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その後、予選二回戦を難なく突破した俺は、予選一日目を終えて、大会場を後にする。
二回戦目は午後だった為、母も応援に駆け付けてくれたのだが、俺が試合に勝った所を見るなり、先に帰ったらしい。
俺は選手として、予選二回戦を全て終えるまで会場を出られなかった為、控え室で勝ち残りメンバーの似顔絵を確認してから会場を出た。
そこに、待っていてくれたらしいレティ、グルゴ、メレルことムーアが駆け寄ってきた。
「お疲れ様!やっぱりセグは強いのね!」
レティの満面の笑顔に、殺伐とした戦闘モードだった俺の心が癒される。
「ああ。応援ありがとうな」
「セグならこれくらい余裕だよね!僕と旅に出た時に倒したモンスター達の方が、もっと強かったんじゃない?」
「ハッハッハ!そう来たかグルゴ。まかりなりにも、あれらは我がオーリー騎士団の一員なんだが、まさかモンスターに劣るとは、言ったものよ!」
「……え?あ!いや、それは……!」
グルゴの例えに、メレル国王扮するムーアが笑い飛ばす。
しかし、そこに何やら怒りを察知したグルゴが、慌てて訂正しようとした。
「ムーア、それくらいにしといてやってくれ。グルゴも悪気は無いんだ。何なら、俺が守護五天に選ばれたらあいつらをもっと鍛えてやるよ。どこに出ても恥ずかしくないくらいにはな」
「セグまで我が騎士団を愚弄するか!?」
「いや、愚弄するつもりはないが、俺みたいな誰かを師に仰いだ事もない様な輩に簡単にやられちまうって事実は、目を背けるわけにいかないだろ?」
「……むう。言ってる事はわかる。わかるのだが、そうまで非力と言われては、我が誉れある騎士団の汚名ぞ?国王たる朕がその様な……」
未だ怒りを収められないメレルに。
「ムーア?今は国王じゃないでしょ?」
レティが突っ込む。
「……あ?お、おう、そうであったな。すまん」
「いや、誉れ高き騎士団を汚すのは良くない。それは俺も謝る。だけど、やっぱり鍛えなきゃ今のままじゃダメだ。あと、ゴロツキみたいな輩は品格を落とす。例えば俺が一戦目で戦ったブロンクスとか言うヤツなんかも、更正しない限り騎士団には置いておけない」
「……そ、そうか。ち……いや、私は彼の者をよく知らぬから、対面したセグがそう言うなら、そうなのだろうな」
「ああ。今頃まだお寝んねしてるかも知れないけ……」
俺が言いかけたその時だった。
「俺様の話をしてやがんのかぁ!?」
俺達の後ろから、突然野太い声が割り込んでくる。
「「「「……!?」」」」
咄嗟にムーアがメレルだと聞かれてしまったんじゃないかと焦りながら、俺達は揃って後ろを振り向いた。
「テメェ、俺様との試合の時、何かしやがっただろ!!汚ねぇぞ!?」
どうやら、メレルの存在がバレたワケではないらしい。
一般の騎士なら、目の前に国王が居ると知って下肢突かないワケにはいかない。
だが、ブロンクスはそれも無しに俺に文句を言っている点から、バレて無い事がわかる。
「汚いのはどちらだ愚か者!」
そこへ、新たな声が俺達の騒ぎに混ざってきた。
「「「……っ!?」」」
俺達は声の主を見やって、メレルを除く三人が一瞬言葉を失う。
ブロンクスまで、その方向を向いた瞬間に驚いた。
「あ!ま、まさか……!?」
グルゴが声を出した直後には、ブロンクスは下肢突いて地面に伏していた。
『しっ……!』
俺はグルゴに小声で黙らせると、ブロンクスが伏している隙にメレルは声の主に何やらジェスチャーする。
声の主がメレルに気付くと、一瞬驚きを見せるが、すぐにメレルのジェスチャーが通じたらしく、キリッと佇まいを正した。
「……オホンッ!!……ブロンクス、面を挙げよ!」
「はっ……!」
短い応答の後、ブロンクスは立ち上がって声の主に返す。
「……フォード騎士団長殿!」
周囲の俺達に注目していた人混みが、ザワザワと騒ぎ始める。
「あれ、やっぱり騎士団長様だわ!」
「フォード様!」「フォード騎士団長様だ!」
「隣には近衛隊長のレジーム様も居るぞ!?」
「もう一人は西方守護隊長のノーズウェル様だ!」
「ウオーッ!スゲー!」「こんな所で騎士団幹部が三人も揃うなんて!」
「副団長のナバル様はいらしてないんだな……」
騎士団の幹部が三人も居れば、いくら平装していても気付かれないワケが無い。
ここに、変装もせず平装だけで気付かれない国王が居るが。
「ブロンクス、私達はグーリッド殿のご子息であるセグ殿の戦いを直に見てみたくて、今日は特に緊急の事態も起きなかった為に、二回戦ともその戦いぶりを拝見できた訳だが、私達の眼に、セグ殿が何らかの違反をしたと思えるものは皆無であった―――」
「なっ……!?」
フォード騎士団長の言葉に、ブロンクスは瞠目した。
「―――むしろ、戦いに余裕さえ感じられ、何か裏工作が必要な程に切羽詰まった印象も無い。つまり、お前とセグ殿との戦いでお前が負けた理由は、お前の思う”なにか“等ではなく、歴然たる実力の差と知れ。そして、それも解らず己に慢心し、己を負かした相手に言い掛かりを付ける事こそ、汚く醜い行為だと知れ。お前は国民の安心、安全、平和を護る騎士団にとって”心“の部分で不適格である。追って沙汰を下すから、それまで謹慎しているがよい」
フォードの言葉に、ブロンクスは頭を項垂れる。
人間族並みに大きい図体が、今は一回り小さく見えた。
しかし、それよりも小さい俺とグルゴ、レティの眼には、ブロンクスが怒りの様な感情で歯を食い縛る横顔がハッキリと見てとれた。
その姿に、何やら嫌な予感が過るのだった。




