―42―
俺はあれから、予選三回戦も順調に勝ち残って本線へと出場を果たした。
今日はその本戦の第一回戦で、グルゴは仕事で来れず、二日後の決勝には間違いなく来てくれると約束をしていた。
ムーアは公務で少し遅れるそうだが、場合によっては俺の試合も観れないかもしれない。
昨日は一日空いたので、俺はゆっくり休んで今日に備えていた。
レティはそんな俺に、昨日も実家まで来て料理を振る舞ってくれて、今日も朝早くから弁当を作ってくれている。
今日は本戦の一回戦のみで、一試合最大で一時間の時間制限の中、6試合が予定されている。
予選とは違い、本戦では一つのステージで戦い、勝ち抜いた者だけが次の試合に挑めるトーナメント形式となる。
二回戦はシード二人と一回戦を勝ち進んだ六人で戦い、四人勝ち残って準決勝。
その後勝者二人を決勝戦へ、敗者二人を三位決定戦へと挑む形となり、同日午後、表彰式が執り行われる。
守護五天への戴冠式は、予定ではその一週間後だ。
勿論、新旧の守護五天が揃わなければ戴冠式は行われない。
現・守護五天である俺の父グーリッドは、今はコルトの東方に出向いているので、その情勢に左右されるのは言うまでもない。
父がそれまでに帰ってこられれば良いのだが。
しかし、俺が希有したところでどうにもならない。
まさに、神のみぞ知る、と言った所か。
それよりも、俺は目の前の大会に集中しなくては。
何せ、ここまで勝ち進んできたヤツらは、俺も本当に油断は出来ない。
それなりにモンスター退治で名を馳せている者や、実際に騎士団で活躍している者達ばかりだからだ。
「さあ、ここだね。あたし達は席を取りに行ってるよ」
会場に到着すると、リリーが気を利かせてゴッツとマリウスを連れていく。
「じゃあな、セグ!」
「また後でな!」
ゴッツとマリウスは、背中を向けたまま片手をヒラヒラさせて、一時的な別れを告げた。
「ああ!後で!」
そう言って、三人の背中に手を振って応えた。
「よくセグの話に出てくる三人って、あんな感じなのね……」
クスクスと含み笑いを溢しながら、レティは俺に言った。
「ああ。良いヤツらばっかりだろ?」
「ええ。ホントに」
俺達は、観客用の出入口に入っていくリリーやゴッツ、マリウスの後ろ姿を見送って、選手用の出入口を目指した。
「しかも、三人とも強いんだ。俺と初めて会った時より、今では更に強くなって、彼らがこの大会に出ていたら、俺も本気で戦わなくちゃ勝てそうにない」
「へえー、そうなんだ……」
俺達は選手用の出入り口に着くと、開いていた扉から中へ入る。
「ああ、リリーの治癒術も遠隔でできるようになってるし、弓とか投擲は俺よりもよっぽど正確だ。ゴッツなんか、物質硬化術を身に付けて、自分の身体を鉄みたいに硬くできるようになったから、実戦でも武器や防具が必要無くなってるし。マリウスなんか電撃や爆発とかの複合属性術も使える様になったんだぜ?」
「そんなに凄いんだ、あの人達」
「ああ。複合術は俺も使えるけど、仲間を避けて放つとかって実は凄く難しいんだ。それを、マリウスは爆発と同時に氷の壁を仲間の居る方に作るとか、そう言う離れ業をやってのける……」
「ふ~ん……」
何だか、レティの反応が弱くなってきたから、ゴッツ達の話はこの辺にしておこう。
「……さ、これでよし」
「ありがとうございます。では、左手の控え室にてお待ちください」
出場確認の署名を済ませ、俺達はまだ控え室には行かずにエントランスで休む事にした。
どうせまだ時間はある。
運営の本戦開始の挨拶は十時からだが、今はまだ九時前だ。
「セグ……」
突然、隣に座るレティから、名を呼ばれる。
「ん……?」
「私、セグは本当に守護五天になって良いのかなって、今更だけど思っちゃって……」
俯くレティの顔を横から除き混む。
「なんだよ。どうして……」
「だって、あの三人が来てからのセグは、凄く楽しそうで……」
ゆっくりと俺の方へ上げたレティの顔は、いつになく悲しい色を映していた。
「本当はもっと、旅とか冒険がしたいんじゃないのかなって……」
それは、レティなりに俺を気遣う言葉だった。
でも。
「俺は決めたんだ。レティを、大切な人を護る為に守護五天になるって。そして、愛する家族を幸せにできる様に、ちゃんとした仕事にも就かなきゃならないし、俺には剣しか無いから、せめてこの身体で、この剣で、レティを、俺の家族を護りたい。それじゃダメか?」
「……う、ううん」
レティは首を横に振ると。
「……ありがとう」
目尻に涙を貯めて、優しい笑顔を俺に向けた。
会場の入り口から入り込む光が、レティの笑顔を照らして、言葉にし難い、美しくも暖かな空気に包まれる。
俺は、他の人の見る目など頭にはなく、殺風景なエントランスに居ることも忘れて、その美しくも儚い微笑みにそっとキスした。
ふと、時が止まる。
永遠とも思える間、俺達は呼吸も忘れていた。
そして……
どれくらいの時間が経ったのか、周りの喧騒が耳に届くと、ハッと我に返る。
「……ご、ごご、ごめん!ここ、こんな所じゃ雰囲気もなにも無いな!」
急に恥ずかしくなった俺は、慌ててレティから離れ、思わず椅子から立ち上がって周りを見渡す。
しかし、幸いにも俺達を気にしている人は居ないようだ。
会場の職員達も、何事もなかった様に作業を続けている。
だが、そうなると逆に俺の行動が浮いてしまう。
まるで挙動不審者だ。
そんな俺を見て、レティはクスクスと笑いながら言った。
「いいえ―――」
そう返すレティへ、俺は視線を移した。
「―――セグと私の間に、場所とかそんなの何の意味も持たないわ」
言いながら右手をこちらへ伸ばすレティ。
「……え?」
意外にも落ち着いたレティに、きょとんとした顔を返しながら差し出された手を取ると、軽く引っ張って椅子から立たせた。
「フフフ。私にとっては、どんな場所でも、どんなに苦しい時でも、セグと居る事が私の全てで、セグ以外には何も要らないの」
「……そ、そうか……」
大人びた笑みを見せるレティに、俺は再び赤面したのだった。




