後味
ギールは苦々しく戦闘詳報を読み返していた。
モロ島近海でフソウ帝国のパトロール艦隊を視認。
こちらから砲撃し、初弾は夾叉。幸先は良かった。
敵も普通なら敵方は砲撃戦を選択して一方的な戦いが出来るはずだった。しかし、敵は多分、あのクラウンだった。クラウンは突如として雷撃を選択した。懸命の迎撃にも関わらず、軽巡2隻が炎上、重巡も速度低下で戦線離脱を余儀なくされた。猛訓練も実戦経験には劣り、雷撃回避には完全なバラツキが出た。そこを見逃さず、クラウンは反転攻撃を仕掛けて来た。無論、こちらも手をこまねいていた訳では無い。2波目を見越し、駆逐艦隊を回り込ませて、挟撃と敵の反転離脱を狙った。
「普通の指揮官なら反転する。でもクラウンは…。」
ギールの口から思わず独り言が出る。
「反転しなかった。雷撃後も並走、我が艦隊を盾にしてこちらの雷撃のタイミングを逸しさせた。更には煙幕を撒いて逃走。混乱状態で戦場にはエンドウ艦隊が到着。我々は撤退せざるを得なかった。被害は軽巡2撃沈、重巡1中破、駆逐艦2大破、その他小破多数」
いつの間にか部屋にいたアンがその先を引き継いだ。
ギールは驚いたが、アンに驚かされるのも癪だったので下唇を噛むことで平生を装った。
「そうだな。いつからいた。」
「つい先程からです。これが特務潜水艦の報告書です。彼女たちも監視業務には飽き飽きしているとの事ですが。」
アンは書類をギールの机の上に置いた。潜水艦も確かにギールの管轄下だった。しかし、今は先の戦闘の復習と反省に使わせて欲しい。そもそも潜水艦は専門外だと思いながらギールは苛立ちに任せて水を一気に飲んだ。水が少し気分を落ち着かせた。
「囚人どもで作られた特務潜水艦など知るか。それから、部屋に入る時はノックくらいしろ。」
「ノックはしました。知らないでは困ります。指揮権は少将にあります。」
アンは苛立ちなど、どこ吹く風と生真面目に答える。
「だから、その辺の監視をしてもらってるだろう。」
「しかし、新たな任務を与えてやってください。いろいろ奴らはうるさいので。最近は輸送艦にも護衛がつき始めましたし。」
食い下がるアンにギールは笑った。
アンが板ばさみになっていると思えば面白かった。しかし、アンも折れる気はない。そう思った。それが証拠に、アンの無表情の目は、でもどこか不思議そうにギールを見続けていた。ギールはその視線に耐えかねた。
「わかった。特務潜水艦にはレブ島の偵察を命じる。」
やっつけの任務にしては、なかなかいいとギールは思った。
それで彼女らが死んでも法務省の連中が青くなるだけである。
「わかりました。彼女らにはレブ島の偵察を任せましょう。」
アンは相変わらず表情なくそう言った。




