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内密

モロ島沖での戦闘終了後、すぐに遠藤がアサマを訪れていた。

本来であれば、救援の礼をする為、多田野が遠藤を尋ねるのが筋であったが、遠藤がアサマでの会見を望んだのであった。

「この度は救援ありがとうございます。こちらから行きましたのに申し訳ありません。」

「いや、ちょうど、久しぶりにアサマにも来てみたかったしな。足を負傷したと聞いたが大丈夫か。」

「はい。おかげさまで。もう大丈夫です。」

と多田野は撃たれた足をさすった。たまに傷口が少し釣る感じがあるが日常生活に問題はなかった。

井上がすっかり慣れた様子で紅茶を淹れる。

「それは良かった。それから君は井上君だったね。」

急に呼ばれた井上が、はっと敬礼で返す。

「これからは高度な戦略的話になる。何かあれば呼ぶから。外にいて誰も入れないでくれ。紅茶は貰っておくよ。」

遠藤はまた敬礼した井上が部屋からしっかり出るのを目で追ってから、多田野と向き合った。

高度な戦略的話というのに嫌な予感がした多田野がすかさず話を促す。

「で、遠藤司令。お話とは。」

「うむ。それよ。さて、コールトン王朝の独立運動の件は聞いてるかな。」

「二階堂大佐から聞いております。」

「二階堂君か。彼ならば確かな情報を聞いていそうだな。話が早い。当初の目的を変更して、これを機に我が軍はアメリア軍に対して一大攻勢をかける。」

「一大攻勢ですか。しかし、南方には艦数が明らかに足りていません。占領後の防衛を考えればこれ以上の攻勢は危険です。」

「南方の敵艦隊を一網打尽にすれば問題ない。」

「そんな事が可能で。」

遠藤は苦い顔をした。

「一週間後の午前8時。南方海域にある全兵力で敵本拠ともくされるゼン島を急襲。これを解放する。」

「しかし、途中の島々にも小規模ながら展開中の敵戦力が確認されています。それにレブ島の守りはどうなさるのですか。殿下もいらっしゃいます。」

「殿下は密かに本国へと退避される。モロ島は元々アメリアの島であるし、放置。石炭と人造石油は惜しいが。それから、レブ島には赤色弾を使うそうだ。敵が上陸すれば、赤色弾が拡散されるように細工してな。」

多田野は立ち上がった。

「まともな作戦とは思えません。民間人を巻き込むおつもりですか。それに赤色弾を使うなど。我々の母港まで奪うおつもりですか。」

多田野の脳裏に蓮子殿下、南方水原の賑わいや小春の女将が浮かぶ。

遠藤は静かに言葉を続けた。

「軍令部が決め、海軍大臣、大本営が承認した作戦だ。近日中に正式な作戦指示書が来るだろう。拒否は出来ん。我々が勝てば良いだけだ。」

多田野は食い下がった。

「しかし、遠藤司令はそれでいいのですか。非人道兵器を使い、多くの民間人を巻き込んで。」

遠藤はまっすぐに多田野を見つめた。その目は悲しげに見えた。

「多田野くん。議会も含め我が帝国はこの機に乗じた領土拡大に一直線だ。もはや止められん。我々の使命は犠牲を少なくすることだけだ。それから…。」

と遠藤はそこで一呼吸置いた。なんでしょうかと多田野が応じる。

「赤色弾の件は内密にな。参謀達にも知らせる必要は無い。知るのは軍令部の極一部に軍令部総長と海軍大臣だけだ。」

「そもそもこんな作戦の時点で参謀達の理解が得られるとは思えません。」

「海上戦闘は我々が行う。多田野君には陸軍の護衛を頼みたい。だから解任してでも飲ませたまえ。すまんが話は以上だ。」

そう遠藤は一方的に話を終えた。

いつも温厚な遠藤らしからぬ言葉だった。

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