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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の英雄譚
60/64

― 60 ―

言っておきながら、ブロンクスは剣を構えてもかかってこない。


深く長い呼吸が、静まった洞窟内を埋め尽くした。


勿論、俺のではない。


俺は、大会で一度戦ったお陰で、ヤツの実力を知っている。


むしろ、俺の剣技をトリックだと言い放つブロンクスは、そのトリックのネタが解らない為に、攻めあぐねていたのだ。


「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ!?」


そう声を上げて素手で構え直す。


「クソッ!……ナメんなぁぁぁっ!!」


ブロンクスは、大きく縦に振りかぶって、こちらに突進してきた!


ガツッ!!


「ナニ最後まで振り切ってんだ!俺が避けてる所が見えてないのか!?」


ブロンクスの剣は、俺が居た所の地面を抉っていた!


「何をっ!!?」


ブロンクスから見て右手に避けた俺を見て、悔しそうに歯を剥き出しにする。


「俺は、何もトリックなんか使ってないぜ!?ただ、お前が振り切るより俺の避けるスピードが早いだけだ!」


「嘘だ!何か使ってやがるに違いない!」


まだ負け惜しみの様に食い下がりながら剣を横凪ぎに振ってくるブロンクスに、俺はバックステップで避けて告げる。


「お前だって、念力でパワーバフ付けてるだろ!」


ブロンクスは、念力で攻撃力を上げるパワーバフを使っていた。


その事は、大会の試合の時でも解っていた事なのだが。


「あたりめーだ!念力は反則じゃねー!!」


剣を正眼に構え直したブロンクスは、今度は少しだけ落ち着きを取り戻した様に言ってきた。


「そうだ!念力は反則じゃない!そして、トリックでも何でもない!」


「決まってんだろ!だから、俺のは反則じゃねー!!」


俺の言葉に、自分の正当性を訴えてくる。


「なら、俺のも反則じゃない!!」


「何だと!?」


俺の正当性を訴えると、ブロンクスは右袈裟に半分振り上げた構えをとり、怒りを露にした。


「なぜなら!」


即座にそう言って、ブロンクスの切り込みを踏みとどまらせる。


そしてそのまま続けた。


「俺のはお前と同じ念力で、お前の様なパワーじゃなく、スピードにバフをつけているだけだからだ!!」


「ナニィッ!!?」


言い放った瞬間、俺はブロンクスの背後に回り、敵が袈裟に構えた腕をそのまま後ろへ引っ張りながら背中を蹴って前に突き倒す!


「ウガッ!!?」


二人してそのまま倒れ込んだ所で。


「リリー!ゴッツ!マリウス!」


「オウッ!」「ヨッシャ!」「オウヨ!」


三人に呼び掛けると、リリー達は神風の如く素早い動きで洞窟内を駆け抜ける!


「「「ッ!!?」」」


グルゴを押さえていたブロンクスの仲間達が、驚いて反応した頃には、リリー達はソイツらを蹴散らし、グルゴをを奪ったのだった!


「グアッ!」「ゲェッ!」「グハッ!」


リリー達の一瞬の攻撃に、後から嗚咽が漏れるゴロツキ達。


そのまま崩れ落ちた仲間を見て、ブロンクスは。


「クソォッ!!お前達!何やってんだ!!」


激昂したブロンクスが、失態を犯した仲間を叱責する。


「『何やってんだ!』はお前の方だ!お前の仲間はお前の強さを信じていた!そのお前がこんなにあっさりやられたら、仲間も驚いて油断が生じるのは明らかだろ!こんな大きな事件にして、こんなにあっさりやられたお前が全て悪いんだ!仲間を責めるのは恥と知れ!!」


俺は、そんなブロンクスに憤りを露にした。


自分が全てで、自分が認めたものしか理解しない。


自分が世界を作っているかの様なその傲慢さに。


そして。


「……これにて仕舞いだな」


布で仕切られただけの部屋の入り口から、顎髭を蓄えたコボルドが出てきた。


「我もこやつらに加担した事を認め、償おう。そして、願わくば同胞達の罪は全て我に……」


杖を突いた老体のコボルドが、側近二人を両脇に連れてそう言った。


頭を下げるコボルドの長。


今度こそ、ブロンクスは自らの敗北を認めざるを得なかった。


「……チッ!クソッ!!」


そう吐き捨てた巨漢のホビットは、俺に後ろ手に押さえられながら力が抜けていく。


そして。


ブロンクスが主犯として起こされた、ホビット対コボルド、ゴブリンの内戦は、人質を無事に助け出し、互いの被害も最小限に抑えて、たったの一日という短期間で終戦を迎えた。


大会の方は、俺が棄権した事により、準決勝で俺の相手になる事になったドーズ家のバッハが不戦勝にて決勝進出。


そのまま優勝を納めた。


準決勝で俺が出場していれば、その戦いが事実上の決勝戦の様なものだったと、関係者や国の重役達の間で嘯(うそぶ)かれた。


それほどに惜しまれた戦いは実現しなかったものの、次期、守護五天には、バッハ・ベルク・ドーズがなる事に決定した。


そうして、月日は流れていくのだった。

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