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「セグーっ!迎えに来たわよ!?」
あれから、母公認で付き合う事になったレティが、玄関を開けて声を響かせた。
「ああ!今、行くよ」
俺は食後のコーヒーをグイッと飲み干し、キッチンへカップを片付ける。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ええ。頑張ってね!レティ。宜しくね」
既に女同士の仲は良好で、ネルもレティを愛称で呼ぶ。
「はい!お弁当もちゃんと作って来ましたから!」
そう言って、レティは大きな箱が入っているらしい包みを見せる。
「ありがとう!私も午後には行くわ!」
ネルは笑顔でそんな事を言って、ダイニングの入り口から手を振る。
「わかりました。席、とっておきますね」
レティも笑顔で返すと、俺より後に玄関を潜って扉が閉まるまでネルに手を振った。
それにしても、母との関係が良好なのは良い事だ。
だが、レティの方の両親には、俺のウケは悪かった。
俺はまだ守護五天にもなっていないから、万が一守護五天になれなかったら、単なる平民に愛娘をやる様なものだからだ。
だから、俺はレティと幸せな結婚をするために、レティの両親とも仲良く受け入れてもらえるように、この大会で優勝しなくてはならない。
守護五天になる理由に、今となってはそれも大事な事の一つとして加わっていた。
俺は、絶対に優勝する!
レティと会場になる闘技場に向かう道すがら、そう強く心に刻むのだった。
闘技場に到着すると、レティは付き添いとして、俺と共に選手の入場口へ入る。
大きく荘厳な扉を潜ると、目の前の広間にカウンターがあり、其処で当日の出席確認手続きが行われていた。
外には人が沢山居たが、目の前のカウンターに手続き待ちで並ぶ出場者を見ると、予想より少ない事に少し驚く。
「以外と少ないのね」
レティが俺の横で呟くと。
「おっ!?オメェがセグだな?」
手続きを終えた出場者らしい男が、レティへの俺の返事を差し置いて突然会話に割って入った。
他の出場者と比べても一際大きな図体に、人間族で大きい体型の人が着用するような大きな半身鎧を着込んでいる。
肩当ては無く、見た感じはどこかの蛮族の様だ。
こんなヤツでも騎士団への入団が可能なのか。
「……ああ。あんたは?」
俺が軽く睨むと、男は両手の平を天に向けて。
「ハハハっ!!やっぱりか!俺はブロンクスだ!」
豪快な笑いを見せて、男が名乗った。
「そうか、ブロンクス。当たった時は宜しくな」
俺が真剣な面持ちを僅かに崩すと。
「『宜しく』だあ!?親の七光り風情が何をほざいてやがる!お前はこのブロンクス様がボコボコにしてやるんだよ!わかったか!?」
ブロンクスと名乗った男は、勝手にそれだけ言い放つと、俺の返事も待たずに去っていく。
「……なんだ?あれ」
レティが横でブロンクスに向けて不快な顔をしている所で、俺はそう呟く。
「おいおい、本当にセグだ!」
「やっぱ親父の後を継ぐつもりで大会に出るのかよ!?」
「アイツ、偉そうにカッコつけやがって!」
「女なんか連れてやがるぜ!?」
「ホントだ!ヤバイな、俺、勝てる気しねえ!」
「うおっ!?俺やっぱ出場止めよ!」
ブロンクスのお陰で周りの空気が一変した。
剥き出しの敵意を向ける者。
前情報で恐れをなす者。
嫉妬か何か不満を露にする者。
単純に幻滅する者。
思惑は其々で、各々の感情を口にしていた。
しかし、出場者が少な目なのは、近くに居たヤツらの話で明らかになる。
どうやら、エントリー受付開始後、メレル国王によって間もなく俺の名前がエントリーされた事により、俺の各地での活躍を耳にした輩は俺の名を見て出場を取り止めたらしい。
ただ、名前だけだと半信半疑な所があり、『本当はセグは出場しないんじゃないか』とタカを括ったヤツが、ここに来て俺の存在を確認した時に怯え始めている様だ。
結果、いつもなら二百人近く集まるはずの大会出場者も、今年は百人を少し上回るくらいのようだ。
激減した反面、それでも半分以上が集まったのには、やはり、今年の大会では優勝者が守護五天になれるという名誉が多くの出場者の目的なのだろう。
優勝すれば、国で英雄となり、同盟国でも有名になり、収入も侯爵並みになる。
そんな、一攫千金目的の出場者は、少なくはないはずだ。
年に一度行われる大会も今年は特別なのだ。
それにしても、俺の名前は俺が思っていた以上に過大評価されている事がわかった。
それに気付くと何やら嫌な予感が頭を過る。
無事に終えてくれれば良いが。
そんな事を内心で祈りながら、俺は順番に従って予選出席の手続きを済ませた。
出場者は西と東の控え室に別けられた。
予選は、東西から一人ずつで一対一の一組とし、会場に用意された四つのステージで同時に四組の出場者が戦う。
そして、決着が着いたステージから次の組の試合を始めていき、次々に試合が進められていく形式となっていた。
出場者の数にもよるが、およそ二日間をかけて十二人に絞り、シード二人を足して本戦が始まる。
本戦はトーナメントとなっており、シード特権は一回戦目の免除で、二回戦の準々決勝からの参戦となっていた。
その前に、今はもうすでに始まっている予選に集中しよう。
俺は東の控え室に居る訳だが、レティは観覧席に行って皆の分の席をとっているはずだ。
見渡すと、先程俺にケンカを売ってきたブロンクスが居ない。
どうやら西の控え室に行った様だ。
ああ言うヤツは、一戦目にでも当たってボコボコに仕返してやりたい。
そんな事を思っていると。
「セグ。セグ・セイダース。番です。こちらへ……」
憲兵姿の案内人が、大きめな木の扉を開いて入るなり、俺の名を呼ぶのだった。




