―27―
親には申し訳ないが、俺は俺がやると決めた事を譲らない。
旅も、親に止められようと押しきって、こっそり抜け出してでも行くと決めたら行くのだ。
それをよく解ってくれているのも、やっぱり母だった。
俺はそんな母に感謝しつつ、外で待つレティに声をかけた。
「お待たせ」
「もー、遅いじゃない」
怒っていると言うよりは訴えてくる様に、家から出てきた俺にレティが言う。
「え?でも、時間は守っただろ?」
「何言ってるの?一分遅刻よ」
は?
だって、さっき部屋で時計を見たときにはまだ十五分くらいしか経ってなかったはずだろ?
てか、一分って、そもそもいきなり来といて一分くらいは多目に見てくれよ。
こっちはこれでも急いだんだから。
そんな思いも、反論するのもめんどくさいから、心の中に納めておく。
「……ほら、あの時計台で時間を見てたんだから」
確かに、街の中央にある時計台の時間がここからだとよく見える。
たが、元々の時間が何時を指していたか解らない以上、どれだけ経っているかも俺には解らない。
まあ、さっきも言ったが別に明日も付き合う事なら構わないから、ここは素直に謝っておくか。
「……ごめん。じゃあ明日も付き合うよ」
俺はそう言って頭を下げる。
ところがレティは。
「え?良いの?冗談だったのに」
悪戯な笑みを浮かべてそんな事を言った。
アレスはレティの少し後で困った顔で苦笑いをしている。
「……は?」
俺は思わずそう返していた。
「だから、冗談よ。時間には間に合ってたわ。ちょっとセグを困らせてみたかっただけ」
語尾にテヘペロでも付いてるかのように、ウィンクしながら笑みを向ける。
「……はあ。なんだ、間に合ってたのか。なら良かった」
俺は一呼吸入れてそう言うと、川のある北東へ向けて、先ずは道なりに北へ歩き出す。
それを見たレティは。
「ほら、やっぱり怒らない」
と声に出した。
「……ん?」
俺はハッキリと聞き取れずにそう返す。
するとようやく動き出して俺のすぐ後ろに小走りで近づいたレティが話始めた。
「なんかセグって、最近私が突然来てもその度に急いで仕度して相手してくれるし、こうしてセグが悪いと決めつける冗談を言っても怒らないでしょ?」
「……まあ、そうだな」
話の途中で疑問文を投げ掛けるレティに、俺は素っ気なく答える。
そんな俺の横に並んだレティは。
「セグって、強いのに優しいのね」
そんな事を言われて嬉しくない男は居ないだろう。
俺も、そんな男の一人だった。
でも、今回はただ素直に嬉しいだけで終われない。
「そうでもない。俺にだって怒るときはあるよ」
「そうなの?」
「ああ」
「どういうとき?」
「それはな……」
今みたいに、俺の人間性の様なものを試された時だ。
さっきの俺が時間に間に合わなかったという冗談のくだりは、今の話から察すればレティが俺を試したと言う事だ。
あくまで一例で、他にも怒りたい時はあるが、その多くはその時になってみないとわからない。
ただ、今、まさに直面している”俺を試す行為“が、今の俺がパッと思い浮かぶ怒りたい出来事だった。
だが、相手は女の子だし、本当に怒ったりはしない。
「……今みたいに俺を試す様な事をされた時だな。でも、今は別に怒ってないから安心して良いよ。ただ、試されるのはすごく嫌なんだ。何故なら、その時の状況や事情、心情とかによって結果がいつもと変わるかもしれないのに、その試した時の結果だけで全てを決めつけられるのが嫌だから。現に今も、多分レティは俺の事を勘違いしていると思うよ」
「そ、そうだったんだ。ごめんね」
俺は、嫌な事を笑って説明する気にもなれなくて、ちょっと冷たい感じになってしまった。
それを怒ってると思ったのか、レティは慌てて真剣に詫びる。
「い、いや、本当に怒ってないから、別に謝らなくても良いよ。ただ、今度からはそう言うのは無しでね」
レティが悪い子ではないのはよく知っている。
悪気があった訳でもない事も解っている。
だから、レティの詫びに努めて笑顔でそう返した。
「わかった。気を付けます」
「うん、お願いします」
互いに、フランクなんだか丁重なんだかわからないやり取りをして、ようやくレティにも笑顔が戻った。
すると。
「じゃあ、改めついでに訂正しておきたいんだけど、さっきセグが言った私の勘違いって、何?」
「あー、それね。それは、言いたくないな」
思い出した様に言うレティに、今度は俺が悪戯な笑みを返す。
「なんで?」
「だって、言わない方が俺がレティに良く思われてるはずだし、言ったらレティに嫌われちゃうかもしれないじゃないか」
言っても多分、嫌われたりはしない。
レティはそう言う子だ。
「なによソレ。私はセグの事をちゃんと知りたいの。教えてくれないなら、川に着いてもお弁当あーげない!」
と、舌を出してプイッとそっぽを向いて見せた。
「教えないなら嫌いになる」とは言わない辺りが、やっぱり俺の見てきたレティそのままだった。
俺は、そんなレティに「……仕方ないな……」と前置きしながら、勘違いについて話し始めたのだった。




