裏話,魔獣襲来とエキナセア 1
今回は少々グロイ…グロイというか、人によっては気分を害する可能性があります。
あと読みづらいです。いつもですがいつもより。
この話は飛ばしてもらっても本編には支障がないので、嫌だなぁと思ったらブラウザバックお願いします。
アオイちゃんがクリソベリルのところに通い始めて1週間ほどが経った。
コガネちゃんはカウンターに座って遠くを見るような目でサクラちゃんをモフモフしている。
アオイちゃんがいなくて寂しいのだろう。
「……ふふ。可愛いな」
その姿を庭から見つつ、井戸から水を汲む。
エキナセアの庭には井戸と小さな畑があるのだ。
畑では食用の野菜と薬の材料と育てている。
井戸水を汲み、材料であるハリシコドロ(毒草)を摘んで作業部屋に向かう。
アオイちゃんがいないことによってコガネちゃんのやる気が激減しているが、あの子は仕事はちゃんとやるから大丈夫だろう。
私はさぼり癖が抜けなくて駄目だ。
「さーてと。どこに置いたっけねー?」
呟きながら必要なものを探す。
整理されていないわけではないのだが、やはり普段使わないものはどこにしまったか忘れてしまう。
まあ、多分いつもの棚に入っているだろう。
「おー。あったあった」
やはりいつもの棚に入っていた。
置き場に困ったら何でもここに入れるのは私の悪い癖だが、楽だから直らない。
直す気もないのだが。
……いいじゃん、別に。楽して何が悪い。
楽すなわち効率化だ。
そんな言い訳がましい自論を唱えつつ、鍋に水を張る。
火をつけて水が沸騰するのを待ちながら、ハリシコドロを薬研ですりつぶしていく。
今作っているのは「死者との再会」という薬……というより毒だ。
「まったく……こんなもん何に使うんだか」
呟きながらほかの材料も加えていく。
「死者との再会」は、相手に死者の幻覚を見せる薬だ。
危険なので店には置いておらず、こうして注文が来たら作る。
ちなみに作り方は「古の書 霊」に乗っている。
エキナセアに置いてある薬学書の内容は大体暗記しているので、本を出す必要はない。
伊達に何年間も同じ本読んでるわけではないのだ。
すりつぶしたハリシコドロは沸騰中の鍋に入れ、薬研には聖水をかけて成分を洗い流す。
聖水をいつもの樽に捨て、乾いた布で薬研を拭く。
薬研を定位置に戻し、箱から乾かしたセンキンカを取り出す。
それを薬研で砕く。
粉末状になったら鍋に入れ、軽くかき混ぜる。
「さて……」
次の作業に移ろうとしたとき、遠くに強大な魔力を感じた。
距離はまだあるが、明らかにガルダへ向かっている。
もう少し近づけばコガネちゃんが気付くだろう。
そんなことを考えながら作業を再開すると、作業部屋の扉が開かれた。
「店主!」
「あら、どうしたのコガネちゃん」
「何か来る!おそらく魔獣だ」
「……あらあら…………よし、コガネちゃんはアオイちゃんのところに行ってなさいな。そうしたいんでしょう?」
「うん……店主は?1人で大丈夫なの?」
「大丈夫よ。魔獣はアオイちゃんを狙うだろうから、ここに居れば被害はないわ」
「……なるほど。行ってくる!」
「気を付けてね」
コガネちゃんはサクラちゃんとモエギちゃんを呼び、コガネ君に姿を変えて走っていった。
私はそのまま作業を続ける。
面倒だから作り直したくないのだ。
それに、ここは安全だ。
「……でもまあ、正体は気になるよね」
1人呟いて、死者との再会を作る手は止めずに魔力を飛ばす。
飛ばす先は部屋の隅の箱。その中にある飛行型の魔道具だ。
少し前に戯れで作ったものだが、性能は悪くない。
「さぁて、どんな子かな?」
言いながら魔道具を飛ばし、魔獣に接近させる。
魔力認識阻害とか色々かけてあるからばれない筈だ。
ばれて壊されてもまあ、仕方ないだろう。
「飛行型、人型か……元は魔人かな?翼でかいな」
片翼2,3メートルはありそうだ。
外見が分かれば後は魔力を飛ばすだけで大体のことは分かるだろう。
そう思って魔道具を戻ってこさせる。
なんだかんだ使い勝手がよさそうだ。今度改良しよう。
戻ってきた魔道具を元の場所にしまい、魔力玉を作って飛ばす。
魔獣の内部に軽く侵入させて頂いて魔力の欠片を入手。
魔力玉の中に保存し速攻で帰宅。
オーケーオーケー、ミッションコンプリートだぜ。
とか思ったのだが、さすがに気付かれたらしく吠えられてしまった。
……まあ、ちょうど国を囲む塀の所だったから、私の所為ではない可能性も十二分にあるよね☆
そうゆうことにするからね☆(威圧)
「さてさてさぁて……」
面倒になったので木べらに魔法をかけて勝手に鍋をかき混ぜるように細工をして、魔力玉の中の欠片を取り出す。
少しばかり魔力操作をすると、絡まっていた糸が解け、元の1本の状態になった。
この魔力操作の事を魔力分解または魔力解剖という。
私は昔からこの作業が好きだ。
錬金術を学ぶ上で最初に覚えるべきもので、最も奥が深いもの。
「……む。見えにくいなぁ……」
魔力分解は済んでいるが、欠片の中の記憶は白い靄がかかっているようでよく見えない。
完全に見えないわけではないが、見るなら綺麗な方がいい。
「私の色変魔法が原因か?なら解くか?」
1人でブツブツ言いながら自分自身にかけていた魔法を解く。
目の部分だけだが。
これ、維持するのはどうってことないけどかけ直すの面倒なんだよね。
「おお、見える見える」
目の色が本来の色に戻ると共に、見えにくかった記憶は鮮明に見えるようになった。
まず見えたのは草原と2人の男女。
次に見えたのは焼け野原。
その次は最初に見た女性が、最初に見た男性に石を投げられている姿。
最後は地の果てで女性が力尽きようとしているところ。
「……なるほど。いやはや、人の思い込みは悲劇を生むねぇ……」
あの魔獣はフィアナという女性だ。
女性は獣人の男性と恋仲だった。
女性は魔人だったが、男性と男性の住んでいた村の住人は彼女を否定せず、居場所を与えてくれた。
ある時、村を食糧難が襲った。魔力の流れが変わったからだった。
女性は魔人であるが故に魔力を感じることが出来る。
女性は男性に魔力の流れが変わったこと、畑の場所を変えれば作物は育つことを告げた。
男性はそれを村長に告げ、村長は村人に告げて村人全員で畑の大移動をした。
畑の場所を変えると、作物は良く育ち、村は食糧難から抜け出した。
村人は女性に感謝し、女性は村の一員になれたと感じて喜んだ。
女性は魔人であるが故に村に来るまでずっと1人だったのだ。
畑の場所は2,3年ごとに変わった。
村のある場所は魔力の流れの速い場所だったのだ。
だが、女性の言う場所に畑を作れば作物は良く育った。
女性は村を襲った魔獣を倒した際に呪いを受けて足が動かなくなっていたが、村人は育てた作物を彼女の所へ持ってきてくれた。
天候が荒れるときは事前に察知して知らせてくれ、畑の位置も詳しく教えてくれる女性は、村にとってなくてはならない存在だった。
ある年、女性は今までにない大きな流れの変化を感じた。
このままではいけないと感じ、女性は男性に頼んで魔術も準備を始めた。
魔術とは、古く強大な、魔法を超えたものである。
女性は魔人であるが故に人では知りえない魔術も知っていた。
女性は村が魔力の流れから外れるのを防ごうとした。
魔力の流れを少しでいいから呼び寄せようとした。
女性は村が好きだった。
危険なことだとは分かっていたが、自分にできることはすべてやりたかった。
女性は間違いがないように丁寧に準備を進めたが、たった1つだけミスをした。
空洞花という花にそそぐ魔力を間違えたのだ。
たったそれだけ。ほんの微かな間違い。
だが、魔術にとってはその微かな間違いが大きな違いになる。
村に命の水を呼ぼうとした彼女の魔術は、村に死の炎を呼んでしまった。
死の炎は村を飲み込み、飲み込んでなお余りある魔力は女性に注ぎ込まれた。
村人は炎に焼かれた。
そして苦しみながら、女性を呪いながら死んでいった。
ただ1人、男性だけは生き残った。
女性のそばにいたことで、炎から逃れたのだった。
男性はこれはすべて女性が仕組んだことなのだと思った。
女性に魔力が注ぎ込まれるのを見ていたからだ。
男性に責められ、石を投げられても女性は否定することが出来なかった。
女性は、自分が魔人であるが故に疑いが晴れないことを知っていた。
男性は女性を呪った。
ここから消えろを叫んだ。お前は悪魔だと叫んだ。
女性は魔法で自らの身体を浮かせ、焼け野原となった村を去った。
女性は魔力が尽きるまで飛んだ。身体を浮かせ、風を吹かせて飛び続けた。
魔力が尽きた後は腕の力だけで這って進んだ。
そうして辿り着いたのは地の果て、魔界に最も近い場所だ。
女性はそこで息絶えた。
最後に思ったことは、
「私は村を救いたかった。それだけは、信じてほしかった」
という思いだった。
気が付けば、女性は魔獣になっていた。
背中からは大きな翼が生えていた。
女性には最早人の思考は残っていなかった。
残っていたのは、獣人に信じてほしかったという思いだけだった。
ここまで読んでくださった方はヒエンさんの正体に気が付いたのでは…?(←ネタバレ大好き人間)




