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「お言葉は有り難いのですが、お断りさせて頂きます」
俺は、丁重に頭を下げて断る。
隣では、レティとグルゴが息を飲む音が聞こえてくる。
顔を下げているから、対面する騎士団幹部の顔はわからない。
だが。
「そうか。残念だが、予想はしていた。そう悪く貶めないで下さい、セグ殿」
フォードから、そう言われて頭をあげる。
フォードを挟む二人は、残念そうな苦笑が溢れていた。
「メレル国王とはどういう経緯であれほど親密になられたのか知らないが、あなたの試合を、しかも予選から観られるほどの間柄だ。私などの出る幕ではなかった」
「御察しの通り、メレル国王を差し置いてお話に乗る事ができません。また、私にはこの、北方伯の娘レティも居ります。この二人が身近に居てくださるので、これ以上は……」
会を開くと言うことは、そこに呼ぶ面子も貴族のステイタスになるが、同時に同じ人物をゲストに迎えた時、ゲストが訪れる時間帯等も貴族の格を見せつける材料になる。
一番、ベストな時間帯とされているのが十九時から二十一時で、その時間帯にゲストが居た会場が、ゲストにとっても一番贔屓にしている会場となり、それを主催する者のステイタスとなるのだ。
そして、同日に複数の会に同じゲストが現れるのなら、そこから前、後の順に順位がつけられ、主催する貴族もその順位に格を置かれる。
セグの場合、大会で優勝した当日は戴冠式があり、その夜は間違いなく実家で祝勝会をやるのだが、これはあくまで身内なので順位を左右されない。
順位が左右されるのはこの後だ。
次ぎの日に国王の祝勝会。
そして、レティの家の祝勝会を国と同日にやるか、翌日になるかと言った、三つの会が目白押しで先約されているので、フォードの会を受けるにしてもレティより後の扱いになる。
すると、フォードの会が北方伯の下に下る事を意味し、聖騎士団長の地位を下げる事になる。
しかし、フォードは騎士団長であり、騎士団の代表であるから、とてつもなく複雑な立場にあり、北方伯を差し置いてフォードの会を先に開くと、今度は婚約相手のお家をフォードのみならず騎士団という組織の下まで貶める事になる。
つまり、国の四大諸侯として名を列ねる北方伯が、平民出かもしれない一騎士の下にさえ置かれる事になるのだ。
そういう、立場というものをよく考えなくてはならない判断が、今、俺とフォードの間で行われた。
実は、フォードは騎士団長として、守護五天を国王よりも騎士団側に付けたいという思惑があった。
他の国との条約とは言え、自らの国を守るのが最優先だろうと、騎士団は常々訴えていたのだ。
条約にも、自国の守護が最優先という事にはなっていたのだが、国王側に付いていると、どうしても政治的に利用し勝ちで、同盟国の危機に自国を置いて駆り出されてしまう事がままあった。
国内でも、ゴブリンやオークの反乱は絶えず、また、北からはエルフの国を飛び越えてくる凶悪なモンスターに脅かされる事もしばしばありながら、守護五天は他国へ駆り出され、多くの騎士たちがモンスターに殺られてきたのだ。
フォードは、そういった不条理を幾度となくセグの父、グーリッドに話してきたが、グーリッドは、いや、グーリッドに限らず国民は皆、国王の命には背けなかった。
グーリッドは、そんな国民思いのフォードこそが騎士団の長になるべきと推して、俺が成人した時、晴れて戴冠したフォードを家に招いたのだが、そんな話は俺の耳には入らず、父、グーリッドは、あくまで自国の守護が最優先での守護五天という立場にあるものと思っていた。
俺は、そんな事情を知らずにフォードの申し出を断った。
そして、お茶会を終えた俺達は、方々に別れ、帰路に着く。
フォードの無念な表情は、共に城の騎士団宿舎に向かう二人の幹部に見守られていた―――
―――二日後の朝。
俺は見事本戦出場を果たし、レティに起こされて大会場へ赴く。
と、そこへ。
「セグ!見ぃつけた!」
「おいおい!そんなにはしゃぐなよ!」
「マリウスは黙ってろ!」
俺がレティと歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
反射的にまさかと思いながらも、レティと共に後ろを振り向く。
「……誰?」
先に振り向いたレティが尋ねると同時に、俺には突如として何やら柔らかいものを顔に押し付けられた。
「うわっぷ!」
そのまま何かが頭に巻き付き、頭部を締め付けられる。
「むー、むー……!」
俺は息ができなくなり、慌てて両手を前に振った。
「アハハハ!『うわっぷ』だってよ!」
「おい、リリー、セグが窒息しちまうぞ!?」
「あっ!!セグに何するんですか!?」
レティが慌てて俺とその柔らかいものを引き剥がした。
どうやら、柔らかいものとはリリーの胸だったらしい。
「あら、あなたがレティシアさんね?あたしはリリー。セグとは冒険仲間なの」
そう言って、リリーがレティに挨拶する。
「は、はあ……」
レティは、いきなり俺に抱きつかれた怒りも明るいリリーの挨拶に毒気を抜かれ、そう答えた。
俺は、リリーの胸に埋まった感覚に頭がボヤけている。
「おっ!?何だよ、デート中だったのか!?」
「ゴッツ!下品な言い方は止めろ。これから試合だってのに、んなワケねーだろ。……ったく、人の事は良いから、自分の事を見ろよ」
マリウスの言葉は後半がボヤキに変わる。
「アハハ!ごめんね!?こっちはマリウスで、あっちのゴツいのがゴッツ。あたし達、セグを応援しに来たのよ!」
俺の意識が朦朧とする中、そんなやり取りが繰り広げられていたのだった。




