― 58 ―
コボルドの洞窟内では、俺達とゴブリンとコボルドで、三つ巴の様に其々が双方の動向を気にしながら、口論が続いていた。
「ナッ!?モトハトイエバ、キサマラほびっとガシクンダコトダロ!?」
広場に居た別のコボルドが、そう吐き捨てると、あからさまに慌てふためく。
それと同時に、ゴブリン達にも動揺が走った。
俺は、頭をフル回転させる。
「アイツ、何か知ってるみたいだね!」
リリーが俺にそう言って、今、吐き捨てたコボルドを睨んだ。
「ああ、そうみたいだ。これだけ奥まで来れば、それなりに事情を知ってる立場のヤツも戦場に顔を出すか……」
早口でリリーに返して、オロオロと困惑しているゴブリン達にもう一押し畳み込む。
「ゴブリン!今聞いた通りだ!どうやらやはり、コボルド達は事情を知っているらしい!お前達には知らせず、ただムダに死なせておきながら、コボルドは自分達の企みにお前達を利用していたんだ!!」
「ナニッ!?」
「ゾンナ!?」
「こぼるどォォ!!」
ゴブリン達の怒りの矛先は、上手くコボルドに向いた。
「ナニヲイウ!!オマエタチほびっとノナカマガ、ワレラノオサニモチコンダハナシダロ!?」
来た!
苦し紛れに、ホビットの原因分子を固定する言葉を吐いた!
これこそ、マストな流れだ!
これを逃す手はない!
「じゃあ、そのホビットが裏で糸を引いていたんだな!?」
この問いかけは、コボルドにとっても我が身を守るなら答えずには居られないだろう。
「……クッ!ソウダ!ほびっとノぶろんくすトカイウヤツガ、ほびっとノグンヲホロボセタラ、チジョウノおーりーノリョウチヲ、ワレラこぼるどニクレルッテイッテイタ!ごぶりんニハ、ソノハンブンヲヤルコトデハナシハツイタハズダ!ほびっとノヒトジチハ、ソノタタカイノキリフダダ!」
コボルドは、尋問にかけた訳でもないのにベラベラと喋ってくれる。
それにしても、コボルド達も可哀想なものだ。
ブロンクスの私怨に踊らされて、ホビットの国を敵にさせられたんだからな。
ホビットとコボルドやゴブリンでは、言っては悪いが知識や技術、戦争の経験等も格段に違う。
そんな戦争など、少し考えれば無謀だと解るだろうが、欲の強いコボルド達の事だ、地上の領地という言葉に欲が勝って、考える事を止めてしまったのだろう。
「そのブロンクスと言う男は、単なるゴロツキの反逆者だ。ブロンクスと組んでも、オーリーは負けない!それどころか、圧倒的にオーリーの方が強い!今でこそ外には三千程度の軍しか居ないが、それだけでお前達の一万を越える外の仲間は攻めあぐねているのが現状だ!オーリーの軍はまだまだ何万も居るんだ!いずれその軍達がここに集まる!こんな戦は、単に無謀だぞ!」
ここまで言うと、コボルドも返す言葉が無くなった。
「ナニシテル!ハヤクニゲロ!こぼるどハモウダメダ!」
ゴブリン達の誰かがそんな声をあげる。
すると、困惑して動けずに広場を埋め尽くしていたゴブリン達は、手のひらを返す様にコボルドを無視して、退散する為に再び慌ただしくなった。
「ソウダソウダ!」
「ハヤクニゲロ!」
「ナカマツレテカエルゾ!」
そんな言葉が飛び交う中、俺はコボルドに続ける。
「……大人しくブロンクスを引き渡せば、コボルド達の反逆も、責を軽くするよう、約束する!ブロンクスは何処に居るんだ!?」
動揺するコボルドに、キッと突き刺す視線を向けて、そう強く言い放った。
すると。
「……ム、ムコウダ。ショウメンミギガワノアナノオク。……オサノイエニヒトジチトイッショニイル……」
よし!
吐いた!
「よし!解った!じゃあ、お前はここに居る他のコボルドと一緒に外に出て、ホビットの軍に投降しろ!そうすれば、オーリーの軍はお前達の命までは奪わない!むしろ、お前は今の発言で仲間を裏切ったから、仲間と一緒に居る方が危険だ!」
最後の一文は、今喋ったコボルドの喉を鳴らせた。
自分が仲間を裏切った事を、俺に言われた事でハッキリと認識され、生唾を飲み込んだのだ。
その様子を見て、俺は続けた。
「ここに居るコボルド達も、お前が喋った事を黙って見ていたんだから、裏切られた方からすれば皆同罪だ!お前達は、ホビットが守る!だから、大人しく投降して戦を止めろ!後は俺達がお前達の長を止めてやる!」
「ゲェッ!?オレタチモドウザイ!?」
「ヤベェ!ハヤクニゲヨウゼ!?」
「オサニコロサレル!!」
他の数人のコボルド達からもそんな声が溢れる。
思った以上の効果だ。
これで、無駄な血を流す必要が無くなった。
「……上手くいったんじゃねぇか?」
「いや、まだあたし達にはこの後があるわ!」
マリウスとリリーが小声でそんなやり取りをしていた。
ぐうの音も出なくなったコボルドは、俯いていた。
可哀想だが、ここは急がせなければ。
「早くしろ!そして、後は俺達に任せろ!」
俯くコボルドに、追い討ちの様に渇を入れた。
コボルドはビクッとなりながら、慌てて外へ走り出す。
「これでよし!」
俺は、小声でリリー達三人にサムズアップして見せた。




