↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイテム鑑定士は頑張ってます ― 地図のないダンジョンからの脱出  作者: 智信
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/38

第23話 新たな結果

「そんな器具が、なんだって、あんなところに、捨て置かれるみたいに、無造作に紛れてたんだろうな」

—— 掴めない遺物の正体

 薄暗い通路を、自分たちは進み続けていた。


 台座の図が示した、"水の満ちる場所"。

 壁の下を巡る細い溝は、途切れることなくその先へと続いている。

 進むほどに、通路の空気は、わずかに湿り気を帯びていくようだった。

 水が——近い。

 ヴェラの読んだ「流れ」と「満ちる」の記号が、要所要所に現れては、その確信を、静かに後押ししていた。


 道すがらも、探索の手は止めなかった。

 拾い、読み、繋ぐ——そうして得られる知識だけが、この暗闇からの出口へ、自分たちを近づけてくれる。

 それを知っている自分たちに、手を止めるという選択は、なかった。


 その道すがら、ヴェラがまた一つ記号を読み解いた。


「これも、『満ちる』。……それに、『注ぐ』、かな。……水を、どこかへ注いで、満たす。そういう場所が、この先にあるんだと思う」


 奥に進めば進むほどに、記号は水にまつわるものへと偏っていく。


「ねえ、"水の満ちる場所"って、どんなところだと思う?」


 ヴェラが歩きながら誰にともなく言った。


「泉かな。それとも、湖とか、川とか。……なんだか、わくわくしてきちゃった」


「呑気なもんだ」


 ゴードンが呆れたように鼻を鳴らした。


「……だが、進む先に、確かめるべき場所があるってのは、悪くない」


 憎まれ口のわりにゴードンの足取りはいくらか速い。


「……間違ってねえな」


 先頭を進んでいるアッシュが、地図から顔を上げて言った。


「この先に、"水の満ちる場所"がある。台座の図の、示したとおりだ。……あと、少しだ」


「あと少し、か」


 イングリッドが、低く繰り返した。


「……その『あと少し』に、無事たどり着ければいいがな。水が湧くような場所は、この施設の、いちばん奥かもしれん。気を、抜くなよ」


「相変わらず、心配性だな。イングリッドは」


 アッシュが、軽く笑って肩をすくめた。


「その心配性のおかげで、おいらたちは、まだ五体満足なんだけどな」


 軽口のなかにも、確かな信頼が滲んでいた。

 そんな二人のやりとりを気にとめることもなく、ヴェラは相変わらず記号を読み解いていた。

 ふと、ヴェラが足を止め、壁の一部を指でさした。


「ライル、これ。この図、わかる?」


 そこには、細い線が幾筋も寄り集まって、一点へと注ぎ込む——そんな図があった。


「……線が、あちこちから、一つの場所へ、集まっていく図だ」


「うん。それでね、その集まる先に、この記号——『満ちる』」


 ヴェラが嬉しそうに指をさす。


「いろんなところから集まってきたものが、一つの場所で、満ちる。……ほらね。やっぱり、この先には、"満ちる場所"が、待ってるんだよ」


 石碑を前に、途方に暮れていたころとは、まるで違う。

 ——一歩ずつでも、自分たちは確かに、この迷宮を読み解きはじめていた。


 その時、ふと、あの扉のことを思い出した。

 また、次の場所に扉があったら。

 そう思い、自分のポケットの中のあの金具に触れた。


 ——気になっていた。

 扉を開ける前から気になっていたが、開けてからは、なおさら頭から離れなかった。

 力ずくではびくともしなかったあの扉を、この一本の金具がいとも簡単に開けてみせた。

 嵌めれば開く。

 抜けば閉じる。

 そこに、力ずくは、いらなかった。

 ……ただの「鍵」で片づけてしまっていいものだろうか。


 あの「鍵」という答えに、自分はどこか収まりの悪さを覚え続けていた。

 鑑定は知識が増えるほど、より多くの答えを返す。

 あのときの「鍵」という鑑定の結果も、きっと本当の答えの途中にすぎない。

 そんな予感がずっと胸の底でくすぶっていた。


 自分は足を止め、その金具をポケットから取り出した。


「どうした」


 イングリッドが振り返る。


「……この金具を、もう一度、鑑定したい」


「なんのために?」


 ゴードンが問いかけてくる。


「言葉にするのが難しい。……けれど、もう一度、鑑定しないといけない、そんな気がするんだ」


 その答えに、ゴードンは眉を寄せた。

 だが、ヴェラの読み解いた記号は増え、そのおかげで自分の知識も確かに増えている。

 あのときは「鍵」までしかわからなかった。

 だが、今なら——手のひらの金具を見つめた。


「無駄になるかもしれない。でも、鑑定をする」


 そう宣言し、あらためて鑑定をかけた。


────────────

 【鑑定】石の扉を開いた金具

 種別:金属製の金具。楔のような、鍵のような形。

 図:先端の刻みが、以前より深く読める。何かに嵌め込み、力の流れを整えるための、精緻な造り。

 用途:何かを制御し、調整するための器具。石の扉を開けたのも、その働きの、ほんの一端らしい。

 仕組み:何を制御するものなのかは、読み取れない。

────────────


 息を呑んだ。

 「鍵」ではなかった。

 いや——「鍵」であることも間違いではない。

 だが、「鍵」はこの金具のほんの一面にすぎなかった。


「……これは、ただの鍵じゃない」


 自分は思わずつぶやいた。


「何かを、制御するための器具だ。……扉を開けたのも、そのうちの、ひとつの使い方にすぎなかった。……もっと、大きな何かを動かすための、器具なのかもしれない」


「制御?」


 ヴェラが、横から覗き込んできた。


「何を、制御するの?」


「……そこまでは、分からない」


 自分は、正直に答えた。


「鑑定でも、読み取れなかった。……ただ、『力の流れを整えるための造り』だと、それだけは」


 ——力の流れ。

 その言葉を口にした瞬間、ヴェラの表情がふと変わった。


「……力の、流れ」


 ヴェラがその言葉を繰り返す。

 その目が何かを探すように宙をさまよった。


「地脈って……土地を、血みたいに巡ってる力なんだ。それが、たぶん、この施設の、灯りや扉を、動かしてる。……その、『力の流れ』を整える器具。……ねえ、それって、地脈と、関係ないのかな。ウチがずっと、引っかかってる、あの——」


 だが、その先が続かなかった。

 ヴェラはしばらくじっと考え込み、それからもどかしそうに首を振った。


「……ううん。分かんない。あと、少しで、繋がりそうなのに。……なんだろう、これ」


 自分とヴェラはしばらくその金具を黙って見つめた。

 答えのほんの一歩手前。

 それがいちばんもどかしかった。


「……なあ」


 黙って聞いていたアッシュが、口を開いた。


「その金具が、何かを『制御する』器具だってんなら。……この迷宮そのものは、どうなんだ。灯りが点いて、扉が閉じて、ヴェラの言う地脈だかが流れてる。……ぜんぶ、誰かが『制御』してたってことに、ならないか」


 その言葉に自分ははっとした。


「……造られた施設。今も動いている、何かの仕組み。……それを、制御するための、器具」


「そんな器具が、なんだって、あんなところに、捨て置かれるみたいに、無造作に紛れてたんだろうな」


 アッシュが肩をすくめた。


「まあ、おいらの考えすぎかもしれんがな」


 イングリッドが腕を組んでその金具を見た。


「……この施設を動かす仕組みを、操るための道具。もし、ほんとうにそうなら」


 その目が細められる。


「そいつは、この場所の"要"かもしれん。……ライル、その金具、絶対に、なくすなよ。何に使うのかは、まだ分からん。だが、こういう物ってのは、たいてい、いちばん要るときに、いちばん要るもんだ」


「いちばん要るときに、いちばん要るって……その通りだけど。……ああ、大事にしておく」


 そうして、ふたたび金具をポケットにしまった。


「面白い読みだが」


 ゴードンが、低く口を挟んだ。


「答えの出ないことに、今、力を使いすぎるな。……確かなのは、目的の場所が近い。それだけだ。先を、急ぐぞ」


「……ああ。分かってる」


 何かを制御する器具。

 力の流れを整えるもの。

 ——だが何を?

 その問いだけが、また一つ胸の奥に増えていく。


 自分たちはふたたび歩き出した。

 台座の図が示した場所へ。

 "水の満ちる場所"はすぐそこのはずだ。

今後の参考になりますので、面白い・続きが気になると思っていただけたら、

評価・ブックマークで応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。