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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の騎士道
43/64

―43―

時計を確認すると、まだ九時十分程だった。


俺達は表に出て、会場前の出店を見て回る。


恐らく、さっきはああ言ったものの、守護五天となったらレティと一緒に居られる事は今以上に激減する。


俺の父、グーリッドがそうだった様に、戦に駆り出されてばかりで家になどたまにしか帰れないのだ。


そんな未来を想像しながら、せめてそれまでは、できうる限りレティの傍に居たいと思った。


そうして、ものの三十分強の時間を、レティの笑みを眺めながら過ごした。


そして、俺は控え室に戻る。


レティはリリーが迎えに来てくれて、観客席に向かった。


これからが本戦だ。


俺は、改めて気を引き閉め、控え室に集まった出場者の顔を見渡していた。


そして。


一組目の二人が呼ばれる。


「おう」等と答える者、無言で立ち上がる者と様々だが、呼ばれた二人は会場へ赴く。


俺は何番目に戦うのだろう。


本戦では、対戦相手が誰なのかを明かされていない。


名前を呼ばれるまで、誰に当たるのか解らないのだ。


あのメレルの案で、俺と当たる事を知らされていると、棄権されかねないからだと言う。


流石に本戦まで来てネームバリューに怖じ気付くヤツも居ないとは思うが、予選でチラホラとそう言う輩が出てしまった以上、万全を期すとか言って採用したらしい。


キョロキョロするのもみっともないので、なるべく首を動かさない範囲で他の選手を見るが、流石に本戦まで勝ち進んだ猛者達だ。


気配等から洗練された威風を感じる。


特に強そうなのは四人。


先に呼ばれた二人は恐らく大したヤツらではなかった。


つまり、俺の見立てで強そうな四人とは、今、ここに居る十人の中に居る。


一人は、俺もよく知る人物で、首都東区の区長の息子、ドーズ家のバッハ・ベルク・ドーズ。


ドーズ家の血筋は決まって髪色が紅くなるという云われの通り、赤髪に蒼の騎士服をキチンと着こなし、由緒正しい家柄をそのまま映した姿で立っている。


五歳から十歳までの少年剣術大会で、俺は二度ほど出場した事があるのだが、その度に決勝戦で対峙してきた貴族の御曹司だ。


もちろん二度とも俺が勝たせてもらったのだが、二度目に対峙した九歳の頃から、見違える程に鍛練を積み重ねた様だ。


それにしても、バッハの俺へ向けた視線が痛い。


ずっとこちらを睨んで来るが、俺、何かアイツに悪いことでもしたのだろうか。


とりあえず、今は考えても思い当たらないし、バッハの事は置いといて、次にいこう。


四人の内、次に俺の目に止まったのは、バッハと髪色が近い、オレンジのボサボサ頭だ。


出場資格は騎士団に所属した者にしか与えられないはずだから、アイツも騎士なのだろう。


しかし、風貌は騎士と言うよりは傭兵だ。


胸当、肩当を装着しているが、下は膝でカットしたパンツにハイカットブーツ。


服装で言えば、三人目の男も似たようなものだ。


こちらはモスグリーンのロングヘアーを後で一つに纏めている。


オレンジは大剣が獲物の様で、鞘に収まった剣を杖のように突いて立っているが、モスグリーンの方は獲物が解らない。


特に見える所に武器を持っていないのだ。


まさか、あの戦士然たる傭兵の風貌で、術師なんかじゃないよな。


そして、最後の四人目だが。


黒髪に黒布で顔の下半分を覆い、黒の装束に腰布を広く垂らしている。


腰丈の黒皮で出来たショートマントと同じくらいの高さまで後髪を垂らし、その全てが幾つもの細い三編みに結ってあった。


こちらの得物はシミターの様な反りの深い短剣。


何から何まで統一性が無いと言うか、アンバランスな組み合わせを思わせる。


それが、堪らなく不安を掻き立て、謎を深くさせていた。


その全身黒ずくめの男は、何故かこの男も俺を無感情に見詰めていた。


ワアァァァーーーッッ……!!―――――


第一試合が終わったらしく、観客の大歓声が控え室に備え付けられた小窓から室内に届く。


煉瓦を幾重にも重ねた分厚い壁を、歓声の振動でビリビリと揺らした。


本戦ともなれば、出場選手達の関係者以外にも、ハイレベルな戦いを手に汗握って観戦したい人達や、興味半分に知人に連れられた人達、ただ憂さ晴らしをしに来た人達等、国中、いや、近隣諸国からも沢山の人々が訪れる。


しかも、今年の大会は次期守護五天を決める大会だと言う触込みが、尚更人々を熱狂的にし、より多くの人を寄せ集めた。


「只今の第一試合、ホッズ・ベーカーズ対キュリ・カノーテの試合は、ホッズ・ベーカーズの勝利です―――」


ホッズ・ベーカーズ。


あまり強そうなイメージは無いが、ホビットの国の建国前から血筋を繋ぐと言われる、代々騎士や学者を輩出している名家の末裔である。


対するキュリ・カノーテと言う男はブロンクスにも劣らない巨漢だった。


どちらも地方のモンスター被害解決の為に討伐に参加し、それなりの成果を出しているらしい。


一応、本戦出場者の似顔絵が書かれた羊皮紙には、そう言ったプロフィールの様なものも載っていた。


しかし、ここでもやはり気になるのが黒ずくめのアイツだ。


プロフィールの戦績欄には何も書かれていない。


何か書いてあれば、大まかにでも実力が推し測れるのだが、ここでも謎が残るばかりだ。


出来れば初戦には当たりたくないな。


俺は、黒ずくめの人物に小さな警戒を抱くのだった。

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