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俺達は、コボルドから聞き出した穴の奥へ足を運んでいた。
天井にビッシリと蔓延るリンジーやシェルパの光で、洞窟の外の昼間とあまり変わらない明るさに、視界は冴え渡っていた。
「護衛とか、側近みたいな連中も居ないのね」
広場を抜けてから、コボルドの姿を見なくなった事に、拍子抜けしたリリーがそんな事を溢した。
「ああ。コボルド達は、俺達ホビットや人間、エルフの様に法などで国民を管理するとか、そういう思考がまだ無いんだ。だから、象徴的な長を一人置いて、その側近を二・三人置いたら、後は放置された集まりでしかない。長の号令には倣うが、それ以外は基本、個々に自由な集まりなんだ」
俺の説明も終えた頃、マリウスやリリーが「ふーん……」と嘆息を溢している間に、俺達は少し開けた穴に出た。
目の前には個室となる空間とを隔てる様に、布で塞がれた入り口があった。
「ここか……」
俺が小さく呟くと、ゴッツやマリウス達も開けた空間まで出てきて、皆が同じ入り口を見る。
「さて、どーするか……」
俺が、対策を考えていると、ゴッツが。
「んなのぁ、正面突破に決まってんだろ。相手が悪さしてるなら、こっちは正々堂々、正面から入ってやるんだよ」
こんな局面でも堂々とするゴッツの態度に、なぜか心が落ち着いていく。
実はこれまで、グルゴが人質に取られている事から、内心では気が気ではなかった。
何か上手く、グルゴにも危害が加わらない様に助け出したい気持ちが、余計な事まで考えさせられる様に自分を追い込んでいたのだろう。
「……そうか。……そうかもな」
俺は、ゴッツの言葉に落ち着きを取り戻した。
ここまで来たらあの入り口を潜るしか道はないのだ。
それに、中にどれだけの敵がいるのか、グルゴがどの様に扱われているのかも解らない状況である。
この期に及んで、俺達の方にはどんな策を考えようと、そんなものは無いに等しい。
「……じゃあ―――」
ゴッツのお陰でその事に気付いた俺は、そう切り返して入り口に向かって続けた。
「―――ブロンクス!そこに居るな!?お前の目的は俺だろう!?望み通り、大会も決勝に出ずにここに来たぞ!」
堂々と、声高々にそう告げた。
そして、ゴッツ達は改めて剣を構える。
「……ノコノコやって来たか。」
そう言った人物が、入り口の布を手で避けて出てきた。
「……あれが……?」
「ブロンクス……」
「単なるゴロツキじゃねぇか」
リリー達の感想が小声で溢れるが、幸いヤツの耳には届いてないらしい。
「……おい!」
ブロンクスはそう言って、長の家の中に呼び掛けた。
すると。
「……セグ!ごめん!ボク、油断しちゃったよ!」
ブロンクスの仲間に連れられたグルゴが、後ろ手に繋がれたままそう叫んだ。
「グルゴ!無事だったか!!」
俺は、やっと見ることができた無二の親友の顔に、安心と気の高ぶりを覚えた。
「ボクは大丈夫だ!それより、決勝をすっぽかしたって……」
「良いんだ!俺には大会よりお前の方が大事なんだから!」
グルゴは人一倍思いやりのあるヤツだから、自分のせいで俺が大会で優勝できなかったとなれば、責任を感じてしまうだろう。
しかし、嘘でも『決勝は後日に延期した』等とは言えない。
それは、ブロンクスの狙いが俺の優勝の阻止や命だとしたら、その狙いを挫く事になり、気を逆撫でしかねないからだ。
それらを考慮して、グルゴの責任感を少しでも和らげる程度の話にとどめた。
そして。
「クックックッ!そうか!お前はもう優勝できないんだなぁ!?……まあ、それが当然ってヤツだ!!なんせ、俺との試合で何をやったか知らねぇが、汚ねぇトリック使って勝ちやがったんだ!そんなヤツに優勝なんかさせてたまるか!!」
ブロンクスはそう言って、俺に剣を向ける。
「セグがそんな事するか!」
「そうだそうだ!」
リリーとゴッツが小声で反論し、マリウスも頷く。
そんな、皆の信頼は嬉しいのだが。
「じゃあ、この場でもう一度試合しようじゃねぇか!お前達にも見せてやんよ!ソイツの汚ねぇ戦い方をな!!」
ブロンクスにリリー達の小声が届いたらしく、もう一度試合を持ち掛けてきた。
これは、思ったよりラッキーな展開だ。
俺にブロンクスの申し出を断る理由がない。
上手くすればこのままブロンクスを捕らえれば良いんだ。
「俺がブロンクスを捕らえたら、その瞬間にリリー達はグルゴを頼む」
俺は、リリー達三人を見渡し、そう頼んだ。
三人は無言で頷く。
これで、準備は整った。
「望むところだ。どうしても俺の剣技が納得できないらしいな。それなら、そもそもスピードが違うって事を知ってもらう為に、俺は素手で戦ってやる!」
そう言って、俺は剣を鞘に入れたまま、腰から地面に下ろした。
「なにぃ!?……くそぅ!どこまでもナメやがって!!」
俺の行動はブロンクスの気を逆撫でする。
だが、これも想定内だった。
激昂したブロンクスは。
「……だったら、望み通りギッタギタに切り刻んでやっからよぉ!!」
そう吐き捨てて、大剣を構えた。
その気迫が、洞窟内を震わせている様にも思えたのだった。




