― 63 ―
レティは、目の前の侵入者の顔に涙を浮かべながら、口元を押さえる。
横で見ていたメレルが、すぐそこまで迫っている兵達を見て、焦りともどかしさにヤキモキしていた。
グルゴも、入り口付近でヒヤヒヤしながら見届けている。
そんな中。
「時間がない。俺の手をとってくれないか?」
レティへ向けて差し出した手を小さく振って、改めて突き出す。
そして。
「……はい」
そう応えたレティは、侵入者の手をとったのだった。
「なっ!?レティシア殿!?」
カイルが驚きの表情で繋がれた手を見る。
「申し訳ありません!今回のご縁は―――!」
レティがカイルに謝っているところ悪いが、ゆっくりしている暇はない!
俺は、メレルに悪びれた笑みでコンタクトをとり、迫り来る兵達に向き合う。
「逃がさんぞ!」
「大人しくしろ!」
「そこを動くなよ!」
口々に俺を止める言葉を吐くが、捕まればどんな罪に問われるか解ったものではない。
「レティ、行くぞ!?」
「ええ!」
良い返事が聞けた所で、俺は念力を全力で解放する!
レティと繋がれた手を引き、抱き寄せた俺は、レティをそのままお姫様抱っこの様に抱えた!
「えっ!?」
驚くレティに俺は片目を瞑って見せる。
普通なら、人を一人抱えて数十人もの警備から逃れるなど、至難の業だった。
しかし、俺にはブーストがある!
「舌を噛むなよ?」
腕の中のお姫様にそう告げると同時に、俺は兵達の迫り来る方へ走り出した!
レティは言われた通り、返事よりも舌を噛まない様に口をつぐんだ。
その瞬間!
俺は全念力を開放して数歩駆け出すと、兵達の手前でジャンプして空高く飛んだ!
「……なっ!?」
「なんだとっ!?」
下から上を見上げる兵達が、驚きに声を溢す。
自分に念力を使うなら、こんな方法もあるんじゃないかと思って、旅に出たときに何度か試した事はあったのだ。
しかし、今までは上手くいかず、飛び上がる力に念力が上手く乗らなかった。
それを今、パワーブーストとスピードブースト全開で可能にしたのだった!
とは言え、残念ながら空を飛び続ける事はできない。
飛行術は、人間のエナの量では持続性に無理があるのだ。
それでも俺は、レティを抱えたまま二階建ての家の屋根の高さを越えた!
「うわぁ!高い!」
俺の腕の中で、お姫様は屋根の上の景色に感嘆の声をあげた。
「ほら、舌を噛むぞ?」
「大丈夫よ。セグはあたしをそんな乱暴に扱わないでしょ?」
満面の笑みを讃えた美しい顔が、俺を見つめる。
「ああ。全力で護ってやる。俺はもう、レティだけの守護天だ」
「……ぷっ!くさぁ~」
「な、なんだよ、笑うなよ!」
そんなやり取りをしているうちに、地上へと降り立った。
それにしても、思ったよりは成功した。
数十メートル離れたパーティー会場の入り口付近までひとっ飛びで到達したのだ。
しかし、悠長な事はしてられない。
「くそっ!待てーっ!」
後ろから兵達が追ってくる!
俺は、レティを抱えたまま、入り口となっている門を開いた!
すると!
ドカッ!バキッ!
まさに門を開けたタイミングで、門の外側を守っていた守衛をリリーとマリウスが倒していた!
「やったな!セグ!」
「さあ!あたし達もずらかるよ!!」
リリーとマリウスは、事を済ませたら直ぐに姿を消す。
面が割れるとめんどくさい事になるから、そういう事を事前に打ち合わせていたのだ。
しかし。
「なっ!?」
「門兵は何してるんだ!?」
「くそっ!待てーっ!」
後ろからは相変わらず追っ手が数十人来ていた。
そして、既に十メートルそこそこといった距離まで接近していたのだった!




