解読
二階堂は送られてきた文面に頭をひねっていた。
『救援の申し出に感謝。されど要らず。神城。』
アサマに不審な小舟が近づき、乗り移るのを見て二階堂はすぐさま陸戦隊の編成をし、多田野の指示を待った。
敵の数は少数に思えたし、闇雲にアサマに乗り込めば、同士討ちの危険があったからだった。
二階堂は電文の最後に添えられた異例の神城という名前から電文は彰子個人が送ったものと解釈したが、彰子が個人的に電文を送る理由も、また軍規に明るい神城が支援と救援を間違えるとも思えず、万一間違えたとしてアサマの通信担当者が処理するはずであった。
「まさか、司令に何かあったか。」
思わず、二階堂の口から独り言が出る。
「艦長。だとしたら一大事ですよ。」
「いや、大丈夫。副長。だとすれば、神城大佐が支援を拒むはずは無い。」
二階堂は自分にも言い聞かせるようにそういったが、既に艦橋が敵の手に落ちているとしたらどうなるか。この通信は敵の手中から送られている事になる。二階堂はようやく通信に合点がいった。少なくとも神城艦長はまだ生きていると眼鏡を直し、息を整える。
二階堂は覚悟を決めた。
「急ぎ、内火艇下ろせ。アサマに乗船する。陸戦隊、護衛を頼む。」
「艦長自ら行かれるのですか。」
アヤセの副長がそれなら自分がと腕をまくる。
「いえ、副長。しばらく艦を頼みます。」
「それは構いませんが。」
副長は二階堂がわざわざ行く必要があるのかと釈然としない様子であった。
「これは私の独断だし、向こうで高度な判断を下す必要があるかもしれない。責任は取らなくては。」
もちろん、多田野と両方助かればそれでいい。しかし、多田野がもはや指揮を取れない状態でも、彰子は頑なに多田野を守ろうとするだろう。二階堂が彰子ならそうするからだ。ならば彰子に代わって自分が多田野を見捨てる判断をする。そして敵を一掃し、次席の指揮順位である今確実に生きている彰子を支える。冷酷なようだが、進行中の作戦を考えれば最善の策だと二階堂は考えた。これは司令と艦隊を支える彰子にも古参の乗組員を抑える猿渡にも出来ない判断のはずだった。
副長はしばらく考えて頷いた。
「私にはできない高度な判断ですか。かしこまりました。お気をつけて。」
「ありがとう。副長。行ってくるよ。」
軽く敬礼して二階堂はアヤセの艦橋を迷いなく出た。




