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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の英雄譚
63/64

― 63 ―

レティは、目の前の侵入者の顔に涙を浮かべながら、口元を押さえる。


横で見ていたメレルが、すぐそこまで迫っている兵達を見て、焦りともどかしさにヤキモキしていた。


グルゴも、入り口付近でヒヤヒヤしながら見届けている。


そんな中。


「時間がない。俺の手をとってくれないか?」


レティへ向けて差し出した手を小さく振って、改めて突き出す。


そして。


「……はい」


そう応えたレティは、侵入者の手をとったのだった。


「なっ!?レティシア殿!?」


カイルが驚きの表情で繋がれた手を見る。


「申し訳ありません!今回のご縁は―――!」


レティがカイルに謝っているところ悪いが、ゆっくりしている暇はない!


俺は、メレルに悪びれた笑みでコンタクトをとり、迫り来る兵達に向き合う。


「逃がさんぞ!」


「大人しくしろ!」


「そこを動くなよ!」


口々に俺を止める言葉を吐くが、捕まればどんな罪に問われるか解ったものではない。


「レティ、行くぞ!?」


「ええ!」


良い返事が聞けた所で、俺は念力を全力で解放する!


レティと繋がれた手を引き、抱き寄せた俺は、レティをそのままお姫様抱っこの様に抱えた!


「えっ!?」


驚くレティに俺は片目を瞑って見せる。


普通なら、人を一人抱えて数十人もの警備から逃れるなど、至難の業だった。


しかし、俺にはブーストがある!


「舌を噛むなよ?」


腕の中のお姫様にそう告げると同時に、俺は兵達の迫り来る方へ走り出した!


レティは言われた通り、返事よりも舌を噛まない様に口をつぐんだ。


その瞬間!


俺は全念力を開放して数歩駆け出すと、兵達の手前でジャンプして空高く飛んだ!


「……なっ!?」


「なんだとっ!?」


下から上を見上げる兵達が、驚きに声を溢す。


自分に念力を使うなら、こんな方法もあるんじゃないかと思って、旅に出たときに何度か試した事はあったのだ。


しかし、今までは上手くいかず、飛び上がる力に念力が上手く乗らなかった。


それを今、パワーブーストとスピードブースト全開で可能にしたのだった!


とは言え、残念ながら空を飛び続ける事はできない。


飛行術は、人間のエナの量では持続性に無理があるのだ。


それでも俺は、レティを抱えたまま二階建ての家の屋根の高さを越えた!


「うわぁ!高い!」


俺の腕の中で、お姫様は屋根の上の景色に感嘆の声をあげた。


「ほら、舌を噛むぞ?」


「大丈夫よ。セグはあたしをそんな乱暴に扱わないでしょ?」


満面の笑みを讃えた美しい顔が、俺を見つめる。


「ああ。全力で護ってやる。俺はもう、レティだけの守護天だ」


「……ぷっ!くさぁ~」


「な、なんだよ、笑うなよ!」


そんなやり取りをしているうちに、地上へと降り立った。


それにしても、思ったよりは成功した。


数十メートル離れたパーティー会場の入り口付近までひとっ飛びで到達したのだ。


しかし、悠長な事はしてられない。


「くそっ!待てーっ!」


後ろから兵達が追ってくる!


俺は、レティを抱えたまま、入り口となっている門を開いた!


すると!


ドカッ!バキッ!


まさに門を開けたタイミングで、門の外側を守っていた守衛をリリーとマリウスが倒していた!


「やったな!セグ!」


「さあ!あたし達もずらかるよ!!」


リリーとマリウスは、事を済ませたら直ぐに姿を消す。


面が割れるとめんどくさい事になるから、そういう事を事前に打ち合わせていたのだ。


しかし。


「なっ!?」


「門兵は何してるんだ!?」


「くそっ!待てーっ!」


後ろからは相変わらず追っ手が数十人来ていた。


そして、既に十メートルそこそこといった距離まで接近していたのだった!

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