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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の英雄譚
52/64

― 52 ―

雨は相変わらず強く降り注いでいる。


空は分厚い雲が覆い被さり、所々で争いに怒りを示すかの如く、雷鳴を轟かせていた。


暗がりの地上では、地の混じる無数の赤い水溜まりが点在し、幾つもの骸がそれを隠すように敷き詰められている。


それでも尚、その上を戦場にして争うホビットとゴブリン、コボルドの亜人達。


その中で、一回り大きな人間族が三人。


それにホビットを一人加えた四人組が、戦乱の真ん中で剣舞を披露していた。


「……オラッ!喰らえ!」


マリウスは十メーター程離れた位置にいるゴブリンを中心に、雨を利用したイルズスレイ、所謂ウォータースラッシュを乱発する。


「グギャーッ!」


「グゾーッ!」


「ギザマーッ!」


ゴブリン達の断末魔を幾つ聞いただろうか。


この不毛な戦いが、一体何をもたらすの言うのだ。


いや、答えは解っている。


更なる怨恨しか生まれないのだ。


それを解っていても、突き進むしかない自分の無力さに奥歯を噛む。


「クソッ!こんなの間違ってる!」


「そうだね……。ゴブリンやコボルド達も、さっきの兵隊の話から察すると、その”なんとかって人“に焚き付けられただけなんでしょ?」


俺の苛立つ声に、リリーが応えた。


”なんとかって人“とは、もちろんブロンクスの事だ。


「しょうがねえだろ!今は殺らなきゃ俺達が殺られる!」


「そうだッ!だから、今は殺るしか……ウオッ!?あぶねぇ!」


ゴッツやマリウスの言うことも尤もだった。


「みんな!少しの間、三人で踏ん張れるか!?」


俺は、みんなの気持ちが同じことを確認すると、ある提案を持ちかける。


「なんだ!?」


「どうした!?」


「何かやる気!?」


俺の提案に、マリウス、ゴッツ、リリーの順で疑問が返ってきた。


「ああ!一先ず俺は、西方軍に行って防戦するように頼んでくる!」


「は!?」


「一人で!?」


俺の提案は、マリウスとリリーに更なる疑問を生ませた。


「ああ!ハッキリ言って、これだけの乱戦の中だとむしろ一人の方が動きやすい!」


「本気か!?」


俺の返答にゴッツが驚きを挟むが、俺は「ああ!」と頷いて、答えの続きを三人ともに伝える様に告げた。


「こんな不毛な戦い、双方ともに最小限の被害で押さえる為だ!何としてでもやらなきゃならない!そして、その後は、ゴッツ達三人にもお願いがあるんだが……!!」


ゴッツへの答えから、そのまま三人へのお願いに移ると。


「その後の事は想像がつく!そんなもん、頼まれなくてもやってやらぁ!!」


マリウスは俺の考えを察知し、頼もしい事を言ってくれる。


「そうよ!それより、本当に一人で大丈夫!?」


リリーも同様に理解してくれた上に、俺の身を案じてくれた。


「ああ!大丈夫だ!」


「じゃあ決まりだな!俺もとことん付き合ってやるぜ!」


俺の答えにゴッツが決断を下す。


「じゃあ、一、二の三!で、あたし達は右前方のゴブリンの穴の方へ!セグは軍を説得してから来て!こっちに向かえる様になったら、セグは小さいので良いから戦場の真ん中にヴォルドレイを撃って!それを確認したら、私達はマリウスにスールドレイを放ってもらって、位置の目印を作りながら進むから!」


リリーはこんな時にも合理的な判断力を失わない。


手っ取り早く、戦闘にも効果的な合流方法を合わせた的確な指示だった。


「解った!じゃあ、行くぞ!」


「「「「一、二の……三ッ!!!」」」」


四人でカウントダウンし、最後の一文字で俺は三人の元から飛び出し、軍へ向けて走った!


軍までの距離は約二百メートル!


目の前には未だ群れなすゴブリンやコボルドの群れ!


俺は、極力敵を切らずに軍へ向けて走り出すのだった。

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