上空
「なぜ、妾がこんなところにおる。飛行船など。指揮官としてせめて司令部にいなければ格好がつかんではないか。」
蓮子と北村以下レブ島居残りの将校は本国から回航してきた飛行船モトスに乗り込み、島の上空30メートルほどに浮遊していた。
「殿下、総大将は悠然と構えるものです。今回は二方面作戦のため、作戦区域が広大です。幕僚達とも相談の上、通信の関係上、上空に総司令部を置くのがよいと判断致しました。」
「わかっておる。北村。司令部の施設では確か電信が届かぬとの事であったな。」
「はい。殿下。それでも先に出港した多田野司令の艦隊とは、直接、通信できません。ゼン島につき次第、連絡機を送り、遠藤艦隊を経由して、通信してくる手筈となっております。」
無論、北村は表向きの理由しか説明していない。
万一、敵が上陸しても赤色弾は空気より重いから上空にいれば安全で、しかもこのまま帝都に逃げ帰ることも出来る。そんな事を説明すれば、蓮子は納得せず、帝室の特権を使ってでも、作戦の中止と再考を求めるだろう。今、大本営や軍令部といざこざを起こすのはまずいと北村は思った。表向きは戦意高揚のためとは言え、一国の女王殿下が辺境に回されたのだ。北村は独自の情報網で一条軍令部長に何やら黒い腹案があるという噂を掴んでおり、用心に越したことはないと考えていた。
さらに北村は蓮子の性格から敵の接近後に飛行船に司令部を移すのは困難であると直感し、遠藤艦隊の出航後すぐに司令部をこのモトスに移したのだった。
しかし、一方の蓮子は司令部を移すことより、それによって狭い飛行船内で北村や幕僚達のうるさい目からの逃げ場のない状況にうんざりしての発言だった。北村だけならまだしも幕僚たちの手前、言葉遣いも考えなくてはならない。
「うむ。我らが近衛の精鋭と遠藤、多田野の双肩にかかっておるな。」
蓮子は言葉少なに、そう言いながら、多田野の顔を思い浮かべた。蓮子も特別待遇とはいえ士官学校を出ているから、今回の作戦の難度は理解していた。もし敵が先に多田野艦隊を察知して、艦隊をゼン島に引き上げたら、もし敵が遠藤艦隊を迂回してレブを直接狙ったらと考えられる嫌な可能性は山ほどあった。なぜ大本営がこのような作戦を裁可したのか蓮子にはわからなかったが、相次ぐ勝利に念願の南方解放に湧く地元民や今まで本土に押し込められていた近衛の士気は高かったし、北村が自ら中心に欺瞞工作は行うとのことで渋々作戦の実行を許可していた。
「殿下。そろそろ、遠藤艦隊が敵勢力圏へ入るころです。」
幕僚の一人が時計を見ながら、そう言った。しばらくして通信員が手を挙げる。
「遠藤艦隊より入電。『我、敵艦隊を発見す。これより交戦す』とのこと。」
幕僚たちから少しだけ、おうというどよめきが起きた。蓮子も居ずまいを直し、声を張った。
「返電。『貴艦隊の奮戦に期待す。敵を撃滅せよ』」




