反対
目下の第13艦隊の任務はモロ共和国に近づくアメリア軍を発見し、それから、防衛することだった。しばらくはパトロールだけの平穏な日々が続いたが、3日も続いた頃、偵察機から情報が入った。
「偵察機より入電。艦隊正面より敵艦隊接近。重巡3軽巡6駆逐15。単縦陣。会敵まで後、1時間。」
楢橋が報告をあげた。
「やはり来ましたね。大艦隊。」
日野が下げていた双眼鏡を彰子に渡した。
「全艦戦闘配置。最大戦速。楢橋通信長、遠藤司令に救援要請。念の為、長嶺さん達を退避させてください。」
「了解。遠藤艦隊、到着まで約2時間。政治顧問団の避難完了まで約30分。」
楢橋が報告を返す。
「敵も大艦隊を仕立ててきたもんです。敵さん何としてもモロ島を取りに来たということでしょうか。」
そう日野が言った。
「でしょうね。単縦陣とはいえ、旋回もスムーズ。急激に練度は上がっていると考えていいでしょう。」
多田野はあえて彰子から渡された双眼鏡を断った。ここは2人の意見を信じることにした。
両艦隊は砲撃戦を行うべく距離を詰めていく。先に主砲の範囲に入ったのは敵だった。
「敵艦発砲。」
見張り員の報告からしばらくして、アサマの周囲に水柱が上がる。
「敵弾初弾夾叉。」
見張り員が緊迫感のある声で告げる。
「いきなり初弾夾叉なの。」
彰子が驚いた声を上げる。多田野も敵方の初弾夾叉に驚きつつも次の指示を出した。
「砲撃中止。全艦回避に専念。雷撃戦用意。」
「砲撃中止ですか。突撃するおつもりで。」
彰子がさらに驚いたように言った。
「ここは遠藤艦隊の到着を待つべきでは。」
日野からも進言がされる。
「いや、砲撃戦は分が悪い。撤退する訳にもいかない。ここは一撃離脱戦法で行く。雷撃戦用意。3500で回頭。全艦魚雷発射。」
「了解。雷撃戦用意。各艦にも連絡して。」
彰子はすぐさま命令を下した。
第13艦隊はジグザグ航行を続けながら、敵の激しい弾幕の中を進んで行く。初弾夾叉とはいえ、最大戦速で位置を変えながら進む艦隊になかなか敵弾は当たらなかった。
「距離、4000、3500、今。」
見張り員の読み上げに合わせて彰子が手を挙げ回頭を命じた。
「全艦順次回頭。てぇー。」
砲撃の中でもドボンという音がして魚雷が海を滑っていく。回避に専念するためか、一瞬、敵の砲撃が止む。
「魚雷命中3。重巡1速度低下。軽巡1大破、軽巡1炎上。」
見張り員の報告に艦橋から歓声が湧いた。
「敵艦隊、各個に回避行動中。陣形乱れてます。再度攻撃の必要を認めます。」
という彰子の報告を受けるまでもなく、雷撃により敵の陣形は一気に崩れていた。
ここまで陣形が崩れると敵に実戦経験はあまり無いのかもしれないと多田野は思い、旗艦を攻撃するように命令を出す。
「反転。再度雷撃戦を仕掛ける。目標敵旗艦。」
「ここは手傷を負った艦を仕留めるのが定石では。」
「いや、旗艦を沈めておけば、戦闘を有利に進められる。」
この短期間で練度を上げてきたとすればどこかに無理がある。指揮系統さえ潰せば、戦闘はかなり有利になるはず、多田野にはそんな考えがあった。
「敵旗艦の前に軽巡が躍り出ました。」
「左舷より敵駆逐艦隊接近。回り込まれました。」
多田野はどうすべきか一瞬逡巡した。しかし、挟撃されると考えた彰子の決断は早かった。
「雷撃中止。反転。砲撃戦用意。目標敵駆逐艦隊。」
しかし、一瞬迷っていた多田野は彰子の命令を取り消した。
「いや、進路そのまま。雷撃戦をかける。魚雷てぃー。」
「しかし、このままでは挟撃されます。」
「相手は自分の艦隊が邪魔で打てないはずだ。」
多田野の言葉に艦橋要員は皆、はっと気づいた顔をした。
確かに今駆逐艦隊が魚雷を放てば第13艦隊の奥にいる味方の艦隊に当たる可能性があった。多田野は次の作戦を下知する。
「全艦に連絡。煙幕弾用意。」
「煙幕弾ですか。こちらからの砲撃も出来なくなりますが。」
彰子の進言に混じるように、楢橋が遠藤艦隊の動向について伝える。
「遠藤艦隊より救援に30分。」
「了解。各艦、後30分耐えろ。煙幕弾用意。煙幕の中から出るな。」
多田野は各艦に煙幕弾を打ち上げさせた。




