退避
「上陸作戦及び援護射撃開始。港湾施設、燃料貯蔵庫周辺には当てるな。」
「了解。近衛部隊に作戦開始の通信を入れます。」
「上陸地点前方に弾幕を張ろう。駆逐艦隊も砲撃に参加させて。」
「近衛連隊、上陸していきます。」
「敵が引いていくように見えるが。」
上陸していく近衛連隊に対して敵は距離を保ちながら後方へと下がっていく。日野が敵の動きを双眼鏡で見ながら言う。
「敵の士気が高く指示も的確と見ました。より有利な陣地に誘い込もうとしているんですよ。誘いに乗るより仕方ないのが癪ですが。」
そうこうしているうちに、近衛が全員上陸してしばらく経つと連隊長から通信が来た。
「近衛連隊長から通信。『基地内を制圧。基地敷地内に敵は見当たらず。避難してきたと見られる民間人を多数保護。』」
「敵は基地を捨てたか。訓練の成果というか呆気ないものですな。」
南條がぽつりと呟いた。多田野はすぐさま違和感を感じた。ちらりと目が合った日野も頷く。
「陸軍さんに一旦、退避命令を。」
「退避命令ですか。敵がいないなら、制圧する良い機会では。第一、こちらに陸軍の指揮権はありませんし、指揮官の内藤准将は司令より階級が上です。ここは一度、司令の考えをお聞かせください。」
彰子が多田野の考えを明確にするよう求めてくる。
「上陸時の敵の引き方、基地内での抵抗のなさから、敵がゲリラ戦を仕掛けてくる可能性がある。避難民がいなくても即席訓練の近衛にゲリラ戦の対応は不可能だ。私は、撤退を進言する。」
多田野の説明を聞いて、かしこまりましたと彰子がいい、楢橋に指示を出す。
「近衛連隊に通信。『敵にゲリラ戦の恐れあり。撤退を具申する。』」
直ぐに楢橋が手を挙げて通信が入ったことを知らせる。
「近衛連隊から返信。『多数の避難民を連れて、これ以上の戦闘は不可能。一度撤退する。情報に感謝する。』」
「内藤准将も勝ちに溺れぬ聡明な方だ。よし、敵が潜んでいそうな山間部に支援砲撃。撤退を援護する。」
多田野の号令にアサマは基地の周囲の山々に砲弾を撃ち込んでいく。決定打にはならないだろうが牽制になれば良かった。
その時、急に楢橋の動きが慌ただしくなった。
「司令、遠藤艦隊より緊急電です。」
「まさか、なにかあったのか。遠藤司令は無事か。」
最悪のシナリオが多田野の脳裏に浮かぶ。楢橋は首を振った。
「いえ、それが本国の大本営からの緊急電の転送でして。電報の転送ができるくらい戦況は落ち着いているものと思います。ただ内容が内容だけに司令自ら確認した方が良いかと。」
楢橋が言いにくそうに緊急電を書き留めた紙を多田野に手渡した。
緊急電は大本営らしく緊急電、それらしからぬ美辞麗句が並んでいたが、一言読んで多田野の表情は変わった。黙ったまま、参謀長である彰子に紙を渡す。
要約すれば、そこには大本営が宮城を占拠し、勅令をもって議会を解散させた。各艦隊はこのまま皇帝に忠誠を誓うようにと書いてあったのだった。




