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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の英雄譚
53/64

― 53 ―

 念力を込めてゴブリンやコボルドの群れの中をひた走る。


 なるべく余計な戦いはしないように、敵の攻撃を避(よ)けて進むようにしているが、混戦による人口密度の高さに何度もぶつかりながら進むことになった。


 その為、大したスピードは出せないのだが、それでも普通にランニングするよりは早く、それだけ勢いがあれば、ぶつかった時にタックルの様に相手が突き飛ばされていった。


 真っ直ぐ軍を目指すセグとしては、それはそれで遮蔽物を退かすには丁度良い。


 正に猪突猛進の言葉通り、一直線に軍へ向かって突っ切ったのだった。






「ノーズウェル様!」


 オーリー・ヴァン・メルン西方統治軍、隊長であるノーズウェルの元へ、伝令が駆け寄った。


 ホビット陣営は、平地でも所々に数十センチ程度の岩肌がこんもりと盛り上がった場所にあり、本陣は戦況が見渡せる様に、二メートル近い一際大きな岩肌の上にあった。


「何事だ?」


 重楯で敵の攻撃から隊長を守る近衛兵に囲まれ、ノーズウェルが問い返したのだった。


「只今、セグ殿が参られました!」


 荒い息を調えながら、兵からそう放たれる。


「なっ!?セグ殿だと!?大会は……!?」


 ノーズウェルの驚きを隠せない言葉も、近衛の間から見覚えのあるホビットの青年が現れた事によって、途切れた。


「失礼します」


 そう言って、青年は胸に手を当てた敬礼をする。


「セグ殿!なぜここに……!?」


 まさか、本当にここにセグが現れるとは思いもしなかったノーズウェルは、僅かに狼狽えた顔をして、セグを見た。


「ノーズウェル様のお心遣いは深く感謝しております!ですが、拐われたのは私の唯一無二の親友であり、その親友一人すら自らの手で守れなくば、守護五天である資格は無いと思い、自ら馳せ参じた次第です!」


 セグは、力強い眼差しをノーズウェルに向けながら、キッパリと言い放つ。


「いや、しかしセグ殿には大会で優勝して頂かなくては!それに、こちらは我々が対処しております!どうか会場に戻られますよう……」


 ノーズウェルは、そう言ってセグに戻る様に伝えるが、最後まで言い切らないうちにセグが割って入った。


「ここに集まったゴブリンやコボルドの群れも、話によればブロンクスが焚き付けたと聞きます。と言うことは、この戦いそのものが、双方ともに無益なもの。命を無益に散らす事は、例えゴブリンやコボルドと言えどもあってはなりません」


 コボルドはともかく、ゴブリンにはセグも嫌な思いをさせられて来たが、その感情は今は必要ない。


 既に始まった駆け引きの為にも、セグは己の信じるものを伝える事にして続けた。


「まして、この地域のコボルドとは、北方伯の尽力により、少なくとも共存できつつあった。その努力を無に帰し、且つ無益な殺生をするのが、我が誇り高きオーリーの成す事でしょうか!……いや、そんなはずはない!」


 セグは、落ち着いた口調にも語気を強くして、真っ直ぐにノーズウェルを見据える。


「……仰る事は解ります。しかし、発端が何であれ、オーリーの平穏を乱した事には変わりはない。セグ殿には悪いが、ここに集まったゴブリンやコボルドの群れは、賊として討伐する。そして、人質を無事に救いだす。それが軍の決定です!」


 ノーズウェルも、負けじと強い語気で返す。


「もちろん、主犯格のブロンクスについては、重い刑に処する事が決定しています!我ら誇り高きホビットが、ゴブリンやコボルドと結託するなど、愚の極み!国の責務として、これを黙って見ていられますか!?」


 ノーズウェルは、隊長としての落ち着きを失う程に、素の感情を込めて意思を伝えた。


 確かに、国家としてはブロンクスの愚行には重罰を与える事然り、反乱とみなされる今回のコボルドの行動は、討伐するのが正当だ。


「ならば、私が連れてきた仲間と共に人質を無事に救出して見せます!そして、ブロンクスを捕らえ、コボルドとの争いを止めましょう!そのチャンスを、今、私に頂きたい!」


 正直、大きく出たものだった。


 セグには、実際にはどうすれば良いかなど解ってはいない。


 それでも、何としてもやらなければならないのだ。


「ふ……む………」


 さすがのノーズウェルも、オーリーで一・二を争う剣の達人と思われるセグにここまで言い切られると、言葉に詰まる。


 実際、兵達を無益に失いたくないのは、軍を預かる身としては当然の事だった。


 無謀だと解っていながらも、希望を持たずにはいられなかったのだ。


 その、現実と希望の狭間で、ノーズウェルの葛藤は最大限に脳を回転させるが、良い答えが浮かばない。


 二人の元に、長くも感じる間が訪れたのだった。

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