思惑
多田野と遠藤が会っていた同じ頃、軍令部総長、一条の執務室にはいつもの黒ずくめの服の男がいた。
「例の作戦は順調か。」
と一条は葉巻に火をつける。
「はい。天衝作戦と名付けました。天を衝くと書いて。一週間後に出撃です。」
「なるほどな。天を衝くか。」
男が数枚の資料を一条の机に置いた。
「こちらが詳細です。総長機密費と海軍大臣機密費を使って、各種口止め工作及び議会工作は完了しております。海軍大臣の次期選挙も安泰でしょう。」
一条が興味なさげにパラパラと資料をめくる。
「少しかかったな。」
「それは致し方ないかと。」
「うむ。北側は外務省にしてやられたが、アメリア本土が荒れ、南方が荒れれば、我々はますます大きくなるな。これで殿下が死んでくれれば、議会も国民世論もますます、盛り上がる。」
「御意にございます。また帝室経由で頼まれればウェスタン王国も直接動かざるを得ないでしょう。」
「皇帝陛下も姪は可愛いだろうからな。後は遠藤と多田野がうまくやらなければいいが、特に厄介払いした多田野には参謀がいいのか艦隊勤務も務まってしまっているしな。」
はいと男が応じた。
「ただ、地の利も艦艇数もアメリア側に利があります。しかも今回は海軍は陸軍の近衛を守りながらというおまけ付き。いかに遠藤氏の経験、多田野氏の強運を持ってしても今回は無理でしょう。」
男の言葉に一条は一瞬、ニヤリと破顔したが直ぐに真顔に戻って葉巻を一服した。
「いや、戦争は時としてわからん。警戒しておくに越したことはない。また、いつでも動けるように頼むぞ。」
「御意。」
と男は左手を心臓に付ける動作をして消えた。




