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さっきまでより強い剣気を感じる。
観客達までそれを察知したのか、次第に静まり返った。
「なるほど、じゃあ、俺が単に家系に甘えていただけの男か、その目で見定めてくれ。俺は、お前の様なヤツの敵になりたくはない」
「ふんっ!あたしのパワーブーストを、いつまで受けていられるかねえ!」
パワーブーストか。
プライドが口を弛くしたな。
「伊達にドラゴン倒してないぜ?俺は」
近隣諸国にまで噂になったはずの俺の事を、相手にあえて強さを開示するように伝えた。
「そんなの、作り話に決まってる!」
確かに、ドラゴンにホビットが敵う訳がないというのが一般論だ。
噂も信憑性を疑う者は少なからず居るのが実情だろう。
「そう思うか?なら、お互い次で最後にしよう。互いに全力を出して、決着を着けようか」
俺がそう返すと、ユングは一息程度の沈黙の後、フッと鼻で笑う。
「……これまで押してきたのはあたしだ。あんたがドラゴン倒したなら、あたしにもそのドラゴンは倒せたって訳だ」
あれ。
俺の事をバカにした言い方だな。
だが、少々頭が足らないな。
「そうかもな。じゃあ、改めて行くぞ!?」
俺がこれまで全力ではない可能性。
それを考える事もできないか、これだけ大きな会場で逆上せたら。
俺はあえてそれを指摘せず、話に乗ってやりながら、改めて両手で正面の地に構える。
「ああ、いいよ!」
ユングは左を前にした前後に双剣を構えた。
そして―――
―――ウワアァァァーーーー………!!!
「勝者!セグ・セイダース!」
「ワアアァァァーーッ!!」
盛大な歓声に包まれて、俺はレティと三人組を探す。
程なくして見つけると、四人へ向けて手を振った。
「……あんた、ズルいね」
後ろから掛けられる声に振り返ると、左肩に手を当てたユングがこちらを見ていた。
「ズルくも何ともないさ。ただ、本気を隠していただけだ。お前は幼い頃から自分の力で危険から身を守り、生きてきたんだろ?そんな環境で育ったわりには、お前は当たり前にすべき警戒を怠ったのさ。こんな大会でも油断なんかするべきじゃなかった」
「……ぐっ!」
俺に言われた言葉が余程悔しいのか、嗚咽にも似た声を漏らす。
「環境に甘えていたのはお前の方だ。俺は、自分で剣の腕も磨いてきたし、旅で幾つもの死地を掻い潜ってきた。だからこそ、油断や緊張の緩みが危険を招く事もよく知っている。当然、相手が全力かどうかを推し量るなんて、警戒していれば言動や行動の端々から感じるものだ」
俺の言わんとしている事が解ったのか、話している途中からユングは俯いて顔を背けた。
「相手は勝ちたいと思えば手の内をなるべく明かさない努力をするのは当たり前だからな。お前には、それが足らなかった。あの時までの俺が全力で、自分の方が強いという慢心が、お前を負かしただけの事だよ」
俺が話終えた事を察したのか、女剣士はこちらへキッと睨み返す。
「……くっ!言ってくれるね!……いいさ。あたしも騎士の端くれだ。あんたの戦いぶりは、戦場でキッチリ見定めさせてもらうからね」
そう言って、ユングは俺に背を向ける。
「ああ。俺が必ず守護五天になって、お前たちを護ってやる!」
俺はその背にそう告げたのだった。
「……」
口を閉ざしたユングは、左足を引きずりながらもステージを降りていった。
再び大歓声が耳を占領する。
会場を360度見渡してから一礼し、俺もステージを後にした。
「お疲れ!セグ!あんた相変わらず早いわね!」
「おいセグ!一回戦の最初の方、何だアレ!あんまり心配させんなよ!」
「バーカ!心配してたのはお前だけだマリウス!セグがあの程度のヤツに負けるワケねーだろ!」
三人組が、特に男の二人が小突き合いながら、大会場前の広場で待つ俺の元へやってくる。
三人組の後ろにレティも続いていた。
出店は日没までやっているので、大会を終えた観客達の腹ごしらえに列を成す店が広場を賑やかにしている。
大会本戦の方は、一回戦を終えたのが午前中で、シードを入れた二回戦、つまり準々決勝を午後に行い、俺はそれを難なく突破していた。
二回戦でも対戦相手は勝ち進んだ者達の中からランダムで決められたのだが、俺は運良くあのホッズ・ベーカーズと当たり、思った通り大した実力を持ち合わせていなかったホッズは、敢えなく俺にねじ伏せられたのだった。
準決に進んだのは俺の他に、ドーズ家の御曹司であるバッハと、一回戦の時から気になっていたオレンジ頭の傭兵。
名前はナバル・ベリアスと言うらしい。
そして、シードで騎士のクリミア・ラインツと言う男が、俺が一回戦で気になっていたモスグリーンの男を倒して勝ち進んでいた。
俺以外の三人でなら、残念ながらオレンジ頭のナバルは明らかに最下位だろうな。
ランダムの対戦相手に因るが、俺は間違いなく勝ち抜くとして、決勝での対戦相手はバッハかクリミアと言った所か。
準決で俺がバッハかクリミアのどちらかと当たったら、もう片方はナバルを倒して決勝に来るだろう。
そうなれば、準決が強敵なだけに決勝は苦しい戦いになりそうだ。
しかし、バッハは長剣使い、クリミアは双牙の戟使い。
バッハ対クリミアなら、得物ではクリミアが有利か。
何にせよ、対戦相手が誰になっても、俺はただ、優勝あるのみだ。
そう強く心に刻み、空を見上げるのだった。




