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誤算

「馬鹿な。間違いないのか。」

レンブラントは思わず感情を露わに立ち上がっていた。執務机を間に向かい合って立っているアンは普段と同じように冷たい声で応じた。

「はっ。複数の密偵からの情報です。レブ島に皇族が入りました。例のレンコ・カスガノミヤです。」

「あいつらはなにをやっていた。」

「一時間程前に任務遂行中との定時連絡が入っています。見逃したのかと。所詮、急造品ですから。」

アンは冷めた声で壁に貼られた海図の上に赤いピンを刺した。

「まさか。あいつらには航路を伝えたんだぞ。見つからぬはずはない。それに目付け役もいるだろう。全く裏切り者ばかりだ。」

「はっ。一応、潜水艦の生き残りを付けたのですが…。いいように丸め込まれたかと。囚人どもには法務省の目も光っております。なにより奴らの教育は高くつきましたので。」

「流石は怪盗か。隠れるのはお手の物だな。しかし、アン。厭戦派の議員連中がうるさくなってきている。東のフソウ海にアメリアの本軍、北にロビエトアの膠着状態の今、南の我々がレブを落とせば、帝都攻略したようなものだというに。」

レンブラントは戦争の勝利と終結の立役者として軍政の中心に座り、あわよくば国政の中枢にいくつもりであった。

「欺瞞工作はありましたが、遠藤艦隊の転属を確認しています。我が方の戦力の方が上です。正攻法で落とせば良いかと。」

「本国が許可しまい。レンコ・カスガノミヤを殺せば、フソウの国民感情は最悪になり、和平交渉どころではなくなるからな。」

 レンブラントはため息をついた。

「それに正攻法をとったとしても、レブ島はなかなかの要塞と聞く。それにあの男、クラウンが今度はどんなイリュージョンを見せるか。」

「レブ島攻略に備え、存在が露呈した離島基地の戦力を集め、前線基地をブルン島に設置しました。離島基地は潜水艦基地として運用を開始しました。」

そうかとレンブラントはアンが成長したことに笑った。アンは少し不思議そうな顔をした。

「その前線基地とやらの司令官は誰だ。」

「閣下の海軍大学の二期後輩のミールズ准将です。」

「ギール・ミールズか。あいつも准将止まりで鬱憤は溜まってるだろうな。いい人事だ。」

ギールはレンブラントの知る中で最も勇猛な男であった。先の大戦では、旧型駆逐艦で構成された艦隊で敵輸送船団を急襲。類希な回避操艦により、文字通り肉薄し、敵兵站に大きな損害を与え、戦時昇進とはいえ、准将まで出世した。しかし、戦後になると軍政には疎かったギールは海軍大学の講師など閑職に甘んじていた。

「恐れ入ります。閣下。ミールズ准将には遊撃隊として自由に動いてもらうつもりです。」

「面白い。レブ島を兵糧攻めにするか。道化もチップが入らなければ餓死するだけだからな。」

「念のため、私もブルン基地に入ります。」

「お前が行く必要があるのか。」

「閣下の目標を達するためには閣下の意図を最も知るものが前線にいるべきかと。」

「そうか。」

一抹の寂しさとともにレンブラントは目を細めながらアンの後ろ姿を追っていた。

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