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小さき男の英雄譚  作者: 咲 潤
小さき男の騎士道
41/64

―41―

リリーの胸に窒息死させられそうな状況から、俺はようやく息を吹き返した。


「……あ、な、何で三人がここに居るんだ!?」


我に返った俺は、先程までの会話が耳に入っていない。


「だから、俺達はセグを応援しに来たんだって!」


「俺達の仲だ。応援くらいさせろよな!」


マリウスとゴッツが、そんな事を言ってくれる。


「おおっ!ありがとう!わざわざ遠い所からよく来てくれたなぁ!」


俺は思わず嬉しくなって、語気も明るくなった。


「当たり前でしょ!……と、言いたい所だけど、あたし達も訓練所の運営に資金稼ぎしないとだから、こっちの方に生息してるカラタチワシを大漁捕獲って仕事を受けてきたのよ」


そう言って、ゴッツが抱えている、人が二人くらいスッポリ入りそうな大きいバッグを指差す。


あれから三人は、タラックに冒険者育成の為の訓練所を提案、新設し、町からの要望で運営までする事になっていた。


訓練所の経営はリリーが中心となって行っている。


そして、国でも指折りの剣の使い手となったゴッツと、これまたタラック防衛団筆頭を兼任して町一番の術の使い手となったマリウスに、術者を五人、槍と斧の使い手を一人ずつ加えて、十人の講師を抱えた小さな組織を築いていた。


だが、組織は小さいが、加盟している門下生は百名を越える。


小さいながらも立派な訓練所となっていたのだった。


資金はギルドから請け負う討伐報酬が主で、リリー達も含め、事務方を除いた講師職員と、門下生全員で力量に合わせた依頼をこなして得ている。


お金の無い者も生きる糧として旅人を生業とする者も居るから、その点を考慮した経営方針なのだ。


だから、リリー達も自らこうして討伐に出向いているのだ。


「アハハ!リリーらしいな!……あ、そうだ、紹介がまだだったな!こっちは俺の婚約者のレティシアだ。レティ、この人達は……」


「知ってるわ!さっき自己紹介して頂いたもの。セグがリリーさんの胸の感触に意識飛んでる間にね!」


ムスッとしたレティが俺の紹介を遮った。


「あ、えっ!?ち、ちが……」


何やらレティの怒りを察知し、慌てて取り繕う。


「あらら、あたし悪いことしちゃった?」


「リリーが見境なしに抱き付くからだぞ!?」


「いや、ゴッツ、その前にお前こそセグに妬きもちくらい妬かんのか」


「はあ!?なんで俺が!?」


「……はぁ、まあ、ゴッツみたいなオッサンが妬きもち妬くのもみっともねーか」


「ああ!?俺はまだ三十路前の“オニイサン”だ!オッサンじゃねえ!」


「あー、わかったわかった!」


男二人が言い合いを始めると、リリーが。


「さ、アイツら置いて、大会の会場へ行きましょ!試合、これからなんでしょ?」


と言って俺とレティの背中を押す。


「おお、おい!リリー!」


「あっ!リリー!何だよ、置いて行くなよ!」


リリーに「ああ」と答える俺の声も、慌てる二人の声に書き消される。


「プッ!クスクス!」


レティは、そんな二人を見て堪らず吹き出す。


「……な?面白いだろ?」


小声でレティにそう言うと、さっきまでの俺やリリーに対する嫉妬もどこかへ行ったらしく、笑いながらコクコクと頷いていた。


「ホラ!あんた達、アホみたいな事ばっかりしてるから、二人に笑われてるじゃないか」


「なっ!?おい、セグも笑ってやがるのか!?」


「あ!レティシアさん、バカなのは俺じゃなくてゴッツだけだから、勘違いしないでくれよ!?」


「なに!?マリウス!てめえ何俺だけ……!」


「はあーいはいはい!解ったから、もう本当にその辺にしときなよ!」


リリーの渇が、男二人を止める。


「うい」


「お、おう」


「それでよし!さあホラ!会場まで大人しく付いて来るんだよ」


「「へーい!」」


そう言って、三人は俺とレティと共に、大会の会場へ向かった。


道中、市街地を通り抜ける俺達は、皆で笑いながら明るい声を振り撒いていた。


リリーは何処かサッパリしていて、会うたびに姉御肌の頭角が現れ始めた。


あれから、この三人とは西大陸南方の討伐に、六・七回程も付き合ってもらったのだった。


フランドゲイル討伐の半年後、結局、ウシジゴクはフランドゲイルに絶滅させられたのではなく、フランドゲイルから逃げて南方へ移り、勢力を広げているという情報が入った。


俺は討ち漏らした責任から単独で向かった所、三人も自分達が逃した責任を感じて討伐に来ていた。


そこで、俺達はバッタリ会い、三人が『冒険は辞めない』と言う話を聞いて、そこから本格的に長い付き合いが始まる。


南方へ行く際には、前もって手紙を出して落ち合う場所を決め、ギルドの依頼を一緒に受ける事にしていた。


そうしてさらに親睦を深めた三人は、恐らくはリリーがワザとこちら方面の依頼を受けて、俺の応援の為に来てくれたに違いなかった。


それを解っているからこそ、こちらに気を使わせない配慮をしたリリーの言葉がありがたい。


俺は、そんなリリーに感謝しつつ、大会に向けて意思を固めていた。

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