないけど許容できないような事よ?臨界中の魔法少女から異世界因子を切り離すって、爆発寸前の核爆弾から外殻を取り払うみたいなことだからね。そんなことをすれば周囲がどうなるかなんて見たから分かるでしょ?それくらい危険極まりないことを君はした。

 その結果は見ての通り、溢れ出したエネルギー化した魂が膨大な熱エネルギーへと変わり急激に膨張し爆発した。しかもその爆発の衝撃で地震は起きるわ、富士山噴火するわ、津波は来るわで歴史的大惨事ね。

 まぁ地震や噴火、津波は運が悪かったと思いましょう。あそこでなければ起きなかった可能性の方が高いしね。

 そんな犠牲を出したおかげというのもアレだけど、結論だけ言えばシオン?ちゃんは生きている。ただ異世界因子を取り除いたせいで自身の魂が身体から零れていた。あのまま放置しておくのは危険だったから当初の予定通り現実よりも時の流れが遅い異空間に放り込んだわ」


「当初の予定?」


「あれ?聞いてないの?九重が私にとある魔法少女を時間の流れが遅い異空間に幽閉して欲しいって言ってたんだけど」


「何だそれ、それなら最初からそれでよかったんじゃ?俺がわざわざ異世界因子を取り除かなくても、それなのに俺がやって失敗して、馬鹿みてーな被害を出したと」


 ははは、と力なく笑う一樹。

 しかし、ハルカは「そう単純な話ではないの」と言って一樹の行動の意味を語る

 

「異世界因子があると異空間と異世界因子が繋がった外の空間とで時間が共有されてしまうから、せっかく時間の流れが遅い空間を用意しても意味をなさないの」


「その通り、だからどうあっても一樹君は彼女の異世界因子を切除する必要があったわけだ。予想外だったのは被害の規模だよ。いやぁ、街一つが吹っ飛ぶ程度だと考えてたんだけど、まさか地震に連鎖して噴火と津波が来ちゃうとはね」


 話の途中で九重が割り込んだ。九重としても今回の被害は予想外だったと言う。ハルカは九重が言い訳を始めそうなところで「はいはい、話を戻すわよ」と軌道修正する。


「ともかく君は故郷や友達と引き換えに幼馴染が生き残る可能性を掴み取ったの」


「可能性?」


「そ、さっきも言ったけど異世界因子を切除した影響で傷口からあの子の魂が漏れてるの。現実時間にしておそらく十分もしないうちに死ぬわ。だから十分以内にその傷口を塞がなくてはいけない」


「は?十分なんてもうとっくに過ぎてんぞ!」


 ハルカの説明を聞いて取り乱すも「落ち着け少年」と額を指で押される。

 

「さっきも言ったでしょう。時間の流れが遅い空間に放り込んだと。私の見立てでは異空間の一分がこちらの一年相当に値する。エネルギーの質、量を考えれば異空間の方がもつのは精々一分。則ち現実で一年ってところよ」


「分かり易くまとめるとこれから一年以内に風音を救う手立てを探し、準備をする猶予を一樹君は得たということだ」


「⋯⋯一年」


「そ、もって精々だから出来れば四月には整えておきたいというのが私の見立てよ」


 一年、それが長いのか短いのかは分からないが、先程の説明を聞く限り、この一年で四音を救わなければ数百万人の犠牲は正に無駄死にということになる。

 別にこの被害に対して罪悪感や負い目を感じているわけではないが無駄死にさせるには少々規模が大き過ぎた。

 一樹はこの多過ぎた犠牲をせめて意味あるものにすると決意する。


「一年以内で手段と準備を整えろ、か。わかった。やってみる」


 元々救えるなら救うつもりだったんだ。可能性がなくなるまではそれに沿って行動するべきだろう。そうすれば今回死んだ人たちの犠牲も無駄ではなかったと、そういう考え方も出来るようになる。


「おいおい、一樹君、自分が何を言「いいね、それでこそ男の子だ」」


 九重が何かを言おうとしたがハルカがそれを遮った。

 九重は何かを言いたげにハルカを見るがハルカはそれに全く応じず話は終わり、「今は君がやったことを見つめなさい」ハルカはそう言ってテレビを指さして九重と二人居間を出ていく。

 残された一樹は一人、言われた通りテレビに映る故郷の最期を看取るのであった。

 ただ一つの疑問はこの映像をどうやって撮っているのかが非常に気になった。

 

 こうして一樹は故郷も家族も友人も失い、その身一つで放り出され、一年以内に幼馴染を救う手段と準備を模索することになる。


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