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「それでは……はじめ!!」
ステージ上の審判が開始の合図を放った!
その刹那!
「……シッ!!」
ブンッ―――!!
反射的に背中を反らしてかわした俺の眼前を、ユングの左手に持った木刀が空を切る!
早いッ!
次から次へと繰り出される連携に、俺は後ずさるしかなかった!
「女だと思って―――」
ユングが言葉を発しながら、素早い連携で俺を追い詰める!
「―――油断―――」
あっと言う間にステージ端まで追い詰められてしまった!?
一瞬、目だけで後ろを見る!
もう一歩でステージの縁だ!
「―――したな!?」
ユングは、最後の一文字に力を込めて、左上段からの袈裟に掛けてきた!!
バキャッ!!
俺は、咄嗟に右へ避けて、ユングとの距離を取る!
ユングが言うほど油断していたつもりは無いが、これは、もっと本気でかからないと遣られる!
そんな警戒心が自らの鼓動をより激しくした。
ユングを見ると、どうやら木刀がステージの床に当たって折れた様だ。
「何て力だ!?」
思わず口を突いた言葉も、一旦空いた場の空気に乗じて再び会場を包む歓声に掻き消された。
ユングは、ユラリと背筋を伸ばし、折れてほぼ真上に飛んでいた木刀の先の部分を、落ちてきたタイミングで右手に掴む。
「この方が使いやすい……」
辛うじて俺に聞き取れたのは、そんな言葉だった。
元々の得物がシミターだった事から、短剣の方がユングには扱い易いという事だろう。
若干、左手に持った柄付きの方が長い様だ。
しかしそれは、最初に左手で木刀を持っていた事からもユングは左利きなのがわかるから、その長さのバランスもちょうど良いといった所だろう。
短剣二刀流。
先程の素早さといい、武器を二本も持たれては、より強敵になったのではないか。
そんな不安は、直ぐに的中した事を知らされる。
「いくよ!」
言いながら既に俺の間合へ入ってきたユング!
空かさず俺は迎撃に木刀を振り下ろす!
ガチッ!
ユングは右手の短剣で俺の木刀をいなすと、左で次の手が俺に返ってきた!
「……っく!!」
それを何とか寸での所でかわす!
俺は再び背中を逸らせたのだが、ユングの剣が最初の長さのままだったら完全に当たっていた!
かなり正確な短剣の扱いは、どうやって鍛練したのか太刀筋の鋭さがかなり洗練されたものだった!
そのまま後ろに下り、ユングは左を振り切ったまま動かない。
しかし、隙は見当たらなかった。
「やるね。さすがはセイダース家か」
「いや、俺の剣は独学だ。父に習ったものではない」
「……なに?」
ユングは直立して無防備に両手を下ろしている。
狙うなら今か?
いや、あれも短剣使いならこちらが踏み込んだ瞬間に受け流すくらいの動作に移しやすいのだろう。
もう少し、話に付き合うか。
「言葉の通りだよ。俺は自分で旅をして、色んな剣術を使う旅人達の剣技を見よう見まねで練習してきた」
「……なるほど。それで型に当てはまらないのか」
「まあな」
「その割りには、大振り過ぎず、それはそれとして型らしくなってるじゃないか」
「お誉め頂いて、感謝する……ぜ!」
最後の一文字に力を入れて、一気に踏み込む!
ガチッ!!
右下段で踏み込んで、後ろから回して上段に切り替えたが、ユングは難なく二刀を交差させて俺の剣を受ける!
ガシッ!!
交差した剣を左右に開キながら、俺の剣を押し返して来た!
「……なっ!?」
なんて力だ!?
コイツ、本当に女か!?
―――ブンッ!ブブンッ!!
俺が驚いている間に繰り出される左右からの三連撃を、後ずさりながら何とかかわした!
俺は堪らず大きくジャンプして、ユングの後ろへ飛び越える!
ユングは追おうとはせず、ようやく一息入れるだけの間合いがとれた。
「その力、本当に女か?」
合間に観客席からの歓声が会場を埋め尽くすが、俺はユングに聞こえる程度の声量で問い質した。
「バカ力で悪かったわね!」
おっ?
「なんだ、話せば砕けて話せるんじゃないか」
黒ずくめの風体と言い、さっきまでの無愛想と言い、俺は今までユングの事を根暗な女だとばかり思っていた。
「うるさい。あたしはあんたと馴れ合う気なんて無いから」
「控え室に居たときからずっと俺の事を睨んでいたよな。俺、何か悪いことしたのか?」
俺は、構えて左にニジリ歩きしながら、隙を窺いつつ話を持ちかけた。
「いいえ。ただ、家系や身分に胡座をかいてる様なヤツが嫌いなだけ……」
「俺が?」
「そうよ。あたしは小さい時に親に捨てられてから最近まで、夜に、安心して寝付ける事なんて無かった。あんたみたいに、家系だけでこういう大会に出れて、家系だけでそれなりの剣術を身に付けられるお家じゃなく、言葉通り死活問題の中で生きるために剣を磨いてきたあたしにとって、あんたみたいに趣味半分で討伐とかやってる輩が気に食わないのよ!」
まだ距離があるが、どうやらユングの闘争心に油を注いでしまった様だ。
さっきまでより強い剣気を感じる。
観客達までそれを察知したのか、次第に静まり返った。
一瞬の静寂の中で、ユングの燃えるような覇気が、俺に覆い被さろうとしていた。




