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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の英雄譚
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― 59 ―

俺達は、コボルドから聞き出した穴の奥へ足を運んでいた。


天井にビッシリと蔓延るリンジーやシェルパの光で、洞窟の外の昼間とあまり変わらない明るさに、視界は冴え渡っていた。


「護衛とか、側近みたいな連中も居ないのね」


広場を抜けてから、コボルドの姿を見なくなった事に、拍子抜けしたリリーがそんな事を溢した。


「ああ。コボルド達は、俺達ホビットや人間、エルフの様に法などで国民を管理するとか、そういう思考がまだ無いんだ。だから、象徴的な長を一人置いて、その側近を二・三人置いたら、後は放置された集まりでしかない。長の号令には倣うが、それ以外は基本、個々に自由な集まりなんだ」


俺の説明も終えた頃、マリウスやリリーが「ふーん……」と嘆息を溢している間に、俺達は少し開けた穴に出た。


目の前には個室となる空間とを隔てる様に、布で塞がれた入り口があった。


「ここか……」


俺が小さく呟くと、ゴッツやマリウス達も開けた空間まで出てきて、皆が同じ入り口を見る。


「さて、どーするか……」


俺が、対策を考えていると、ゴッツが。


「んなのぁ、正面突破に決まってんだろ。相手が悪さしてるなら、こっちは正々堂々、正面から入ってやるんだよ」


こんな局面でも堂々とするゴッツの態度に、なぜか心が落ち着いていく。


実はこれまで、グルゴが人質に取られている事から、内心では気が気ではなかった。


何か上手く、グルゴにも危害が加わらない様に助け出したい気持ちが、余計な事まで考えさせられる様に自分を追い込んでいたのだろう。


「……そうか。……そうかもな」


俺は、ゴッツの言葉に落ち着きを取り戻した。


ここまで来たらあの入り口を潜るしか道はないのだ。


それに、中にどれだけの敵がいるのか、グルゴがどの様に扱われているのかも解らない状況である。


この期に及んで、俺達の方にはどんな策を考えようと、そんなものは無いに等しい。


「……じゃあ―――」


ゴッツのお陰でその事に気付いた俺は、そう切り返して入り口に向かって続けた。


「―――ブロンクス!そこに居るな!?お前の目的は俺だろう!?望み通り、大会も決勝に出ずにここに来たぞ!」


堂々と、声高々にそう告げた。


そして、ゴッツ達は改めて剣を構える。


「……ノコノコやって来たか。」


そう言った人物が、入り口の布を手で避けて出てきた。


「……あれが……?」


「ブロンクス……」


「単なるゴロツキじゃねぇか」


リリー達の感想が小声で溢れるが、幸いヤツの耳には届いてないらしい。


「……おい!」


ブロンクスはそう言って、長の家の中に呼び掛けた。


すると。


「……セグ!ごめん!ボク、油断しちゃったよ!」


ブロンクスの仲間に連れられたグルゴが、後ろ手に繋がれたままそう叫んだ。


「グルゴ!無事だったか!!」


俺は、やっと見ることができた無二の親友の顔に、安心と気の高ぶりを覚えた。


「ボクは大丈夫だ!それより、決勝をすっぽかしたって……」


「良いんだ!俺には大会よりお前の方が大事なんだから!」


グルゴは人一倍思いやりのあるヤツだから、自分のせいで俺が大会で優勝できなかったとなれば、責任を感じてしまうだろう。


しかし、嘘でも『決勝は後日に延期した』等とは言えない。


それは、ブロンクスの狙いが俺の優勝の阻止や命だとしたら、その狙いを挫く事になり、気を逆撫でしかねないからだ。


それらを考慮して、グルゴの責任感を少しでも和らげる程度の話にとどめた。


そして。


「クックックッ!そうか!お前はもう優勝できないんだなぁ!?……まあ、それが当然ってヤツだ!!なんせ、俺との試合で何をやったか知らねぇが、汚ねぇトリック使って勝ちやがったんだ!そんなヤツに優勝なんかさせてたまるか!!」


ブロンクスはそう言って、俺に剣を向ける。


「セグがそんな事するか!」


「そうだそうだ!」


リリーとゴッツが小声で反論し、マリウスも頷く。


そんな、皆の信頼は嬉しいのだが。


「じゃあ、この場でもう一度試合しようじゃねぇか!お前達にも見せてやんよ!ソイツの汚ねぇ戦い方をな!!」


ブロンクスにリリー達の小声が届いたらしく、もう一度試合を持ち掛けてきた。


これは、思ったよりラッキーな展開だ。


俺にブロンクスの申し出を断る理由がない。


上手くすればこのままブロンクスを捕らえれば良いんだ。


「俺がブロンクスを捕らえたら、その瞬間にリリー達はグルゴを頼む」


俺は、リリー達三人を見渡し、そう頼んだ。


三人は無言で頷く。


これで、準備は整った。


「望むところだ。どうしても俺の剣技が納得できないらしいな。それなら、そもそもスピードが違うって事を知ってもらう為に、俺は素手で戦ってやる!」


そう言って、俺は剣を鞘に入れたまま、腰から地面に下ろした。


「なにぃ!?……くそぅ!どこまでもナメやがって!!」


俺の行動はブロンクスの気を逆撫でする。


だが、これも想定内だった。


激昂したブロンクスは。


「……だったら、望み通りギッタギタに切り刻んでやっからよぉ!!」


そう吐き捨てて、大剣を構えた。


その気迫が、洞窟内を震わせている様にも思えたのだった。

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