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対峙

多田野が艦橋からいなくなり、彰子は他の艦橋要員を庇うようにアンと対峙していた。艦が止まり風が無くなった艦橋はかなりの暑さとなっていたが、使命感で彰子は何も感じなかったし、アンもまた涼しい顔で立っていた。

口を開いたのはアンの方だった。

「あ、そういえば名前がまだだったわね。艦長さん。」

相変わらずアンの感情は読めないが対話を拒む訳でもないと彰子は判断した。

「神城彰子よ。銃を下ろしてくれないかしら。」

「神城艦長。それは無理ね。でも、どうして落ち着いているの。すでにあなたは降伏に従う意思があると。」

アンの言葉に艦橋にいる全員が彰子に注目する。

「どうでしょう。ただ、敵に降伏するのは帝国軍人としてありえない。でも、どんな命令でも司令の命令なら従うわ。」

「そう。たしかに彼は脅威だわ。でも、一人で何ができるかしら。しかし、貴方は、あの司令を信頼しているのね。」

ふと楢橋が手を挙げる。

「アヤセより入電。」

「二階堂艦長からね。通信長。いいわ。内容を読んで。」

楢橋は入電を書きとめ、読み上げる。

「『支援が必要か』との事です。」

「返信。このまま送って。『救援の申し出に感謝。されど要らず。神城。』」

彰子はわざとより緊急性の高い救援という言葉と末尾に自分の名前を添えた電文を送らせた。二階堂がわかるかは賭けだったが、少なくとも送り主が多田野でないということさえ伝われば良かった。

「懸命な判断です。艦長。」

アンは特に不審には思わなかったようでそう言った。アンは時計に目をやる。彰子も時計をそっと見ると多田野が出ていってから15分が過ぎていた。時間を稼がねばと彰子は考えていた。何を話すか。間違っても世間話をする場面ではない。相手に利があり、こちらも損にならない話。艦が乗っ取られた時の対応など誰も教えてくれていない。司令ならどうするか考えてたが、彰子には答えが出なかった。しばらく嫌な沈黙が続く。

「遅いわね。」

と再び口を開いたのはアンだった。

「し、司令は。しょ、書類の隅々まで確認しているのでしょう。あの方の癖です。後、そう、30分はかかるでしょうね。」

彰子は何とかそういった。

「ほう。書類なんて見るのも嫌という司令官が多い中、奇特な事ね。でも、契約を確認するのはいいことだわ。よろしい。あと15分待ちましょう。」

後、15分。申し訳ありません。司令。私に稼げる時間はこれくらいでしたと彰子は多田野がなにか合図してくれればと祈るような思いで時計の秒針を見つめていた。

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