独立
長嶺とマグス大統領との会談が終わり、正式にモロ共和国成立を受けた日、多田野は対外情報を担当する二階堂から驚くべき情報を受けていた。既に会議室には彰子以下参謀が集まっていた。
二階堂がメガネの位置を直しながら口を開く。
「先頃、アメリア西部の都市でコールトン王朝の正当後継者を名乗る女児が現れ、それと同時にアメリア西部を担当していたゴードン将軍の第3艦隊がコールトン王朝側に寝返ったと言うことです。政府は王朝側を支持するとの声明を発表しました。」
コールトン王朝はかつてアメリア大陸を支配していた最後の王朝であった。100年ほど前に革命軍により国王と王妃は処刑されたが、行方不明の王族も多く出ていた。そのうちの誰かが立ったのだろうと考えられた。
「なんと。で、この戦争に与える影響は。」
多田野の質問に二階堂はまたメガネを少し上げながら答える。
「はい。アメリアは内乱とも言えるこの事態に対処しなくてはならないでしょうから、戦争終結が早まるかも知れません。既にアメリア側から講和条約が持ちかけられているとの噂もあります。」
「長嶺議員は知っているのか。」
二階堂は首を縦に振った。
「はい。恐らくは今回の事案を知った上で出てきたものかと。」
「また、政府は前線に情報を隠してましたのか。全く。それにしてもアメリアも国内外、2方面戦争は厳しいでしょう。南方海域も落ち着いてくれるといいですな。」
彰子が手を上げる。
「しかし、猿渡大佐。政府としては南方海域を手に入れる好機とも言えます。」
「好機とは、アメリアが足元の揺らぐを見て南方海域を手に入れようという算段か。」
「いかにも。その通りです。司令はいかが考えますか。」
と不意にドアがノックされた。楢橋だった。
「失礼します。軍令部より至急電です。遠藤司令の艦隊をレブ島に戻すそうです。我々はこのままモロ島の防衛に当れとの事です。南方攻略作戦は発令されたままとの事です。」
「作戦の一時停止でなく発令されたままか。依然として戦争を続けるということなのか。」
多田野の問いに楢橋は困ったように首を振った。
「分かりません。指令には発令の継続と防衛の任に当れとしか。」
「わかった。ありがとう。」
多田野の謝辞に短い敬礼で返した楢橋は部屋出ていった。猿渡が口を開く。
「予定では次はハン島だな。二階堂。」
「そうです。作戦要領では、モロ島、ハン島、クォー島と南方諸島を一筆書きの要領で徐々に南下して行き、最後に最大の根拠地であるゼン島を叩く作戦です。参加兵力は海軍からは我が第13艦隊と遠藤司令率いる第5艦隊、第3輸送艦隊、陸軍からは蓮子殿下の第3近衛師団と陸軍特別輸送隊となっています。」
「やはり兵力が少ないな。モロ島が取れただけでも御の字なのにな。」
多田野は呟いた。正直、多田野にはこの先の展望がなかった。不可能としか言い様がなかった。
ええと彰子が応じた。
「軍令部としては、そこまで現実味のある作戦ではないのでしょう。実行するとなれば、防衛の困難さを考えると作戦開始後は可及的速やかに最大根拠地まで解放しなくてはならないでしょう。」
「電撃戦というわけですな。困難ですな。」
猿渡が頭を掻く。南方海域に展開する敵艦隊相手に電撃戦などできるわけが無い。これが多田野と参謀達の共通の認識であることは間違いなかった。
「二階堂大佐、確か作戦開始時期は未定だったな。」
多田野は二階堂に確認した。
「はい。司令。作戦開始時期については我々に一任されております。」
「では、しばらくは防衛に専念しよう。今後は遠藤司令とも相談して決めたので良いかな。」
「それがよろしいかと。」
彰子が同意すると2人も次々に同意した。
「私も神城大佐に同意致します。」
「ええ、参謀陣は全員一致ですな。」




