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「セグ。セグ・セイダース。番です。こちらへ……」
憲兵姿の案内人が、大きめな木の扉を開いて入るなり、俺の名前を呼んだ。
「……はい」
俺は行儀よく返事をする。
すると、控え室内が響動めいた。
鬱陶しい気持ちを押さえて腰を上げ、憲兵のもとへ歩み寄る。
「セグ・セイダースですね?」
憲兵の問いに頷きで返す。
「第三ステージです。ご健闘を」
憲兵がこの場に不釣り合いな笑顔を俺に向けた。
良い戦いを期待しているのだろうか。
俺は、案内の紙を受け取ると、控え室にあった木刀を改めて握りしめた。
そうして、憲兵の横を通り抜けて細い通路を進む。
通路は薄暗い石造りで、等間隔に付けられた燭台の灯りがなければ真っ暗で視界を失いそうだ。
そんなヒンヤリした細い通路を通って進むと、右に曲がった先に、明るい出口が見えてきた。
上部が半円になった扉の形に切り取られた暗闇は、切り取られた所がまるで天国にでも続いているかの様に眩い光を放ち、暗闇に悶える魂が吸い寄せられていく錯覚に陥る。
しかし、あの明かりの向こうに広がるのは戦いの場だ。
そんな矛盾した感覚に違和感を覚えながら、暗闇から明るい光の中へ足を踏み入れた。
耳をつんざく喧騒。
熱を帯びた罵声や奇声が飛び交い、目の前に繰り広げられる戦いに、観客達は手に汗を握る。
俺が登場すると、一部で一際大きな盛り上がりの声に気付く。
そちらを見ると、最前列に陣取るレティとグルゴ、さらにムーアの姿が。
「国王……なにやってるんだ、まったく……」
公務を放ってこんな所まで来るメレル国王に、呆れる思いと感謝の気持ちが交錯する。
そして。
レティとグルゴという友と恋人。
俺は三人に視線を向けて、小さく頷いて見せた。
母はまだ来ていないが、何より心強いエールを受けて、ステージへ向かった。
すると、そこに待っていたのは。
願いが叶ったのか、先程俺にケンカを売ってきたブロンクスの姿があった。
俺は一瞬驚く。
そしてヤツは。
「……よう!」
不敵な笑みを浮かべて、俺を見下ろすのだった。
「フッ!まさか、本当に初戦であんたに当たるとはな」
「おお、なんだ?これから殺られるってのに喜んでやがんのか?」
鼻で笑い飛ばした俺の笑顔を、喜んでいるとでも思ったのか、そんな下らない言葉を吐く。
「いや、俺も初戦はあんたに当たりたいと思ってたんだ」
言いながらステージの上へ上がった。
「オメェ、そんなにこの俺に殺られたかったのかよ」
そう返されながら、俺は線が引かれた自分の立ち位置に立つ。
「違うな。俺があんたを真っ先に倒したかったんだ」
目の前のブロンクスと言う男。
こう見ると大した強さは無さそうなのだが。
もしかしたら口に劣らず強いのかもしれない。
そんな事を思うと、言い返した瞬間に武者震いを覚える。
「なっ!?オメェ、ナメてんのか!?」
「ナメてんのはあんただよ」
俺がそう返した時。
「はじめ!!」
ステージに一人付いた審判が、試合の開始を告げる!
「……そうか。……なら―――」
ブロンクスは不敵な笑みを残したまま、そう言い含め。
「―――望み通りボコボコにしてやんよ!!」
そう吐き捨てて飛び掛かってきた!
右上段の袈裟に振り上げるブロンクス!
俺は手始めにそれを真正面から受けて見ることにした!
ガツンッ!!
ブロンクスの図体に裏切らず、力強い一撃が俺の木刀に繰り出された!
「いっ……!」
力強い衝撃に、思わず声が漏れる!
鍔迫り合いになるが、力では負けてしまうのが目に見えていたから、すぐに後ろへ跳んで距離を取る。
「どうだぁ?おい。俺の剣の力は!ああ!?」
ブロンクスは手応えを感じたのか、開いた距離を詰めようとはせずに、汚い口調で語り始めた。
「俺ぁ昔『激震のブロンクス』と呼ばれていた!俺の剣戟の破壊力が、その名の由来よぉ!」
「……なるほど、そうだったのか」
たしかに、一昔前にメイデンに轟いた名前だ。
今、言われて思い出した。
「さっきのぁホンの小手調べだ!次は剣ごとオメェのそのツラにブチ込んでやんよぉ!!」
そう言って、ブロンクスは最後の一言に力を入れて駆け出した!
動きは普通の人並みだ!
「……いくら力が強くても、俺には……!」
心の声が気合いで口から漏れる!
バカの一つ覚えの様に右上段からの袈裟で切り下ろしにかかるブロンクス!
その剛剣が振り下ろされた!!
刹那!!
瞬間の出来事がスローモーションで進む!
ガツンッ!
ブロンクスの剣を左へ受け流す……!
ガシッ!
右へ回ってヤツの背中へ振り下ろし……!
ガツッ!
倒れ込むヤツのケツに叩き込んで……!
い
……ドサッ!!
前のめりにうつ伏せのまま倒れた!!
「そこまで!!」
ステージ上の審判の判断により、俺の連打は止められる。
ブロンクスはショックで気を失い、うつ伏せに倒れたまま、横に向けた口から泡を吹いていた。
「……スピードが遅すぎるんだ……」
俺は、戦いが終わった事で集中を解くと、先程溢れた言葉に続く言葉を呟く。
突然、周りの喧騒が再び耳を突き、あたかも俺に向けられた称賛の嵐の様にも聞こえる。
しかし、残念ながらステージは四つあるので、一様にそうだとは言い切れない。
わかっていながら、俺はレティ達に目を向けた。
その視線の先では、間違いなく俺に向けて称賛する三人の姿が。
俺は、三人に見せるように、右手を空へ突き上げたのだった。




