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ムーアは、俺とレティの関係を応援してくれると言っていた。
しかし、王の正妻候補は四人しか居らず、レティがその内の一人であることを知っていた為、ムーアに「それで良いのか?」と問い詰めていた。
そんな流れから。
「私には公爵のフィズが居るさ。セグは私の事より自分の事を考えよ」
等と俺に助言するムーアは、世論に従い、自分の意思を棄てて国民の声に応えるつもりだ。
フィズと言えば中央公爵家の現公爵である。
そして、その現公爵は女性ながら男勝りな判断力と器量をお持ちだと聞いた。
気も強く、確固たる信念に基づいて的確な采配を振るという。
ムーアはそんな気の強い女性より、自らが守ってあげたいと思える、物腰柔らかな女性が好みだと以前話していた。
その好みから言えば、レティは理想的だったはずなのだ。
「そうか。それなら安心した」
俺はそうムーアに告げたのだが、世論でのレティについては二番手に有力とされていたのもあり、正直複雑な心境だった。
容姿端麗で器量の良いレティが、国王の正妻に有力とされているのは致し方ない事なのだ。
だが、この時の俺には、心の片隅をチクチクと刺されるものが大きくなっていた。
その友人の正妻候補と言う立場の女性に、自らが心を寄せていると言う狭間の葛藤は、かなり複雑なものだった。
それに踏ん切りをつけるべく、一歩前へ進むべく、俺はグルゴとムーアに告げる。
「さあて、じゃあ解散だ。俺とレティは自然区へ行く。それじゃあな」
「「ああ!」」
「元気でな」「レティも、またね」
ムーアとグルゴの返事が重なり、そのあとは思い思いに一言残して去っていく。
……そう言えば。
「グルゴ!お前が用意してくれたって言うプレゼントは!?」
遠ざかる無二の親友に、ちゃっかりと確認を忘れない。
「ああ!それは家に届けてあるよ!父さんに渡してあるから、楽しみにしてて!」
こちらを向いて答えながらも、グルゴの足は遠ざかる。
「わかった!ありがとう!」
俺はそんな幼馴染みに手を振りながら礼を言った。
その幼馴染みは、前も見ないで通行人に避けてもらいながら、明るく手を振り返して去っていった。
「……あぶないわね、まったく。グルゴったら」
俺の横でその様子を見ていたレティが、微笑みながらそんな事を呟く。
「でも、良いヤツだろ?」
俺は、多分レティも同感なはずの印象を問いかけた。
「ホント、セグには勿体ないわ」
冗談混じりにそんな事を言って、悪戯な笑みを見せながら走り出すレティに。
「……なっ!?何だよそれ!」
と問い質しながら追い掛けた。
そんな風にじゃれ合いながら、草原へと向かう。
途中、フレメ屋の露店でフレメを買い、食べながら歩いたりもした。
そうして、レティと知り合った頃にアレスと三人で来た草原へと辿り着く。
少し小上がりになっている草原からは、街の家の屋根が絨毯の様に敷き詰められた風景が見渡せる。
家々を見下ろす程の高さは無いが、目線の高さが家の屋根より少しだけ上な分、遮蔽物が少なく遠くまで視界が開けた。
「ふう。着いた~」
「到着~」
二人で短く言うと、先ほどまでじゃれていた余韻が再び二人を笑顔にした。
それから、俺はレティと午後のひと時を草原で過ごす。
いつものレティの弁当を広げ、舌鼓を打ち、何の飾りっ気も無い会話に笑顔を溢した。
また、以前の様に川で遊んだりして楽しい時間を過ごす。
そして。
二人の間には言葉も尽きて会話が無くなってきた。
いつの間にか夕日が遠くの山に差し掛かり、今にもその全容を隠さんとしていた。
柔かな、永遠とも感じる時を二人で感じながら、俺は意を決してレティに告げる。
「レティ……」
「……ん……」
レティも俺が何を言おうとしているのか、空気を感じ取った様に緊張していた。
「俺が、大会で優勝したら……」
「……うん……」
甘い空気が辺りを漂い、優しい風が頬を撫でて、レティの美しい髪が草原の上で緩やかに靡く。
「俺と……」
「………」
無言のレティに、俺の鼓動は爆音を掻き鳴らす。
およそレティも同じ気持ちだ。
初秋の暖かな空気が、そんな二人を優しく包み込んだ。
「……結婚してくれ」
一瞬の沈黙が辺りに広がる。
そして、レティがゆっくりとこちらを向くと。
「はい……」
美しい瞳に俺が映った。
そして、赤く潤う愛らしい唇がそっと閉じる。
俺は鼓動が高鳴ったまま上体を傾けた。
レティも鏡の様に此方に傾き。
二人は引き寄せ合い。
ゆっくりと瞳を閉じたレティの唇へ。
そっと口付けをした。
夕日は沈みきる最後の力を振り絞る様に、山の頂上から一際輝きを放つ。
二人はその光に包まれて、口付けをした影を残す。
ゆっくりと離れる二人に合わせて、互いに恥じらう顔を隠す様に、光は彼方へ消えていった。




