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「ち、ちょっとセグ。仮にもムーアはアレだよ?そんな言葉遣いしてたら……」
グルゴは堪らず口を挟む。
「良いのだグルゴ。朕が……あ、いや、私がそう望んでいるのだから」
心配するグルゴに、ムーアはそう言って楽しそうに微笑む。
「なに?ムーアは皮肉や責められる様な言葉責めが望みなのか?」
俺がさらに冗談を重ねるが、グルゴの内心は張り裂けんばかりの鼓動を打っていた。
端から見ていてヒヤヒヤものだ。
「なっ!?そんなはずなかろう!私は至って普通だ!」
「あはは!ムキにならなくても冗談だよ。じゃあ、どこから話そうか。……あ、そう言えば、この話はレティにも話してなかったかな」
「えっ!?私にも話してない話があったの?それ聞きたい!話して話して!」
何やら腑に落ちない様子のグルゴは、俺がムーアに失礼な事を言う度にヒヤヒヤしながら、旅の話も耳に入らない様子で聞いていた。
それから、レティにも話した話も一つ聞かせて、喫茶店での四人の時間は過ぎていった。
「……はあ、面白かった」
話を終えると、レティがそう言って満足そうな笑顔を見せる。
「セグの旅の話は一度や二度じゃ聞きあきないわ」といつも言ってくれるのだが、今回も例に違わず楽しそうに聞いてくれて、
レティが続ける。
「……じゃあ、そろそろ皆の飲み物も無くなったし、ちょっと遅くなったけど、これから皆も自然区の草原でランチでもいかがかしら?」
レティがそう言って、皆の顔を見渡す。
「おお!それも良いな。私も招待に預かろう」
「僕も!レティの料理なら、喜んで頂くよ」
「おいおい、そろそろ二人も忙しいんじゃないのか?」
俺は、只でさえ二人の時間を半分とられて、少しムキになった。
「ハハハ!セグはレティと二人で楽しみたいらしい。そう言う事なら、私は戻っても構わんぞ!?」
「ああ!そう言う事か!」
今度はムーアが仕返しとばかりに俺を弄る。
グルゴも幼い子供の様に囃し立て、俺達を煽った。
「ち、ちょっ、そう言うんじゃねーから!」
「……えっ?セグはそうじゃないの?」
慌てて誤魔化す俺に、レティが放った言葉が衝撃を与えた!
えっ!?
ええっ!!?
今、レティは何を聞きたがってるんだ!?
それってつまり……!?
「……えっ!?」
俺は言葉に詰まって思わず疑問符を返す。
「ほら、レティはそういうつもりじゃん!」
グルゴが明るく俺の背中をドンと叩く。
「フフフ。二人はお似合いだからな。私も二人の事は応援したい」
ムーアもレティの横で俺に笑顔を向けてきた。
もう、二人にもバレバレなのだ。
俺がレティに気持ちを寄せている事に。
レティをグルゴに任せて、俺はムーアと共に精算のためにレジへ向かう。
「さっきの、何だよあれ。ムーアからしたら、それこそ婚約者候補の一人が居なくなっちゃうんじゃないのか?」
王族は、正妻には国内で男爵以上の爵位のある貴族から配偶者を得る事が決められている。
つまり、国同士の政略結婚等は、一切正妻には迎えない。
なぜなら、王族にはホビットの純血を受け継がせると言うのがこのホビットの聖域たる国が定める決まりなのだ。
それに伴い、王族との婚姻が認められている男爵以上の貴族も、他種族との配偶を良しとはしない暗黙のルールの様なものがあり、他種族との配偶をした場合、その者への爵位継承権も剥奪される事になる。
話は逸れたが、現在オーリーでの男爵以上の貴族と言えば、俺達の世代には女性が少ない。
数えれば、王の年の前後五年以内には、俺と同い年である北方伯の娘のレティを除けば、後は二十五歳になった既婚者で一人の子持ちである南方伯の娘と、俺達の一つ下の、今年十九歳になる北東辺境伯の娘。
モーリテン聖騎士団の長であり、闘技と平和の女神を奉るレイア教団枢機卿の娘は今年二十二歳になる。
最後に一番王の妻として有力だとされているのは、王と同い年で現在最年少領主となっている、現中央公爵の四人だ。
「私には公爵のフィズが居るさ。セグは私の事より自分の事を考えよ」
ムーアは世論に従い、自分の意思を棄てて国民の声に応えるつもりだ。
中央公爵家と言えば、現公爵は女性ながら男勝りな判断力と器量をお持ちだと聞いた。
気も強く、確固たる信念に基づいて的確な采配を振るという。
ムーアはそんな気の強い女性より、自らが守ってあげたいと思える、物腰柔らかな女性が好みだと以前話していた。
その好みから言えば、レティは理想的だろう。
後は、北東辺境伯の娘辺りか。
「そうか。それなら安心した」
俺はそう言って、店員に料金を支払う。
ちなみに世論では、レティは二番手に有力とされている。
北方の統治は素晴らしく、北東辺境伯との連携も巧く執りながらエルフの国、エルフェン・ローゼリアとの貿易窓口を担い、グルゴが住むドワーフの地下国、ルード共和国との共生を維持しつつ、且つエルフェンとオーリーの国境付近にあるコボルドの地下領地の牽制も維持している。
治政の多くはレティの父が担っているものの、近隣諸侯との交友やエルフェン、ルードとの外交等は基本レティが纏めていた。
つまり、レティもこのメイデンには一年の半分も居ないのだ。
幸い、馬車を用いれば北方へは片道およそ一日で行ける。
それに、部下の外交官を勤める男爵や勲功爵等は北方領地に滞在しているので、テレパシーを使えば大抵の事は指示できる。
レティのメイデンでの公務は、主にその連絡と申請等の書類の取り纏めだった。
そんな容姿端麗で器量の良いレティが、国王の正妻に有力とされているのは致し方ない事なのだ。
だが、この時の俺には、心の片隅をチクチクと刺されるものが大きくなっていた。




